表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/79

なぜ

「玉露を手に入れたのはいつのことなの?荷物が奪われる前?……ずっと前に手に入れて、ここに書かれているものは……」

 本の隅に訳された文字を指さしてジェフに見せる。

 ジェフは薄く微笑んでいた。

 私は、ただもう、流れる涙を止めることができずに……。

 どうして。

 どうしてなのっ!

 ジェフが私が指さしている部分にかかれた文字を読む。

「宿茶……。忍者が玉露を材料に作る毒……」

 玉露で毒が作れる……。苦いお茶である玉露から作った毒はいったいどんな味になるのか。

「もうすでに宿茶は完成しています……。私が玉露を手に入れたのは、荷物が奪われた直後ですよ」

 荷物が奪われた直後?

 それは、荷物を奪った犯人を知っているということ?捕まえた?……それとも。

「シャリアーゼ様のご想像の通りですよ。荷物を奪ったのは私です。知られたくなかったのでね」

 ジェフが私が手に持っている本を指さした。

 知られたくないから、店長を襲って荷を奪ったの?

 知られたくないというのは何を?

 毒の作り方を書いた本を手に入れたことを?その材料である玉露を手に入れたことを?

 それとも、玉露を使って毒を作ること?

 ……その毒を、使うこと?

「店長はどうしたの?」

「ああ。本を訳してもらうために連れて来ました」

 連れて来た?そうか。この本は東国の言葉で書かれている。だれかが翻訳したということだ。

「生きて……るの?」

 ジェフが視線を動かした。階段の方だ。……鍵がかかっていたあの部屋?

 ジェフが人を殺していなくてよかったとホッとする自分がいる。

 ……馬鹿みたい。

 馬鹿みたいだよね。

 人を殺してないからほっとするなんて。

 殺そうとしたのに!

「アーノルド様の命を狙ったのは……ジェフ……あなたなの?」

 憎まなくちゃいけない人間だ。

 泣いている場合じゃない。でも、涙が止まらない。

「殿下は……あなたのこと、信じてたのに……」

 信じて、頼りにして……それなのに。裏切っていただなんて。

 心の中がぐちゃぐちゃだ。

 殿下のために毒味していると思ったのに。疑いを自分からそらすために毒味役をしていたの?

 殿下のために、お茶やお菓子を自ら買いに行っていると思ったのに。それも、忠誠心を示すための演技だったの?

 何もかも、嘘だったっていうの?

「なぜ、どうしてっ!」

 ひどい。ひどいひどい!

 命を狙ったことに対しての言葉じゃない。

 殿下を裏切ったことに対してだ。

 これを知ったらどれほど殿下が傷つくか……。

 もし、私がメイに裏切られたらと考えたら、胸がつぶれそうだ。人間不信になって、誰も信じられなくなってそれから……。

 死にたいって思うよ。

「ねぇ、答えてよジェフ、どうして殿下を裏切るようなことを……!」

 ジェフは泣きそうな顔をして、小さくつぶやいた。

「妹の……ためだ」

 妹の?

 ジェフには妹がいるの?

「妹のためってなに?誘拐されて脅されてるの?妹を助けたければみたいな?だったら、助けるよ。……妹を助ける手助けをするよっ。そして、ジェフを自由にしてあげる!ねぇ、だからジェフ……」

 馬鹿なことを言っていると思う。

 だって、すでに殿下の命を狙ったのだ。どう考えてもその罪はなかったことにならない。できない。

 だけど、殿下は死んでない。極刑は逃れられるかもしれない。どこかへ幽閉されるとか強制労働になるとかなら……。時々殿下と手紙のやり取りでもしてくれるなら、それだけでも……きっとアーノルド殿下の心は救われるような気がする。

「……シャリアーゼ様……私は今、自由を手にいれました。バレてしまったからには……続けられません。もう、苦しまなくていい……」

 何を言っているの?

 自由って?

 苦しまなくていいってどういうこと?

「ありがとう」

 ジェフは満面の笑みを浮かべると、力の抜けた私の手から本を抜き取るった。

 そして、窓へと走っていき、そのまま窓ガラスを割って外へと……飛び降りた。

「ジェ、ジェフ?」

 驚いて動きが止まる。

 がくがくと足が震える。

 どうして私にお礼の言葉を?

「シャリアーゼ様っ!」

 メイの言葉にハットする。

 ぼんやりしている場合じゃなかった。

「メイ、護衛を呼んでちょうだいっ!」

 メイが慌てて部屋の外に控えている護衛に声をかけた。

 窓に駆け寄り見下ろすと、木の枝が折れているのが見える。木に遮られてそれ以上は見えない。

 ジェフは?無事なの?

「どうしました?シャリアーゼ様?」

「窓が割れて……何が?」

 護衛たちが部屋を見回して危険がないか神経をとがらせている。

 落ち着くんだ。

 落ち着いて、するべきことは……。

「で……殿下殺害未遂の犯人が窓から逃走しました。すぐに捕まえてください。この屋敷にいる者も仲間の可能性があります。全員拘束を。それから、鍵のかかった部屋に攫われた人が閉じ込められている可能性が……」

 そこで意識が途切れた。

「シャリアーゼ様っ!」

 メイの言葉が遠くに聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ