3日前
「殿下は2年生に進学するし、シャリアーゼ様は新入生ですから、あまり学園で顔を合わせることはないでしょうけどね。校舎も別ですし」
なんですって?私の寿命チェックが!
「いいんだよっ!昼は一緒に食べるんだから。な?シャリアーゼ。毎日一緒に食堂に行こう。教室に迎えに行くから!」
毎日昼ご飯を一緒に?それで、私の寿命を戻せるヒントが見つかるの?
「夕食もご一緒できませんか?毎日とは言いませんが、公爵家の寮にお招きいたしますわ」
「もちろん、俺んとこにも来てくれ……と言いたいが、毒が盛られるような屋敷に招かれるのは嫌か?」
「ふふっ、大丈夫ですわ。マーカスがしっかり毒味してくださるんですよね?毒を盛られていても死ぬのはマーカスだけでしょう?」
私の言葉に、殿下が笑いながら答える。
「ああ、確かにな。マーカスが犠牲になってくれる」
マーカスが慌てて両手を振った。
「ちょ、殺さないでくれる?」
「ふふふふ」
「はははは」
慌てふためくマーカスに私と殿下が声を上げて笑う。
「メイさん、殿下とシャリアーゼ様が私のことを殺そうとしてる……」
涙目でメイに助けを求めるマーカス。
「ちょっと心配ですわね……」
「メイさんは、私の身を心配してくれるんだ!なんて優しい!」
「……殺しても死ななさそうなマーカスさんは、毒をちょっとくらい飲んでも平気そうですし……毒味として役に立つんでしょうか?」
殿下が腹を抱えた。
「あははは、それは盲点だった。確かになぁ!マーカスなら俺の3倍くらい毒を盛らないと死ななさそうだもんな!あはははは」
「だ、大丈夫ですよ、だいたい私が毒味する前に3人の毒味係がいるでしょう。私が毒味するのは味見みたいなもんですからっ!」
なんかいいなぁ。こういうやり取り。
このまま、私と殿下とメイとマーカスと4人で楽しく過ごせたら幸せかも。
「すまん、シャリアーゼ。南部ガルーシア地域で土砂崩れが起きて街道がふさがったと連絡があった」
学園入学を3日後に控えた朝食時に父から伝えられた。
「王都と港を結ぶ重要な街道になる。早急に復旧させるか、それとも別の道を開かねばならぬのか現場からの報告だけでは分からない部分もあるため、視察に行くことになった」
それは大変だ。
港から王都に運ばれる品には、生活必需品も含まれている。塩もその一つだ。不足して価格が高騰すれば、その影響は計り知れない。
「片道で1日、視察に1日、帰りに1日。最短でも3日はかかるだろう……学園入学前にもっとシャリアーゼと一緒に過ごしたかったんだが……
申し訳そうな顔をするお父様。
……正直なところ、学園に入学してお父様とたまにしか会えなくなるのはすごく寂しい。
あと3日かぁと思っていたのに、急に今日が学園入学前の最後だなんて、涙が出そうだ。でも、ここで私が泣いたらお父様がもっと申し訳ないと思ってしまうだろう。
「私も、寂しいですが……。学園に入学しても、1~2か月に1度は家に戻ってきますわ。手紙も書きます。今は少しでも早くガルーシアの街道の復旧の道を模索してください」
「ありがとう、シャリアーゼ」
食事を終えて、お父様が立ち上がる。
私も立ち上がると、すぐにお父様が私を抱きしめた。
「シャリアーゼ、行ってくるよ」
強く抱きしめられる。私もお父様の温かい背中に手を回してぎゅっと抱きしめ返した。
「はい、行ってらっしゃいませお父様」
ぽんぽんと、お父様が私の背中を優しくたたいてから、体を離した。
お父様から手が離れる瞬間、数字が目に飛び込んでくる。
え?
お父様の寿命が……0。
どういうこと?
お父様が歩きだすと、その後ろに補佐官と書記官が続く。
「ま、待って、お父様っ!」
慌ててお父様を追い、手を伸ばすと補佐官に体が触れた。
0。
補佐官も、0?
どういうこと?
まさかと思って、書記官の体にも肘をそっと当ててみた。
0。
何、いったい……!
「お父様っ」
声をかけると、お父様が振り返った。