公爵家の一人娘
「お嬢様にも商才を現す線があるんじゃないですか?」
メイに言われて手の平を見せる。
「ほらありますよ!」
「商人になるつもりはないんですけど」
「そうですわよね。シャリアーゼお嬢様は皇太子妃になるんですから。でも、商才に長けた王妃様なら、隣国との交易で国を豊かにしてくれそうですよね。ほら、運命線もこんなに濃くて長い。国のために熱心に働くよい王妃様になりますね」
メイの言葉は、まるでそうなってほしいと言う願いのようだ。
メイは、私が今のままだと29歳までしか生きられないというのを知っている。
……国のために尽くす王妃になれるというのは、きっと、皇太子妃ではなく王妃となって長生きしてほしいという願い。
「ねぇ、メイ!せっかくですから、他の人の手相を見せてもらいましょう!」
「あ、でしたら庭師とかどうですか?」
「庭師?」
「ほら、これ。家業を継ぐと成功する線というのがありますよね。公爵家の庭師は親から子、子から孫と継がれているじゃないですか」
「それを言えば、公爵も家業を継いていることになるわよね?」
自分の手のひらを見る。
「シャリアーゼ様は継がないんですから。継いだのはご主人様ですし。そのあとに公爵家を継ぐのは……」
公爵家を継ぐ予定は、私が生んだ子の予定だ。本来なら男児が継ぐべきだけれどお父様に再婚の意思はない。もちろん、まだこの先再婚して男児が生まれる可能性は完全にゼロではないけれど。
このままお父様が新たに子を設けない場合、私の産んだ子。
第一王子は皇太子に。第二王子が公爵家を継ぐことになる。無用な相続争いを避けることにもなる。
もちろん場合によっては第三王子や王女が公爵家を継ぐということになるかもしれないけれど。
若くして死ぬなら子供も設けるつもりはないし、皇太子と結婚するつもりもない。
……私が子供を産まなかった、もしくは王室に残る子しか産まなかったりした場合、公爵家を継ぐのは、王弟殿下になるのかな?新たに公爵家を興す話もあるようだけれど、あまり公爵家が増えすぎるのも国としてはよろしくはないわけで。
王弟殿下は隣国の王族や貴族の元へと婿入りするのか、公爵家を新たに興すのか、何も身体は決まっていないんだよね。婚約者もいないのは外交を兼ねた結婚ができるようにってことかな?
本を片手に、庭師、料理人、侍女……いろいろな人の手相を見て回った。
「すごいですね、手相って……」
メイがはぁーとため息を漏らす。
確かに、庭師には家業を継ぐとよい線が出ていたし、普段は農業をしながら、通いで庭師の助手を務めている人には運命線が2本の掛け持ちで仕事をするとよいと出ていた。
……他にもまぁ、いろいろなるほどと思う
「ええ、驚いたわ。結構当たるものなのね」
それよりも私がすごいと思ったのは、皆運命線が強いということ。
仕事熱心な人ばかりなのには驚いた。もし、運命線が薄く、仕事にやる気がないという人の手相を見たらどう反応したらいいのかとちょっと考えていたのが馬鹿みたい。
……でもこれって、たぶん人事に関して人を見る目がある執事と侍女頭のおかげってことかしらね?
部屋に戻っても、メイの興奮は終わらなかった。
「早く3日後になるといいですね。これ、私にある手相と同じです。何を意味するんでしょう」
すっかり手相にはまってしまったようだ。