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迷惑なんて……そんなの……


 薔薇園にあるガゼボで、お茶を飲む。

 アーノルド殿下は薔薇なんて全く見ずに、私の顔をやたらと見てきた。

「おい、今なんかちょっと迷惑そうな顔しなかったか?」

 迷惑だよ。ずっと見られていたら食べにくいし。

「いえ、そんなことは……」

 だけど、はっきり迷惑なんて言えるわけないよ!

 皇太子殿下に、言いたいことを自由に言える人間なんて陛下と王妃殿下くらいじゃない?

 婚約者としてもう少し親しく鳴れば言えるようになるんだろうか?

 言えるなら、言いたい。

 超迷惑だっつーの!

 私の寿命はあんたのせいでめちゃくちゃ短くなったんだから!

 そんな気持ちを隠して無理に微笑む。

「そだよな、俺とお茶して迷惑なんてわけないよなあぁ。ほら食べろよ。お前苺が好きなんだろ?」

 え?

 確かに苺は大好きですけど。

 よくテーブルを見ると、苺を使ったお菓子のフルコースが乗っている。

 殿下も苺が好きなのかしら?と、首をかしげる。

「ち、ちげーし。俺は、苺なんて女が食べるようなもん食いたくねぇし!」

 殿下がプイっと横を向いてしまった。

 苺が女が食べるようなもん?

 いや、お父様も苺は大好きですけどね?

 テーブル中央に置かれた5段のケーキスタンドには、一番下の段には苺。

 2段目には苺のタルト。

 3段目には生クリームたっぷりの苺のケーキ。

 4段目には苺ソースのかかったクッキー。

 5段目には苺のムースが載せられている。

 真っ赤な苺に真っ白な生クリーム。

 ピンクのムースに茶色いクッキー。

 カラフルでかわいらしいお菓子の数々に見ただけで心が弾む。

 そうよね。寿命のことばかり考えて落ち込んでばかりいたら損だもの。

 王宮のパティシエが作ったお菓子たちがまずいわけない。気持を切り替える。

 たった9年ではなくて、まだ9年あるんだから。

 何を食べようかなぁ。

 苺は、最後に口の中をスッキリさせるために食べたい。

 ケーキは一番初めに食べてお腹がいっぱいになっちゃうと他のが食べられなくなるから後にしよう。

 そうだ、まずは、ムース。苺のムースにしよう。

 ケーキスタンドの一番上に載っているムースの入った器に手を伸ばす。

 普段であれば侍女や侍従といった者が望みのものを皿に取り分けてくれるけれど、2人きりにされているため自分で取る必要がある。

 5段もあると座ったままでは手が届かず、腰を浮かせて手を伸ばす。

 つんっと、指先が殿下の手に触れた。

「え?」

 驚きに目を見開く。

「こ、これは、俺が先に取ったんだっ!」

 私が手に取ろうとしたカップに、殿下も同時に手を伸ばしたようだ。

 殿下がつかもうとしたカップを両手でつかむ。

「なんだよ、俺が先だって言ってるじゃないかっ!だ、だが、そこまでしてほしいのならお前に譲ってやるよっ!」

 ほっとして、カップを自分の皿に置く。

 だけど、ちょっと待って!

 殿下がもう一つの苺ムースのカップに手を伸ばした。慌てて私を手を伸ばすと、殿下がカップをつかんだ手に触れる。

「ああ?なんだよ、ムースがそんなに好きなのか?だけど、全部ひとり占めはないだろうっ!」

 やっぱり、やっぱりだ。

 見間違いじゃない。

 83年もあったはずの殿下の寿命が0年。

 0年ってことは1年も生きられないってことだ……。

 すぐ死ぬ……。

 ムースを手にしたとたんに寿命が0年に……。

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