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婚約のその先

 私、どんな表情をしていたのかな。

 寂しいって顔はしてないと思うけれど。ただ、毎月の殿下の寿命チェックができないから不安になっただけで。

 ジェフが付いているし、毒見もしっかりしてもらっているはずだし。

 使用人の人数も王族にしてはかなり絞って、信用できる者を厳選しているはずだし……大丈夫だよね?

 お父様が私の頭を引き寄せ包み込む。

「……来年になれば、シャリアーゼも学園へ入学する。そうなれば、毎日のように会えるようになるよ」

 お父様の寿命は35年。うん、減ったりしてない。大丈夫だ。

「だが、私はシャリアーゼに会えなくて寂しくなる……」

 お父様が悲しそうな顔を見せた。

 ぎゅっとお父様に抱き着く。

 お父様の寿命は35年。私は微増したといえ15年だ。

 お父様は、最愛のお母様を亡くし、そして娘の私まで亡くしてしまったらどれほど悲しむか。

 死にたくない。

 自分が死ぬのもつらいけれど、お父様を悲しませるのもつらい。

 絶対に、元の寿命に戻して、お父様よりも長生きしなければ……。

「休みのたびに帰ってきますわ。学園は目と鼻の先ですもの」

 寮に入るまでもない距離に学園はある。

 なんせ、貴族のタウンハウスが立ち並ぶ区画である、王宮のすぐ南側の一角にあるのだから。

「そうしておくれ。皇太子妃になると、簡単に会えなくなってしまうからね……」

 そうですね。いくら宰相として王宮への出入りができると言っても、皇太子妃に毎日会うことは難しいですよね。

 執務の邪魔をするわけにもいかないし。

 って、待って、あれ……?

 私が、皇太子妃?

 当然、皇太子の婚約者なんだからそうなんだけど。

 婚約破棄や婚約解消の可能性をいつも考えていたこともあって、実感はなかった。

 今まで漠然と分かっていたような気がしていただけなのに、今、はっきりと自覚して驚いた。

 そうだわ。私、皇太子妃になるんだわ。

 このまま何事もなければ……。

 さすがに、29歳まで生きられる今となっては、婚約している限り結婚を29歳まで引き延ばすようなことはできない。

 私が、殿下と結婚……?

 婚約しているということは当然その先には結婚があるのに。

 当たり前だけれど、知っていたけれど、なんだか実感もなく、自覚も覚悟もなかった。

 寿命のことで頭がいっぱいだったから、意識の外に追い出されていたという感じだ。

 そうか……私、このままだったら殿下と結婚するんだ……。

 もし、寿命がこのままなら私は29歳で死んじゃう。

 私はそれまでに子供を産んでいるのだろうか。

 子供がいたとすれば……。その子は、私と同じように母を小さいころに失ってしまうことになるんだ。

 お母様を亡くした時の胸の痛みを思い出した。

 辛い、悲しい、寂しい、……苦しい、私も一緒に……お母様と一緒に……。

 こんな思いをさせたくない。

 寿命を取り戻さないと。

 もし、とりもどせないのであれば……。

 今までは若くして死にたくないと。殿下を死なせたくないと。そのことばかりを考えていたけれど。

 寿命が元に戻らなかったときのことを考えておかなければならないかもしれない。

 婚約を1年伸ばしてもらったのとは話が違う。結婚してしまってからでは引き返せないことも出てくるだろう。

 婚約を解消してもらうことも考えなければ。寿命がこれ以上減らないで婚約を解消する方法が、有るならば……。


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