一安心
初めのうちは毎日のように殿下との手紙のやり取りは続いていたけれど、そうなると手紙を届けるマーカスが毎日往復しなければならなくて大変だろうと、途中からは2日置きとなった。
……不思議なことに、暗号ではないと思ってもらう手紙は、どんなに短くてくだらない内容でも読むのが楽しみになった。
そして、瞬く間に半年が過ぎた。
「早いものだなぁ。もう来月にはシャリアーゼも学園に入学だね。楽しみだ」
殿下の寿命があれから短くなることは無い。
ジェフがすべての黒幕だったのだとしたら、これで殿下を狙う者も排除できたと考えていいのか。
完全に警戒を解くわけにはいかないにしても、少しずつ平静を取り戻していた。
「いやぁ、本当に、殿下はシャリアーゼ様の入学を心待ちにしてるんですよ。学園に入学したら毎日会えるって想像してニヤニヤしていますよ」
「マーカスっ!お、俺はニヤニヤなんて」
「ああ、ニタニタでしたっけ」
「マーカスっ!お、お前こそ、お茶会前は、メイに会うのを楽しみにそわそわしてるじゃないかっ!」
え?
マーカスはメイのこと?
ロマンス!と、メイの顔をワクワクしてみると、メイは眉根を寄せた。
「私に会うことではなく、私が持ってきたお菓子を食べるのを楽しみにしていらっしゃるんですよね」
「そう、メイさんの選ぶお菓子はいつの最高!味見します、味見!」
メイが、きっとマーカスをにらんだ。
「味見じゃなくて、毒味でしょう!」
「そうそう、毒味だ。美味しい毒味。殿下のために毒味をしますよ!」
メイがはぁーとため息をつき、お菓子の準備を始めると、マーカスが小躍りを始める。
マーカスはジェフと全く違うタイプだけれど、だからこそ殿下の心が救われているんだろうなとも思う。
いまだにジェフの消息は分からないらしい。どこかで人知れずこと切れているのか。隣国に逃れたのか。何も分からないらしい。
すでに、過去のこと……だ。
と、完全にそう言えるようになるといい。
本当は、しっかり罪を償ってもらわないといけないんだけど。二度と姿を見たくない気もする。
また命を狙われてもたまらないし。
でも、学園にいる間は、毎日殿下の寿命チェックができるから、もう遅延性の毒など入れさせないけどね!ふんすっ。
マーカスも今ではしっかりちゃっかりたっぷり毒味をしてるようなので、即効性の毒も盛れないし。
あとは毒以外、刺されるとかは厳重に警備されてるし、マーカスはああ見えて相当強いらしいので大丈夫。
一安心。
もう、大丈夫。きっと……。
って、殿下が大丈夫でも、私がぁ、大丈夫じゃなぁい!
学園生活の間に、何とか寿命が戻るといいけど!何をすれば寿命が取り戻せるの?
なんか一瞬だけ戻ったタイミングがあったよね。あれは何だったんだろう。今度こそ、その一瞬を永遠にするんだ!
今のように、1~2か月に1度会うだけじゃだめでも、学園で毎日一緒にいれば寿命が戻るタイミングにもっと遭遇するはず!
戻らないときのために、殿下に真実の愛が芽生えるように応援しつつ、寿命を全力で戻す方法を探す。
「学園生活……楽しみですわ。早く始まらないかしら……」
「そっか。シャリアーゼも俺と一緒に学園通うのそんなに楽しみなのか!」
殿下が嬉しそうに笑うと、マーカスが突っ込む。