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少女

「店長はまだ見つからないんですか……」

 あれから1か月は経つと言うのに。

「はい……。犯人の情報はなく、店長の遺体も荷の横流しの話もなくて……」

 チャンさんの代わりに翻訳に来てくれたのは、今日は15歳の少女リンだ。見た目だけでいえば10歳を少し超えたくらいにしか見えない。

 異国の地で働こうというのだ。若いけれどこの国の言葉はチャンよりもしっかりしている。

 年齢も近くて私とは話が合うと思って選んでくれたのか、それとも単に他の者の手があかなかったのかは分からない。

 リンが黒くて美しい瞳を曇らせる。

「捜査は打ち切られました……」

 悔しそうに唇を噛んでいる。

 ただの慰めの言葉になってしまうけれど。

「でも、遺体は見つかっていないのでしょう?だったら……その」

「だったら、どうして帰ってきてくれないんでしょう?」

「帰れない状況にあるとか……」

「それでも連絡は取れますよね?手紙も届かないんです」

「手紙も出せない状態かもしれないわよ?」

「でも、誰かに伝言を頼むだけでもできるのに」

 確かにそうだ。

 行方不明になったから1か月以上たつのだ。生きているのであれば、帰ってこないのはおかしい。帰れない状況……たとえば怪我をして動けないだとか、荷を盗んだ人たちの後をつけているとかあったとしても。

 1か月もあれば、連絡はとれそうなものだ。船に乗って遠くへ行ってしまったわけではない限り。

 だとすると、連絡も取れない状態……。

 やっぱり、もう亡くなっていると考えるべきなのかもしれない。

 だとしても死体が見つからないのはなぜ?

 犯行を隠すために遺体を隠した?でも荷物を奪った時点で犯行は明らかだし。

 ……盗賊がわざわざ遺体を隠すなんてことするだろうか?

 ……店長が後を追ってアジトを突き止めたところで見つかって殺されたとか?

 もう、店長は戻ってこないと思った方がいいのかもしれないと、少女も考えているのだろう。

 となると、店は副店長だったチャンさんが引き継ぐのか、それとも店をたたんで国へ帰るのだろうか。

「チャンさんは元気?」

 せっかくできた縁だ。東の国の品々には興味深い物もいろいろあるし、このまま商いを続けてもらえるといいんだけどな。

「あの……副店長は……」

 ボロボロと少女が突然大きな涙を落とし始めた。

「え?あの、どうしたの?チャンさんに何かあったの?」

 慌ててハンカチを取り出して少女の目に当てる。

「申し訳ありません、あの、父は……副店長は、商品の引き取りに昨日から出ています」

 父?この子、チャンさんの娘だったのか。

 それで、商品の引き取りに……って。

 店長が行方不明になったのは商品の引き取りに行き、その道中で山賊か何かに襲われて行方不明になったのだ。荷は奪われ、護衛たちも怪我を負った。

 ……チャンさんの身にも何かあるかもしれないと心配になっても仕方がない。

 チャンさんの寿命を見てあげればよかった。

「ねぇ、手相の本を訳してもらっているでしょう?それで、チャンさんの、お父さんの手相を見たりしたことはないの?」

「え?」

「生命線は途切れていた?島や鎖になってたり横切る線があったりしてた?何かトラブルが起きるような線があった?」

 少女がはっとして顔を上げる。

「いいえ、綺麗なまっすぐ伸びた生命線でした」

 リンの手を掴んで手相を見る。

「ほら、家族との縁が薄いとかないわよ?リンちゃんの手相を見ても大丈夫そうよ?それに、街道にはいつもよりも警邏の人たちが警戒して巡回とかもしているし……ね?」

 安心させる材料をいろいろ並べ立てる。

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