真実の愛
毒味って、少しずつ慎重にするものじゃない?もし本当に毒が入ってたら、あんなにたくさん口に入れたらまずいよ……。
マーカスはごくりとお菓子を飲み込むと、幸せそうな顔で笑った。
「いやぁー、本当にメイさんが選んだお菓子は美味しい」
満面の笑みを見せられて、褒められたメイは一瞬言葉を失うも、すぐに我を取り戻した。
「マーカスさん、毒味というのは、そのように大口を開けて食べるべきではありませんっ!万が一ということを考えて匂いや見た目を皿を持ち上げてチェックしたあとに、スプーンで少量を取って」
ほっ。メイから指導してもらえば大丈夫よね。
厳しくメイに叱られているというのに、マーカスはニコリと笑った。
「メイさんの用意した物なら大丈夫でしょ」
メイが、その曇りのない笑顔にうっと言葉に詰まる。
「そういうことではありませんっ!」
「え?でも、せっかくのお菓子をそんなちまちま食べたらおいしさ半減じゃないですかっ」
「マーカスさんっ!」
二人のやり取りを、殿下は無視することに決めたらしい。
「毒味も済んだみたいだから、食べよう」
「そうですわね。あれだけ満足そうな顔をマーカスがするのだから、きっとおいしいですわね」
今日は店長から教えてもらったお店まで買いに行ったらしい。
この国ではあまり扱われていないきな粉というものを使ったお菓子だ。柔らかいクッキーに、きな粉と砂糖を混ぜたものがまぶしてある。
「へー、これは食べたことのないおいしさだね」
「本当ですわね。砂糖を使っているのに、くどい甘さを感じないし、香ばしい風味が新しいですね」
二人でお菓子の感想を話しているあいだも、マーカスはメイに叱られている。
「ねぇ、二人は上手くやれそうね?」
「俺たちも上手くいってるし、良かったな」
殿下が私の肩を引き寄せる。
え?あれ?
私と殿下って、上手くいってるんだっけ?
寿命は殿下は79。私は15。殿下と婚約したことで15に減ったのに、この状態がうまくいってると言っていいものか?
ちょっと賛成しかねるんですけどね!
「シャリアーゼ?」
殿下の瞳が不安げに揺れる。
おっと。ジェフに裏切られたばかりの殿下を突き放しような態度を取るほど鬼畜じゃないよ。私。
「殿下、今、うまくいっているかどうかよりも、大切なのはうまくいくようにお互いに努力を続けていくことでしょう」
殿下が瞼を閉じ。それから頷いてから目を開いた。
「努力するから……シャリアーゼ、ずっと一緒にいよう」
ずっと一緒。そうね、今なら15年……。
私が死んだら殿下は悲しむだろうか。……何度も信じている人がいなくなるのは辛いことだろうな。
このまま私の寿命が戻らなければ、やっぱり殿下とは距離を取ったほうがいいんだろう。
私とは政略結婚。
殿下が小説のように「真実の愛」を見つけることができれば、私がいなくなっても殿下を支えてくれるはずだ。
できれば殿下のように長生きする人。
小説だと、学園で出会うんだよね。社交界だと私を常にエスコートしなければならないからなかなか出会うことは難しいだろう。
侍女などの使用人と道ならぬ恋という手もあるけれども、命を狙う人間がどこにいるか分からないのだからハニートラップを警戒しておいそれと手を出すわけにもいかないだろう。ってことはやっぱりチャンスは学園。
「殿下、学園生活で、その親しい女生徒はいませんの?」
「は?もしかしてシャリアーゼ、嫉妬か?」
違う。