東国の商人
それから2週間。
ジェフの紹介でと東の国の商人が公爵家にやってきた。
「待っていましたわ。こちらの本なのですが、翻訳できますでしょうか?」
応接室にとおした商人は、細身の小柄な男だ。20歳になるかどうかに見えるけれど、東の国の人は若く見えるという話だから何歳なのかは分からない。
「ワタシ、王都の商店の副店長チェン、店長は文字が読めないので、ワタシ来ました」
流ちょうな言葉遣いとはいえないが、会話に困ることはない。
「ただ、こちらの言葉に訳すは問題ないけれど、文字は書けない」
なるほど。会話はできても書くことまではできないということですか。
東の国の本に視線を落とす。
確かに、全然見たこともない文字ですよね。
隣国は同じ文字で違う言葉ということもありますから勉強しやすいんですが。確かにこれだけ違うと覚えるの大変ですよね……。
「でしたら、声に出して訳してくだされてば、こちらの言葉に書き取るのはこちらでしますわ。メイ、お願いできる?」
「ええ、もちろんです。準備いたしますわね」
メイが準備をしている間に、本をチェンさんの前に置く。
「手相、ワタシ、好き」
「本当?東の国では有名なの?この国では手相は全然知られていないんですよ?」
なんと、チェンさんは手相について少し学んだことがあるらしい。
本に書かれていることを訳しながら、足りない情報を教えてくれる。
夢中で話を聞いているうちに、あっという間に2時間が経った。
「それでは、続きは3日後にお願いしますわ。メイ」
約束していた翻訳の代金に、先生代として上乗せしたお金をメイに支払わせる。
「チェンさん、翻訳とは別のお願いがあります。東の国の美味しいお茶やお菓子があれば教えていただきたいの」
メイがお金を支払いながらちゃっかり、リサーチしている。
うん、それにしても、いつの間に、ジェフとメイのおいしいお菓子提供対決みたいになってるんでしょうね。
まぁ、美味しいお茶とお菓子が楽しめるのでありがたいですけど。
「メイ、手を見せて頂戴!」
チェンさんが帰ってから、メイの手相を見る。
翻訳を聞いていたメイも、自分の手相をちらちらと確認していたから興味深々のようだ。
「仕事運が分かる手のしわ……運命線。手の中央に上下に走る線……えーっと、中指に向かって伸びる線……これね」
メイの手と、たくさん書かれた手の絵を見比べて同じようなものを探す。
「これよね、これ!小指側の下の方にカーブしているわね。この月丘の部分に向かってカーブしている運命線の持ち主は……」
メイがどや顔で私がその絵の下に書かれている文字のを訳した分を読むのを待っている。
「人と接する仕事に向いている」
それから、運命線がはっきりしているかどうか、長さがどうかも関係してくるのよね。
「メイのように、濃くて長い運営線の人は、仕事に対するやる気が強く、熱心に仕事をする」
なるほど。
「当たってるわね」
「ですよね!人と接する侍女という仕事が、私には天職なんです!」
「私が当たっていると言ったのは、仕事を熱心にしてくれるというところだったんだけれど……」
「そんなの、皆当たり前ですよね?」
メイがきょとんとする。
「チェンさんもくっきりと濃い線が長く伸びてましたよね?」
「そうね、それに、商売に成功するこの線がはっきり出てたわよね。今は副店長だけどいつか独立するのかしらね?東の国と公爵家が商売をする足がかりとして親しくするのもいいかもしれませんわね……」
私の言葉を聞いて、メイがクスリと笑った。
手相についてちょっと調べたけど、私の手は全体的に線が薄くて「これは線なのか皺なのか」……自分の手相がつまらなかった……