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見せられない本

「誰も入れるなと言われていらっしゃるのかしら?それとも、ジェフは仮病でも使っているのかしら?それでしたら大変ね。陛下にも体調がすぐれないと嘘をついていることになるわね?これは確認しなければいけませんわね」

 言いがかりのようなことを口にして、家令の静止を無視して足を進める。

 ずんずんと玄関ホールを通り過ぎて奥へと進んでいく。

 部屋が10ほその小さな屋敷だ。案内が無くてもすべての部屋を回ることは可能だ。1階にはいない。

 侍女か誰かに、ジェフがどこにいるのか聞こうと思ったのに、家令以外の使用人の姿が無い。

 ……そういえば、本来ならジェフは殿下に付いて学園の寮にいるはずだ。使用人は最低限残して領地に返しているのかもしれない。2階へ上がり、一つ目の扉には鍵がかかっている。ここが怪しいわねと思ったら、家令は私を追い越して一番奥の部屋の扉を叩いた。

「ジェフ様、お客様がいらっしゃっておりますっ!ジェフ様!」

 あら、そっちだったか。

 そのまま一番奥の部屋へと向かい、声をかける。

「ジェフ、シャリアーゼよ。先ぶれに手紙を持たせたのだけれど、早く付きすぎてしまったみたいね。返事を待たずに申し訳なかったわ」

 形ばかりは謝っておく。ジェフもわざと先ぶれと時間を置かずに来たことなど分かっているだろう。

「殿下に体調を崩していると聞いたわ。お見舞いに来たの。顔を見たらすぐに帰るから」

 しばらく待っても返事がない。

 ん?本当にこの中にいるのかしら?

 もしかして家令に騙された?

 それとも、寝ている?

 ……遅延性の毒の話をジェフに伝えるために来たけれど、もしかして毒の影響でかなりまずい状態?

 一刻を争う様な深刻な状態だったらどうしよう。

「あの、ジェフはどれくらい体調が悪いの?」

 家令に確認しようと声をかけたところで、部屋の扉が内側にゆっくりと開いた。

「……シャリアーゼ様……」

 疲れた顔をしたジェフが顔を出した。

 おもだるそうな様子だけれど、ベットに寝たきりというほど重病には見えない。

 ひとまずほっと息を吐きだす。

「お見舞いに……。メイ」

 メイに声をかけると、さっさと室内へと入っていく。

「ごめんなさい、逆に無理させてしまったわね。少しお話をしたらすぐに帰るわ」

 男性の部屋に女性が一人で入るわけにもいかないのでメイがしっかり室内に入ったことを見届けてから、ジェフを部屋へと誘導するふりをして腕に触れる。20……。

 20年か……。あまり長生きではないみたいだけれど……それでも、遅延性の毒の影響で1年以内に死ぬようなことはないことにホッとする。

「わざわざ来ていただいて……申し訳ありません」

 人払いを……してもらうまでもなく、メイがお茶のためにお湯が欲しいと家令に頼んだせいで、部屋の中には私とジェフとメイだけになった。

 ソファに腰かけると、テーブルの上に本が1冊乗っていた。見覚えのある不思議な文字。

「あら、ジェフも東国の本を?でも、翻訳してもらわないと読めないでしょう?」

 本に手を伸ばすと、ジェフは慌てて本を手に取り、ベッドに投げ捨て布団をかけてしまった。

「あの、殿下には内緒に……」

「ええ、もちろんです。ジェフさんが東国の、女性には見せられない本を読んでいたなんて伝えたりしませんわ」

 メイがちょっと怒ったようにお見舞いの品のクッキーをテーブルの上に出す。


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