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謝罪

「マ、マーカス?」

 チャラい感じの髪型をしていたのに、つるんと。すっかりつるんと髪が無くなっている。

 誰かがはげる呪いを?それもとびきり強力なのを?って、違う、頭を丸めたのか!

「も、申し訳ありませんでしたっ!」

 殿下の前にくると、すぐに土下座。

「もう、それいいよ、マーカス。もう10回は見た。飽きた」

 殿下の言葉にマーカスが顔を上げて私を見た。

「いえ、でも、シャリアーゼ様にお見せするのは初めてですので。申し訳ありませんでした!」

 殿下がマーカスの軽い言葉に呆れたような言葉を出す。

「もう、本気で謝る気ないんじゃない?土下座するのが楽しいだけでしょ?」

「ちょ、そんなはずないでしょう!本当に悪いことをしたと思って……牢屋に入るのを覚悟していたけれど、殿下のおかげで釈放されたことに感謝の意味を込めて、こうして婚約者でもあるシャリアーゼ様にもお見せしないとと」

 えーっと。

「マーカスは牢屋に入るようなことしたの?……殿下に毒を盛ったというのが本当なら、牢屋で10年は覚悟しないと駄目よね?」

 生きてたからよかったものの、死んでたら死刑。

「あのあと死んだ侍女に騙されていたんだよ。毒味が済んだ料理に、これを入れるようにって」

 殿下がポケットから小瓶を取り出した。

「王族は、幼いころから少しずつ毒を摂取して毒に馴れさせるから、これを入れるようにって。ジェフからの申し送りだって言われて信じちゃったらしい。単純だよね」

 マーカスがあははと、ばつが悪そうに頭をかいた。

「いや、だって、確認のために、毒に耐性あるかって殿下に尋ねたら毒の種類は言えないけど耐性のある毒は結構あるっていうから。それに、ジェフは毒の種類も知ってるって言うからさ。そっか、側近の仕事なんだって、納得しちゃったというか……」

 そりゃ、信じちゃうかも。

 って、いくら騙されたとはいえ、頭を丸める程度で許しちゃまずいのでは?

 私が思っていることが殿下に伝わったのか、殿下がふっと口を開いた。

「牢屋に入られると僕が困るからね」

 先ほど泣いた涙の痕がまだ残る殿下は、それでも痛々しいほどの作り笑いはしなくなった。

 ジェフが妹のためにという具体的には分からない理由で犯行に及んだと知ったからだろう。

 憎まれて、嫌われていたわけではなく、のっぴきならない何らかの理由があった。想像の域は出ないけれど、そう思うことで心が少し救われたのだろう。

 ふっと笑うと、マーカスを見る。

「他に側近を頼めそうな人も今はいないし……」

 そうか。たしかに。信じていたジェフが裏切ったのだ。安易に他の人を側近にしたとして簡単には信じられないはず。

 少しでも信じられそうな人間を探すのは大変なことだ。

「マーカスくらい、単純で人に簡単に騙される人間ならさ、人を騙すようなことはしないと思わない?」

 マーカスにも聞こえるような声で殿下が話をする。

「え?それはむしろ、賢くないくらいの方がいいというように聞こえますが……」

 思わず口にして、ハットする。

 土下座の姿勢のまま横に居たマーカスが涙目で顔だけを上げてこちらを見た。

「ひ、ひどい。まさか、そんな理由で殿下は……。馬鹿だと思われていたなんてっ!」

「ふっ。思ってない、思ってないから。頼りにしてるんだ。ほら、もう土下座なんていいから立ってさ。側近らしく毒味してよ」

 殿下が立ち上がって、マーカスの背中をぽんぽんと叩く。

「毒味!もちろん、喜んでっ!」

 慌ててマーカスは立ち上がった。

 いや、喜ばなくてもいいけれど。

「シャリアーゼの侍女のメイが用意してくれるお茶とお菓子はいつも最高に美味しいからね。俺より先に食べるなんて毒味役は役得だよね」

 殿下の言葉が言い終わる前に、マーカスはお菓子を大きな口で食べた。

 マ、マーカスさんっ!


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