殿下の生命線
「久しぶりシャリアーゼ。会いたかったよ」
2か月ぶりに会う殿下は、また一段と男らしくなっていた。
男の子ってすごいなぁ。成長期って経った2か月でこんなに背も伸びるの?
びっくりして息を飲んでいる間に、殿下がぎゅっと私を抱きしめた。
あ、あれ?
私、前回「もう十分馴れたので過剰なスキンシップは控えましょう」みたいな話したよね?
「殿下」
ぐいっと殿下の体を押しのける。
寿命はしっかりチェック。うん。変わりない。
殿下が押しのけた私の手を見下ろしてから、私の顔を見る。
「シャリアーゼは……会いたくなかったのか?」
そういえば、殿下は会いたかったって言ってたわ。なんで、私に会いたいのだろう?もしかして、毒苺ムース事件に進展があった?
「私も、会いたかったですわ」
そうと知っていれば、会いたいに決まっている。
早く話を聞かせてほしい。事件の黒幕が捕まれば、暗殺に必要以上におびえる必要もなくなるんだもの。
殿下が私の答えに満足したのか、私の手を取りエスコートすると、部屋の中央に置かれたソファに腰かけた。
今日はあいにくの曇天のためバルコニーには出ないようだ。
いつものように、ジェフがお茶とお菓子を準備し毒味をする。
「そうだわ、ジェフありがとう。紹介してくださった東の商人に本を翻訳してもらって助かっているわ」
ジェフにお礼を言う。
「でも、心配よね」
私の言葉に、ジェフが茶器を鳴らした。
「何が心配なのです?」
ジェフがカップにお茶を注ぐ手を止めて顔を上げた。
「あら?聞いてません?店長が荷を受け取りに行って行方不明になったようなの」
変な間が開いて、ジェフが答えた。
「それは、知りませんでした……。確かに心配ですね」
知らなかったんだ、ジェフ。紹介してくれたのだから当然知っているとばかり。
注文していたお茶は届いたのかしら?だったらそれ以降店のことを知らなくも不思議はないわよね?
少し空気が重たくなったところに、殿下が話題を変えてくれた。
「何を翻訳してもらってたんだ?」
「手相の本です」
「ああ、なんか手のしわで占うやつだっけ?」
殿下が、手のひらを私に向けて差し出した。
「俺の手相はどうだ?」
差し出された殿下の左手を取る。
「まだ、本当に少ししか知りませんが……」
結婚線がまず目に飛び込んできた。しまった!見ないで置こうと思ってたのに。
無意識に見ちゃったよ!
輾転ずいぶんはっきりした線が1本。
……あれ?1本?
確か、結婚を考えた相手の数が出るとか。
婚約者の私は数に入っていないのかな?
まぁ「おまえでいい」程度じゃ結婚を考えた相手にはならないのかも。
もし、私と結婚したとしても29歳で死んでしまえば、再婚するだろうから2本や3本はあるかと思ったのにな。側室とか作らないで王妃一筋?
私じゃない誰かと結婚して死ぬまで添い遂げるってことかな?
真実の愛とやらに目覚める?物語のように。ある日突然「シャリアーゼ、お前との婚約を破棄する!」とか言い出すのかな?
それで私の寿命が戻るならラッキーだけど。
「どうだ、俺の手相」
殿下の言葉にハッと意識を現実に戻す。
「あ、えーっと、これ、生命線というらしいのですが……」
いきなり結婚線を見ていたなんて言えなくて、慌てて覚えた手相の知識を披露する。
「このあたりが50歳、このあたりが70歳、このあたりが100歳で……殿下の生命線は、長いですね。100歳近くまで生きるみたいです」
当たってるわ。
私の見たところ、殿下は95歳まで生きるんだもの。100歳近くまで伸びているのと合ってる。