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減る寿命

 雨が降り出し、部屋に戻ると、ジェフの姿はなかった。

 1か月休めと命じたためいなくとも不思議ではない。

 ただ、いつも壁際に背筋を伸ばして立っていたジェフの姿が無いと、それだけで寂しく感じる。

 殿下はきっと私の何倍も寂しく感じるのだろう。

 コンコンと扉が叩かれた。

 ジェフが戻って来たのではと、一瞬殿下が考えたのが表情で分かった。けれども部屋に入ってきたのは。

「叔父上」

 殿下ががっかりしたように部屋に入ってきた人物に声をかけた。

 王弟殿下だ。陛下の年の離れた弟。殿下は今15歳で、陛下は48歳だ。王弟殿下は29歳。

 陛下とは顔の形と口元は似ているが、他はあまり似ていない。殿下に女みたいだと言ったらしいけど、確かに王弟殿下はめちゃくちゃ男臭い顔つきをしている。太い眉に、彫の深い鋭い目元。鼻は大きくて高い。黒くて太いくせ毛も殿下の細くて金色の髪とは似ていない。

「ジェフを追い出したと聞いたが?」

 王弟殿下は許可もとらずに向かいのソファにどかりと座る。

「追い出したんじゃありません。休暇を取らせたのです」

 王弟殿下がソファの肘置きに手を突き姿勢を崩す。

「休暇をもらった者の顔じゃなかったが?」

 殿下がぐっと奥歯をかみしめた。

 ジェフが辞めてしまうかもしれないという不安が胸を閉めている殿下に対して、王弟殿下の言葉は鋭すぎる。心臓に言葉の槍が刺さっていることだろう。

「疲れがたまっていたようですので、それで表情も浮かなかったのでしょう。コンラート様、疲れていることは手相で分かりましたのよ?」

 空気が読めないフリをしてコンラート王弟殿下に声をかける。

「はぁ?」

「手相というのは、東の国で手の平に現れたしわやほくろなどからいろいろと占う方法なのですわ。コンラート様も手を見せていただけませんか?」

 うさん臭そうな視線を向けられるが、そのまま続ける。

 ソファから立ち上がり、王弟殿下の隣に座り直して、手相を見ようと手を伸ばす。

 王弟殿下の手をとり手のひらを見る。

「まだ、勉強中なのでたくさんのことは分かりませんが、この線が生命線と言うんだそうです」

 生命線を指でなぞる。

「太くてしっかりした立派な生命線ですわ。生命力にあふれ健康で」

 その割には、全体的に島や鎖、それに運命線や他の線を遮る線も多い。随分と波乱や障害の多い手相……?

 それが何を示しているのか分からないけれど、島や鎖や遮る線、途切れた線、薄い線はよくなかったはず。

 言わない方がいいであろう線があるのを見てしまい、動揺して言葉が出てこない。

「手相を見るなどと言って、私の手を握り誘惑するつもりか?」

「叔父上!」

 からかうような王弟殿下の言葉に、殿下が慌てて私の体を引き寄せソファから立ち上がらせた。

「くくくっ。せいぜい、はまりすぎないことだね」

 王弟殿下は立ち上がると殿下の額を手のひらでぐいっと押す。

「国の行く末を占いで決める茶番などまっぴらごめんだからな」

 王弟殿下は、殿下に対して言っているけれど、この忠告はきっと私に向けたものだ。

 確かに、占いにはまっている王妃など、神の怒りに触れると神殿に脅され腐敗していった国と同じ結末を迎えそうで怖い。

「シャリアーゼ嬢、私を誘惑するならば、手相を見るなど回りくどいことなどせずとも、いつだってお相手しますよ?」

 王弟殿下が私を見下ろした。

「ゆ、誘惑など、しておりません……もし、手相を見たことを不快に感じたのならば謝罪いたしますわ」

 うかつだった。

 いくら殿下の叔父とはいえ、男性だ。それも未婚の。婚約者もいない。

 手を取るなどと世間から見れば誤解されても仕方がない話。

 あれ?そうなると、せっかく手相を見て寿命が分かったという言い訳も男性には使えない?

 って、待って!

 どうして、私の寿命が6年に減ってる!また、20歳までしか生きられないことに戻ってる。せっかく微増していたのに。

 何が原因なのっ!

 占い?手相なの?王弟殿下のように「占いにはまった私が王妃になること」に不安を感じた誰かに暗殺されるとか?

 あり得る。

 失敗した!

 大失敗じゃないっ!



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