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玉露

「……そうか?俺は長生き……か?」

 殿下が半信半疑といった声を漏らす。

 いや、まぁ確かに占いの類は当たるかどうか分かりませんし。

「シャリアーゼはどうだ?見せてくれ」

 殿下に手のひらを見せる。

「俺より……生命線、短いな」

 殿下がちょっとショックを受けている。

「短くないですよ。十分です」

「いや、これだと俺より10年は早く死ぬだろ?」

 今のままだと10年どころか60年以上早く死にますけどね。

「手相は、生き方で変わるらしいですよ、だからまだこれから私の生命線が伸びるかもしれません」

 殿下がほっと息を吐きだす。

「そうか……ジェフも見せてくれ」

 殿下がジェフの手を引っ張って手のひらを開いて私の視界に入れる。

 え?

 薄い。

 ジェフのことだから、仕事熱心な太陽線が太くはっきり濃く出ていると思っていたのに。

 いや、太陽線だけではない薄いのは。

 生命線も薄い。

 ……生命線が薄いのは、体の調子が悪いか、生きる気力がないか……。

 長さは私と同じくらいはある。なのに、この薄さは何?

「うーん、ジェフの手相は見にくいな。これだよな、生命線って」

 殿下がジェフの手を引っ張って近くで見ようとしている。

「このあたりまで伸びてるか?細いけどさらに続いてる。ってことは……」

 場所や光の加減ではない。殿下も見にくいと言っているから、本当に薄いんだ。どうして?

 体の調子が悪いのに無理しているから他の線も薄い?太陽線が薄いのもそのせい?

 体調が悪いのはどうして?仕事のし過ぎ?仕事のし過ぎで体調が悪くなって仕事に身が入らないのは本末転倒。

「あっ、ジェフは玉露を使っているのね?」

 チャンの言葉を思い出す。

「な、何のことで……」

 私の指摘にジェフが狼狽している。

「やっぱり、そうなのね!なんてことを……!」

 思わず椅子から立ち上がって、ジェフに手を伸ばそうとすると、ジェフはひらりと交わして後ずさった。

「ば、ばれて……」

 さっと青ざめるジェフ。

「待て、どういうことだ」

 殿下が慌てて私とジェフの間に立った。

 ジェフは全てをあきらめたような表情をしている。

 ジェフに触れて寿命を確かめなければ。このままでは体を壊して近いうちに死んでしまうんじゃない?

 焦って手を伸ばすと、伸ばした私の手の寿命が3年に減っている。なぜ!

「ジェフ?バレたとは?玉露ってなんだ?」

 殿下が説明を求めて私とジェフの間で視線を行き来させている。

 説明なら、私がしてもらいたいくらいだ。

 なぜ、急に私の寿命が減っているの?冷や汗が背中に流れる。

 事態を察したのか、メイがジェフの手を掴んだ。

「まぁ、これはひどい。シャリアーゼ様でなくてもすぐに分かりますわね。生命線が薄い。これは健康を害している証拠」

 ジェフがメイにされるがままになっている。

「恐れながら殿下。私から説明させていただいても?」

 メイがアーノルド殿下に頭を下げる。

「ああ、頼む」

「チャン……東の国の者に、お茶について尋ねましたところ、玉露というお茶があるという話を聞きました。苦いお茶だということで、お茶会に出すには値しないだろうということでしたが、ジェフは注文したそうです」

 殿下がジェフの顔を見た。

「何のために?」

 ジェフは口をつぐんだままだ。

「言えないのか?」

 殿下がジェフを詰問する。

「殿下、ジェフの口からは言えるわけはありません。私から説明いたします」

 メイにも言いにくいだろうと、少し動揺が収まったのでソファに腰を下ろして殿下の顔を見た。

 殿下も落ち着こうと、ゆっくりとした動作でソファに座る。

「チャンの説明によると、玉露というお茶は紅茶とは比べ物にならないくらい、飲むと眠れなくなるそうです」

 殿下はそれですべてを察したのか、ジェフの顔を見た。

「寝ずに無理して仕事をしていたのか?」

 ジェフは何も答えない。

 殿下が再び立ち上がり、ジェフの目の前に立った。

「体調が悪くなるほど、無理をして……眠気覚ましのお茶まで飲みながら仕事を続けていたのか?」

 殿下ががくりと首を垂れた。

「俺は……おまえに無理をさせて……体調が悪いことにも気が付かずに……すまん」

 ジェフが下唇を噛んだ。

 悔しいのか悲しいのか辛いのか。主に無理をさせてすまなかったなどと頭を下げられる気持ちはいかほどのものか。毒味を買って出たり、自ら買い物をしたりと……殿下に対する思いが強いジェフにとって……。

 パァーンと、甲高い音が響いた。

 うわ!

 メイがジェフの頬っぺたを思いっきり叩いた。

 ちょ、メイ……!いったい突然何を!


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