お見舞い
「よし!メイ、ジェフのお見舞いに行きましょう!」
殿下からの手紙が届いた。夕食を食べない作戦は無事にスタートしたという報告だ。もちろん、メイとマーカスが間に入り手紙も他の人には見られないようにして受け渡ししている。
毒が混入していると思われる食べ物も入手し、毒の特定に回した。
「ジェフさんのお見舞いですか?先ぶれを子爵家に出しましょう」
ジェフは成績優秀ゆえに、実力で側近候補となったんだけど地位は決して高くはない。
将来は宰相にという話も、優秀だからだ。けれど問題は子爵という地位。高位貴族の婿に入るなどしないと実際は難しいかもしれない。まぁ、何ならうちの養子に迎えるとかやりようはあるだろうけど。
「そうね。先ぶれと一緒に出発いたしましょう」
今回は子爵家だからこそ、できる作戦だ。
私は公爵令嬢。あっちは子爵令息。
先ぶれが渡した手紙の返事が来る前に突撃なんて失礼なことでも、子爵家は強く拒否できないはずだ。
「え?返事も待たずに?」
メイがびっくりした顔をしている。マナー違反もいいところだ。
「そりゃ、返事なんて分かってるもの。来るなって返されるだけでしょ?」
メイが苦笑する。
「で、しょうね……」
殿下でさえ会えない状況だ。私がお見舞いに行くと言っても断られるのがおちだろう。
「だけれど、迷惑じゃないですか?」
メイの言葉に首を横に振る。
「本当に毒で体調を崩しているのだとしたら教えないと。手紙では伝えにくいでしょう?」
メイがああと頷いた。
「確かに。遅延性の毒により体調を崩しているのであれば、そのことは伝えたほうがいいですよね。毒が特定できれば解毒剤もあるかもしれませんし……」
うんと頷く。
「手紙なんて誰の目に触れるか分からなからね。それに……殿下の側近をやめてしまうかも……」
メイがふんっと鼻息を荒くする。
「私との勝負を途中で投げ出すなんて男らしくないと蹴り上げてやりますよ!」
あはは、だから、いつから勝負になったのか。
そして、いつまで続けるのか……。
「分かりました。ではお見舞いの品を準備いたしましょう。それから先ぶれに渡す手紙とお嬢様の支度。出発は1時間後でよろしいですか?」
それから1時間後、馬車に揺られて貴族街の端に来た。
王宮に近い場所には大きな屋敷がいくつも立ち並んでいる。上位貴族のタウンハウスだ。
王宮から離れるにしたがって、屋敷の規模は小さくなり、貴族の地位も下がっていく。
子爵家ともなれば、部屋が10ほどの小さな屋敷になる。ただ、街のはずれなので土地だけは広い。
ジェフの子爵家タウンハウスも同様のようだ。本宅の他に、厩や使用人棟や物置などこまごまとした建物が建てられている。
まずは先ぶれが手紙を持って、門番に説明し、屋敷の入り口へまで足を運ぶ。
手紙を家令に渡したのを、馬車の中から見届けると、すぐに門番へ御者が声をかける。
馬車のカーテンを開いて、顔を見せると、門番が慌てて屋敷にすっ飛んでいき、家令が飛び出してきた。
馬車から降りるところで、家令が頭を下げる。
「シャリアーゼ様がなぜこちらに?」
私にではなく、侍女のメイに家令が尋ねた。貴族令嬢に直接話かけるのは駄目だからね。
「先ぶれに持たせた手紙の通りです。ジェフ様のお見舞いに」
メイがしれっとすました顔で答える。
「さ、先ぶれ……いえ、まだジェフ様に手紙は確認していただいておりませんで……」
「あら?それは申し訳ないことをしたわね?では、準備が整うまで待たせていただこうかしら?いえ、準備も必要ないかしら?ジェフは寝込んでいるのではなくて?お見舞いに来たのですから、お茶やお菓子の準備も必要ありませんわ」
会話に割って入り家令に微笑みかけて、そのままずんずんと屋敷へと足を踏み入れる。
「お、お待ちをっ!」
家令が慌てて静止の声を出す。
けれど、それは想定内。