白紙の手紙
次の日の殿下からの手紙は少し長かった。
……これは、もしかして、返事を早くもらい過ぎるから、殿下にもうちょっと長い手紙を書いてくれとマーカスがお願いしたのでは?と思わず疑ってしまった。
『頑張らなくても、俺はとっくに……。そうだ、今日は授業で馬術で競い合ったんだ。学園所有の馬だ。愛馬にばかり乗って、他の馬の扱いができないのでは困るということで学園所有の馬を使うんだ。しかも、扱い辛い馬も中にはいる。気性の荒い馬や、のんびりして動きが緩慢な馬までいろいろと。気分屋の馬もいるよ。その中で――』
ずいぶん長く馬の話が続く。
……これも暗号?
確かに、馬に馴れるようにと、私は馬扱いされていた。
愛馬にばかり乗っていては……というのは……。
は!学園所有の馬というのは、学園に通う女生徒のこと?
もしかして、他の女性に目を向け始めたということを伝えようと?
『初めて乗ったにしてはなかなか相性が良く、上位に食い込むことができたよ』
……初めて会話した女性だったけれど、相性がよさそうで、側室候補上位だと思ったということ?
胸の中で石と石をこすり合わせたようなザラリとした感じがする。
なんだろう、これ……。
不安?正室と側室……関係が上手くいく場合ばかりではない。むしろ対立することが多いと歴史が物語っている。
それに対する不安?
何を今更。
左手を胸に当てながら返事を書いた。
大丈夫。私はきっとうまくやるわ。私が亡くなった後は側室になった人に殿下を支えて貰わなければいけないのだもの。
手紙を書く手に見える数字は15。
『応援するわ。私もどのような馬とも仲良くできるように頑張る』
さすがに殿下を不幸にするような相手ならば排除のために動くけれど。殿下を幸せにしてくれる相手であれば、応援する。
もし、位の低い女性ならば、私が盾になって側室候補を守ってあげないと。
不安を感じている場合じゃない。
私は公爵令嬢だ。貴族としての務めがある。皇太子殿下と政略結婚するのも、私の務めだ。国の存続のために世継ぎを残すのも。……15年しか生きられず、務めを十分に果たせないなら別の手段で務めを果たさなければならない。
国が荒れることが無いように。
「メイ、お願いね」
手紙をメイに託す。
翌日にも殿下から手紙が来た。
『シャリアーゼは乗馬もするんだった。でも、学園では女生徒は乗馬の授業はないよ。残念ながら学園の馬とシャリアーゼが触れ合う機会はないんじゃないかな』
え?
これって……。
側室選びに口を出すなってこと?
学園の馬と触れ合うなというのは……。女生徒と接触するなって?
どうして?
私が、側室候補とうまくいかないと、そう思っている?
まさか、物語の悪役令嬢のように、殿下に近づくなんて身の程知らずよ!といじめるとでも思っている?
『殿下を悲しませるようなことはしません』
ちゃんと役割を果たします。
悲しい気持ちは、殿下に疑われたからだろうか。
次の日、手紙を運んできたマーカスが面会を求めてきた。
「シャリアーゼ様、どうぞ」
手紙を渡された。
いつも殿下が用いている、王家の紋章の透かしが入った紙だ。
開くと、手紙には……。
「白紙?」
何も書かれていない。
これは……。
意味することは……。