妹
殿下は学園を休んでいたので、すぐに面会が叶った。
「シャリアーゼ、いらっしゃい」
いつものように王宮の一室に案内されると、部屋の中で殿下が待っていた。
ドアまで私をエスコートするために来る。
思っていたような落ち込んだ様子はなく、笑顔で迎えられる。
殿下に手を取ってもらいソファへと着席する。
寿命に変わりはないことに、まずほっと息を吐きだす。
どう話を切り出していいのか分からずに言葉に詰まる。
殿下は始終笑顔を顔に浮かべている。
だけれど、その笑顔は作り物だというのはすぐに分かる。いつもそんな表情をしていないのに、今日に限って笑顔だというのが理由の一つ。
そして、いくら笑顔を浮かべていても顔は見るからにやつれている。精彩を欠いているのだ。笑っているような心持ちに馴れないのなど、明らかだ。
部屋の中には壁際に護衛とメイと侍女が控えている。
しばらく沈黙が続いたあと、殿下がおどけた調子で口を開いた。
「まさか、ジェフが犯人だったなんてな……全然気が付かなかった」
笑って話をしているつもりなのだろう。
でも、殿下。
泣いてます。
笑い顔を作ろうと必死になっている殿下の両目から、涙が落ちている。
「アーノルド様っ」
手を伸ばして殿下を抱きしめる。
ぎゅっと力を込めて抱きしめると、殿下が私の肩に顔をうずめた。
そして、声を殺した嗚咽が耳に届く。
ジェフはまだ捕まっていないと聞いている。
捕まったら……きっと殿下は同じことを聞くだろう。そのときジェフがどう答えるかは分からない。
もしかしたら、私に答えた言葉とは違うことを……本当のことを言わないかもしれない。
もちろん、私に言った言葉が本当のことかどうかなんてわからないけれど、でも。
本当かどうかは分からないけれど「私がジェフから聞いた」ということだけは事実だ。
「なぜと……ジェフに私は尋ねたんです。どうして殿下を……と」
殿下の体が固くなる。
ジェフが何を言ったのか聞くのが怖いのかもしれない。
憎かったんだと言われたら……。
常にメイがもし私に対してそう言ったらと想像して心が苦しくなる。きっと、殿下は私の言葉を聞くのが怖いだろう。
それでも、聞かないという選択肢もないのだ。
どうして。なぜ……と。きっと繰り返し繰り返し頭の中で繰り返す。答えが無いのに、答えを求めて……。
「一言……妹のためと、ジェフは言っていました」
殿下が再びびくりと動く。
私から体を話して、悲しそうな顔を見せる。涙は……止まったようだ。
「ジェフに妹は、いない」
え?
ジェフは嘘をついたっていうの?
あの場面で?
すぐばれるような嘘を?嘘をつくにしても、ジェフほど頭が切れるなら、もっと上手な嘘をつくんじゃない?
「15年前ほど前、俺が生まれた後……ジェフが学園を卒業してすぐのころに、亡くなったと聞いている」
妹はいたんだ。ただ、亡くなっている。……15年近く前に亡くなった妹のために殿下の命を狙った?
「あー、妹、いたんですね。でも亡くなっているんだ。でもじゃあ、妹の命が欲しかったらと脅されていたわけではなさそうですね。とすると……、もしかしたら亡くなった妹さんの名誉を守るためとか?ほら、実は死ぬ前に罪を犯していて、それをばらされたら墓から掘り出されて子爵家名簿から除名されちゃうみたいな……?」
殿下がびっくりした顔をしている。え?何も変なこと言ってないよね?
「あ、もしかして、ジェフは真面目だから、たとえ家族でも、昔のことでも、罪を犯したなら償うべきだって言うタイプ?だとしたらこの説は消えるわね。……えーっと、あ、そうだ!だったら、妹の夢をかなえるためとか、妹の死に間際の最期の願いをかなえるためとか?」
殿下の眉根が寄る。
「ジェフの妹の夢は、俺を殺すことなのか?」
「あ!」
そんな夢を持つ妹なんて想像もできない。
じゃあ何だろう。