白紙を燃やす
「そ、そういうことは、その、マーカスが口にすることではないと……!」
話が飛躍しすぎてるっ。どうしてそうなるの?
き、嫌いじゃないけど。なんか、私が殿下のことすごく好きみたいに聞こえる……。
「あ、そうですよね。人から言われる話じゃないですよね」
マーカスがうんと頷いた。
「で、結局、この白紙を持ってきた理由を教えてもらえる、マーカス」
もう、やめて!これ以上この話を続けるのは、無理。なんか、無理。
「ああ、そうでした。殿下が、もしかしたらシャリアーゼ様は手紙を毎日送られるのは迷惑しているんじゃないかと気にし始めたので、その確認を。直接会ってお聞きしようと思いまして」
「迷惑はしていないけれど、その、暗号文だと思っていましたし。情報交換は大切だと……。でも、手紙だったんですよね……」
「ラブレターです」
マーカスが私の言葉を訂正する。
「殿下から、毎日ラブレターを届けられて迷惑ですか?本当のことを教えてください」
殿下からのラブレター……。
すべて残してはまずいと思って、全部焼却処分しちゃったけれど……。本当にラブレターだったの?
暗号出なかったとしても、内容は甘いものじゃなかったと思うけれど……。
「えーっと、なぜ私が迷惑しているかもと殿下は思ったのでしょう?」
「それは、返事が短いので」
「……暗号文だと思っていたので。暗号で返していたので、どうしても短くなっていただけです」
「では、迷惑じゃないんですね?よかった。もし迷惑なんて言われたら、マーカスが手紙を出せ出せ言ったせいで嫌われたじゃないかと言われるところでした……あーよかった。では、急ぎ殿下にお伝えするので失礼いたします」
マーカスは帰って行った。あっという間に。
「……ラブレター……本当に?これも?」
残された白い紙を見る。
メイが苦笑いする。
「マーカスがそう思っているだけじゃないでしょうか。さすがにあの内容でラブレターというのは……。ほら、シャリアーゼ様も私も暗号文だと勘違いしたくらいですし……。マーカスも勝手に勘違いしているだけで……」
「そうよねぇ。メイの言う通り、私もそう思うわ……。マーカスもそのうち分かるわよね?」
さすがメイだ。殿下が「おまえでいい」と婚約したことから何でも知ってるもの。
メイがため息をついた。
「もし、本当にラブレターのつもりなのだとしたら、猛特訓が必要ですよ……参考になりそうな小説をいくつかマーカスに持たせるべきでしょうか……」
メイが、何やらぼそぼそと独り言を口にする。
白紙の紙を持って暖炉に向かう。
「え?シャリアーゼ様、それも燃やすんですか?暗号じゃないと分かった……というか白紙なの焼却しなくてもよいのでは?」
メイに言葉を返しながら紙を暖炉の中に入れる。
「むしろ白紙だからよ。王家の透かし入りの白紙の紙よ?王室を語った偽文章を作って悪用できちゃうわよ?下手したら戦争すら起こせそうでしょ?」
メイがぶるるっと震えた。
それから火かき棒を手に取る。
「お嬢様、しっかり燃やさないと」
投げ込んだ紙は火から外れた場所に落ちていた。
ところどころ焦げて茶色くなっているし、そのうち火が着いて燃えるでしょうと思ったけれど、メイは戦争という言葉にびっくりしたのか今すぐ燃やしてしまおうと火かき棒で紙を突く。
「あら?シャリアーゼお嬢様、濡れたら燃えにくいと思っていましたけど、レモンの汁が飛び散ったところが先に焦げて燃え始めているように見えますね?」
言われてみれば、焦げている部分は、何かが飛び散ったような形になっている。
「不思議ね。レモンの汁が付いたところだけ焦げるなんて……」
逆なら分かるのに。濡れているところだけ燃えるのが遅いなら……。