戻った!いや、戻ってない!
「改めて問う。このまま皇太子の婚約者でいてくれるか?」
陛下に尋ねられた。
「別に問題ないだろ1年間、病気もしてねーんだし、王妃教育もちゃんとやれるんだろ?」
皇太子が私を見る。いろいろ問題ありすぎるんだってば!
殿下は相変わらず何の恐れもないような自信満々な顔だ。悩みなさそうでいいわよね。
「まぁ、他の貴族令嬢よりちょっとは見た目もいいし、婚約者はこいつでいいよ」
いや、私が問われているというのに、なぜ殿下が陛下に答えているのか。
こいつでいいって、お前のこいつでいい程度の理由でなんで私がこんな目に!
断ろうと思って手を見ると、寿命が2と変化する。
このまま婚約者でいようと、気持ちを替えれば寿命は9に代わる。
2か9か……。そんなの9だよ。
でも、死にたくないよ……。20歳で死ぬなんて嫌だよ……。
この1年色々試したけれど、さらに寿命が縮むということしか見つからなかった。
……でも、生きている間……残りの9年の間に、もとの寿命に戻ることが見つかるのかな?
それを信じるしかない。私は生きることを諦めないよ。
いっそ、皇太子を殺す?
ああ、だめだ。物騒な発想になっちゃった。皇太子暗殺なんて、例え成功したって公爵家取り潰しのうえ処刑でしょ……。
とりあえず、あと2年よりも9年。
とても笑える気分じゃないけれど、顔には作り笑顔を浮かべる。
「はい、私でよろしければ、精一杯務めさせていただきます」
美しい所作で片足を後ろに引き膝を曲げ、スカートのすそをつまんで頭を下げる。
「そうかそうか。よかったな、アーノルド」
陛下が満足げに殿下に声をかける。
よかった?アーノルド殿下は誰でもよかったんでしょ?ああ、よかったって、誰でもよかったのよかったかな?
「ほら、そうと決まれば二人でお茶でもしてくるがいい。薔薇園に準備させてある」
陛下の言葉に、アーノルド殿下が手を差し出した。
エスコートしてくれるということだろう。
王妃になれるんだからうれしいだろうだの、婚約者はこいつでいいだの、随分雑な言われ方をしていたので、まさかエスコートしてくれるとは思っていなかった。
驚いて殿下の手をしばし見つめる。
「なんだよ、俺と正式に婚約したってのに、不満があるのか?失礼なやつだな!婚約破棄するぞ」
殿下の言葉に、私の手に浮かんだ数字が69となった。
え?
思わず嬉しくて顔を上げる。
戻った。失われた60年の寿命が!
「なんだ、ちゃんと嬉しいって顔してるじゃん。そうだろ、俺と婚約できてうれしいんだろ」
アーノルド殿下は満足げに笑うと、私の手を取った。
あああ!
また9だよ。やっぱり9年になっちゃった。
一方、アーノルド殿下の寿命は83年。くうっ自分だけぴんぴん長生きとか!
今12歳で残り83年って、95歳まで生きるのか!超長生きじゃないかっ!
11歳の私は残り9年で、20歳までしか生きられないというのにっ!のにっ!