1年
「大丈夫ですかシャリアーゼ様っ!」
前のめりにふらついた私を殿下がしっかりと支えてくれる。そしてメイが慌てて私に近づき声をかけてくれた。
どくどくと心臓が高鳴る。
「だ、大丈夫です。その、考え事をしていたので、躓いてしまった……みたいで……お恥ずかしい」
私の言葉に、殿下がほっと息を吐きだす。
「よかった。また、その……気分が悪くなったって言われなくて……」
よかったとは言っているけれど、殿下の顔はあまり明るいものではない。
いったいどういうことなのか。
……やはり、体調がすぐれない?
この2か月の間にいったい何が。
殿下が仕切り直して私をエスコートしてソファに座らせた。そして殿下も隣に座る。
メイは心配そうな顔で私を見ている。
あれほど、工芸茶を見せるのを楽しみにワクワクしていたメイの顔はもうない。
メイは部屋の中を目だけで見まわした。
何かを探しているようだ。
「あ……」
いつもジェフが控えている場所に、別の男性の姿がある。
「ジェフは?次のお茶会まで休めというのは、今日まで休みということでしたか?」
メイはジェフに工芸茶を見せるのを楽しみにしていたのに。
「いや……昨日までのはずだったんだが……」
え?
ということは。戻ってこないっていうこと?
辞めるというようなことを言っていたけれど、本当に辞めてしまったの?
殿下の浮かない表情はジェフがいないせい?
なんと言葉をかければいいのか……。
「紹介しよう、新しい側近のマーカスだ」
殿下が手招きするとマーカスが来て丁寧なお辞儀をした。
「初めましてシャリアーゼ様。殿下の思い人に会えるのを楽しみにしてました」
思い人?
婚約者ってことよね。政略結婚だしさ。言葉を選らんだのかな。
ジェフは真面目が服を歩いているように表情はいつもすましたものだし、冷たい感じがするようなクールな顔だった。
一方マーカスは、表情豊かで、口調も軽く、頭を働かせるよりも楽しいことを見つけるのが好きそうな青年だ。
「マーカスは学園の生徒会長を務めた男で、俺の剣術と同じ師の元で学んでいる関係で前からの顔見知りなんだ」
殿下がマーカスについて説明してくれるけれどまったく頭に入ってこない。
全く正反対に見えるマーカスが側近など務まるのかな。
ジェフが戻ってくることを前提として臨時に頼んだだけってことで考えた方がいいのだろうか。
ジェフが戻ってくるのを強く望んでいる殿下にとってジェフが帰ってこないことは大変なことだろうけれど……それよりも……。
「あの、先ほど躓いてしまって、気持ちを落ち着けたいので外の空気に当たってもいいかしら?」
「あ?うん。そうだね。いろいろと驚いただろう……。気持ちを落ち着けてからお茶にしようか」
殿下の手をとり、二人でバルコニーへと移動する。
やっぱりだ。
心臓がバクバクして破裂しそう。
なんで、どうして!
先ほどの数字は見間違いなんかじゃなかった。
殿下の寿命が残り1年に減ってる!
なんでなの?
1年後に何があると言うの?
……いえ、それともすでに1年後の死に向けて何か始まっているの?
ジェフが戻ってこないことが何か関係ある?
それとも全く別の話?
私が学園に入学することは関係ある?
私の寿命は……変化がないということは無関係?
どうしよう。