1と66
「昼食も考えにくい、だから夕食だと思っている」
「そうみたいですね……とすると、寮の……王宮から派遣された人間の中に犯人が」
殿下が顎に手を当てて眉根を寄せる。
「料理人は、苺ムースのときに散々調査した人間を3人。念のため寮で使う食材も毎日王宮の食糧庫へ足を運んでランダムで選んでもってかえってきているらしい。仕入れ業者という線もないと思う」
「なるほど。作る段階での毒の混入の可能性は低いということですね。そのあと……料理人の手を離れて殿下の元に並べられるまでに毒がいれられている?」
とすれば配膳する者。もしかすると毒味役が毒を入れている可能性だって考えられる。ジェフが毒味する前に、事前に別の者が毒味をしている。ジェフと違って、日替わりになるだろうから、遅延性の毒であれば影響は少ないから大丈夫だと思っている可能性もある。いや、解毒剤を後で飲んでいる可能性もある。
「もしかすると食器に毒をあらかじめ付着されてる可能性もある」
殿下の言葉に、その可能性もあるかと納得する。食器を磨くのは、侍女の仕事ではない。下働きだ。
「下働き……となると、人数も増えますよね……」
下働きは人数が増えて監視しづらいのもあるし、侍女ほど身元のしっかりした者ばかりではなくなる。
「もちろん、下働きは建物への出入りは制限されているし、出入りの際には持ち物チェックは厳重にされているが……」
何処の誰がグルになっているか分からなければ、無駄……か。
侍女が持ち込んで下働きに手渡すことだってできる。持ち物チェックをする人間が仲間かもしれない。
前回の毒苺ムース事件で、何人も殺されたというのに、それでも犯行に協力しようという者たちだ。
そうとう肝が据わっているか、強い目的意識があるのだろう。……目的……は殿下を殺すこと。
なんで、殿下を殺そうとするのだろう。
何の得があると……。
殿下が亡くなれば王弟殿下が皇太子になるわけだけど、王弟殿下にはその意思はない。
その証明として結婚せず子も設けないと宣言している。だから、全然得しないよね。むしろ結婚するつもりはないのに無理やり誰かと結婚させられるのはマイナス要因だ。
そうなると、得するのはその次の王位継承権を持つ者?その支援者?
いるんだろうけど、聞こえてくるほど大きな組織ではないはずだし、殿下だけ亡くなっても、王弟殿下も亡き者にしなければ継承権は回ってこないよね。
さすがに不審死が2人続くなど……クーデターに近い行いじゃない?後ろ盾が弱い勢力がクーデターなんて起こすかな?
陛下はよく国を治めているし、アーノルド殿下もこのまま成長していけば愚王にはならないだろう。多くの貴族たちからは不満の声もない。それなのに、国を乱すなど……。
考えられるのは国が混乱している隙をついて攻めようとしている隣国。でも、隣国との関係も良好だし、下手に戦争を始めれば大帝国から自国が飲み込まれる危険がある。だからその国も戦争を起こそうとはしないはずだ。
あー!
考えれば考えるほど、殿下の命を狙っている犯人も目的も分からないっ!
殿下の数字が1。私が66。いやだ。なんだか、今は私が殿下の寿命を奪ったみたいに見える。この数字……。
はぁーと、大きなため息が出たところに、メイが控えの間でお茶出しを終えて戻ってきた。
「シャリアーゼお嬢様いかがなさいました?」
「うん……ここだけの話、殿下が遅延性の毒を盛られているようなの。どうしたらいいのかなと……」
殿下が、メイに私が軽く話してしまったことを驚いたようだが、すぐに「ジェフみたいな関係ならそういうことだろうな」とぼそりとつぶやいてそれ以上何も追及しなかった。
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