店長の話
悲しみに胸が張り裂けそうだ。
ジェフは、殿下にとってメイのような存在。
メイは私の家族の次……お父様の次に大切な人だ。姉のような存在。
そんな人が裏切り者だと知ったら。
……いいえ。もう殿下の耳には届いているでしょう。あれから3日が経っている。
ジェフは逃げて捕まっていないらしい。
殿下は大丈夫だろうか。
私の寿命は15年に戻っている。
ジェフと会話を始めた時には65年になっていたから……あの時の殿下は残り1年の寿命になってしまったんだろうか。
私の寿命が15年になったのだから、殿下は79年に戻っっている?
それも近いうちに確かめないと。
「シャリアーゼ様、お手紙が届いております……チャンさんから」
「手紙?」
チャンさんは副店長として店の切り盛りに忙しかったはずなのに。
手紙を開くと、東の国の文字で手紙が書かれていて、誰かに訳してもらったこちらの言葉が2枚目に記してあった。
「まぁ……店長が戻ったらしいわ」
私が気を失った後にの出来事はメイに聞いていた。
鍵のかかった部屋には店長が閉じ込められていたと。部屋の様子はとても清潔で整えられていて、待遇は悪くなかったように見えたそうだ。
事情を聴くために騎士に連れられて行ったと聞いていたけれど。取り調べは終わったのかしら。
「私に会いたいそうなの。チャンと一緒に店長が会いたいそうだから。すぐに来てもらって」
チャンとともにやって来た店長は、チャンを10年くらい年を取らせたような人だった。
「今回は大変だったわね」
店長に声をかけると、びくりと肩を震わせた。
「どこか体調が悪かったりはしていませんか?」
店長は緊張した顔をして私の顔を見た。
「いいえ……。ジェフ様には良くしていただいていたので問題ありません」
店長の言葉に、苦笑する。
「確かに、地下牢に閉じ込められて、ろくに食事を与えられないよりはましだったのかもしれませんが、あなたは被害者なのですから、良くしてもらったというのは……」
と、そのようなことは口にしてはいけませんと言いつつ、心の中ではジェフが店長にひどいことをしていなかったことにホッとする。
店長が、口を強く引き結んで私の顔を見る。
何か言いたいことがあるけれど、言えないと言う顔だ。
店長の膝の上の手は白くなるほど強く握りしめられている。
「シャリアーゼ様、私たち、何も悪いこと、考えてない、それ、本当」
チャンが身を乗り出して訴えだす。
「え?あの、取り調べが終わって帰されたということは、問題なかったと判断されたということよね?」
犯人の一味だと思われていたら、解放されるわけがない。
皇太子殿下暗殺未遂なのだ。しつこいくらい取り調べが続くことだって考えられるし……。
思いつめた顔をして何かを訴えようとしている店長。
「……もしかして、営業の許可が取り消されて国に帰るように言われたのですか?」
直接犯罪にかかわったわけではないけれど、珍しい東国の品が犯罪を誘発したと思われてしまえば……。
「いえ……いいえ……」
店長が首を大きく横に振った。
「ワタシたち、シャリアーゼ様は信じて話する……」
チャンの言葉に、メイに合図をして人払いをした。
部屋には私とメイとチャンと店長の4人となる。
しばらくして意を決したように店長が口を開いた。
「……ジェフ様は私を庇ってくださっているんです」
え?
「私は誘拐されたわけではなく、ジェフ様がかばってくれていたんです」
店長の言葉に動揺したのは私だけではない。メイからも息を飲む音が聞こえてきた。