犯人
「あ、大好きなお兄ちゃんが、殿下の側近になって取られちゃうと思って、殿下なんて生まれてこなければよかったのに!とか?」
はぁーっと、殿下が大きなため息をついた。
「そのころは俺の側近になるなんて話は出てなかったと思うぞ。お兄ちゃんを取られちゃうってなら、叔父上にだろう」
「確かにそうか……。じゃあ、どうして妹さんは、殿下を殺したいなんて夢を持ったんだろう?」
殿下がぷっと笑った。
「どうあってもシャリアーゼは、ジェフの妹が俺を殺したがっていたことにしたいんだな。ははは、ははは」
ぽんっと手を打つ。
「もしかして、夢を見たのかもしれません!殿下が国を亡ぼす未来を。それで、生かしておいては駄目なんですみたいな」
人の寿命がなぜか見える私だ。不思議な力について調べたことがある。時々本当に、未来視ができるとか不思議な力がある人がいるらしい。
「未来……俺が国を亡ぼす?」
殿下がふっと遠くを見た。
「なるほど……そうか……ジェフは、俺が嫌いだからとか、憎かったからとか、そういう個人的な感情で動いていたわけじゃないんだな……妹の……ため……か」
あれ?未来視の話で納得しちゃった?
「それどころか、殿下のこと殺したくなかったんだと思います」
「慰めならいいよ」
「いえ、だって、ありがとうって。バレたから自由になれる、苦しまなくてもいい、ありがとうって私に言ったんですよ?」
殿下のことを殺さないといけないという思いと、殺したくないという思いで苦しんでいたってことだよね。
「え?自由にって、何から?妹からってことか?」
あれ?そういえば、そうだ。何から自由になったんだろう。
「生きて行かなくてはいけないと言う呪縛からだろうか」
殿下の言葉に息を飲む。
妹の思いをかなえるまで死ぬわけにはいかないと思っていたけれど、バレてしまったらもうこれ以上頑張らなくてもいいって思ったってこと?
「そんな、じゃあ、ジェフは……」
もう、自ら命を絶って……。
そんな……。そんなもなにも、仮にも皇太子殺人未遂の主犯格なら捕まれば死刑は逃れられないのだから。
自分の意思で命を絶てる自由がある方が幸せなのかもしれないけど……。
「まぁ、とにかくだ。そういうことだったんだな。ジェフが俺に毒を盛らなかったのは。自分に疑いがかからないようにしているかと思ったが……自分で手を下したくないと思う位には、俺はジェフに好かれていたんだ」
「あー!そういえば、そうですよね!まだ全然解決してないじゃないですか!殿下に学園の寮で毒を持った犯人がジェフじゃないなら、暗殺の黒幕はジェフとは別にいるってことになって」
殿下の手を取る。
寿命、オッケー。大丈夫。
「ああ、それなら……マーカスだ」
「え?マーカスが?」
殿下がふっと笑って、私の手を取りバルコニーから部屋の中へと戻る。
ソファに腰かけると、メイがお茶の準備を始めた。
「マーカスを呼んでくれ」
「ちょっと殿下、毒を盛った人を……」
こそりと殿下の耳元でつぶやく。
すぐにドアがノックされて、体を小さくしたマーカスが入って来た。