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殿下は学園へ

「シャリアーゼ、探していた本が見つかったようだよ」

 探していた本?

 お父様が私に見せてくれた本を見て思い出した。

 そうだ!手相を覚えようと思ったんだった。随分時間がたって忘れていたわ。本が欲しいとお願いしたのは……えーっと、そうそう、かれこれ3年前よね?

 殿下と婚約して寿命チェックを始めたころだった。

 あれから3年。

 馬に慣れるのと同じようにという言い訳で、殿下に触れようとして逃げられることはなくなったからすっかり忘れていたわ。

 もともと「手相を見る」という理由で「殿下の手に不自然なく触れる」計画だったよね?

 いや、他の人の寿命が見えた時に自然に警告できるようにだったっけ?すっかり忘れていたわ。

 私の寿命は14歳の今、15年だ。29歳まで生きられるようになった。わーい。

 わーいじゃないよ!確かに20歳で死ぬ運命よりは9年長く生きられるようになったけれど、まだ若すぎるよね?

 殿下は、まだ毒苺ムースの残党がいるのではないかと気を張ってはいたけれど3年間何の変化もなく、15歳で、残り80年。95歳までの長生き殿下健在だ。

 手相の専門書、すっかり私は忘れていたというのに、お父様は探し続けてくれたんだ。

「ありがとうございます、お父様」

 朝食の後に手渡された本を、早速その場でめくる。

 せっかくなので、ちょっと手相の勉強してみよう。

 と思ったけれど……。

 手にしわがかかれている絵がたくさん並んでいる。その横や下に説明文がかかれているものの、東の国の文字だ。

 何が書いてあるかさっぱりわからない。翻訳者もいるのは当たり前よね。訳した本を手に入れてくれたわけじゃないわよね。さすがに。

 お父様が手の平を見ながら本を見る。

「この親指の上の方から下に向かって伸びている線、私はこれに似てるな。シャリアーゼはどうだ?」

 お父様のまねをして手の平を上に向けて本の中から同じような絵を探す。

「私は、これかしら?」

 お父様はふむふむと言いながら、執事を呼び手の平を見せてもらう。

「セバスはこちらに似てるな。なるほど。手の平のしわと言っても、人それぞれ違うもんなんだなぁ」

 関心したようにお父様が頷いている。

 けれどね……。

「しかし、違うから、何なのだろうね?」

 その通りですよ、お父様。

「書いてあることが分からないと似てる手相探しをして遊ぶだけになってしまいますわね?」

 それだけでもお父様は楽しそうですが。

「東の国の言葉を訳せる者が必要だな」

「ああ、それでしたら……」

 窓の外に視線を向ける。

 庭園に植えられた若木が目に入る。

 殿下が私のためにと手にいれてくれた金木犀だ。殿下が東の国の商人から手に入れてもらった金木犀。

「殿下とのお茶会で東の国の商人のことを聞いてみますわ」

「随分先になるだろう?」

 お父様に言われてあっと口に手を当てる。

 そういえば、そうだった。

 この3年間ほぼ毎月殿下とお茶会をしていたけれど。

 15歳になった殿下は王立学園へ入学。

 学園は全寮制だ。

 公爵家であろうと王族であろうと例外は許されない。

 ……とはいえ、王族用に学園の敷地には寮と言う名の離宮のような立派な建物が建てられているし、公爵家も別宅といっていいような建物が立っている。

 侍女や護衛は元より、料理人などの使用人も好きなように連れていけるため、不自由はない。

 要は親元から離れて暮らすという話での「寮」だ。

 流石に侯爵家や伯爵家になると専用の建物はなくなり共同で使用する寮になる。建物のワンフロアになり連れてこられる使用人の人数に制限が課せられる、子爵家や男爵家になれば寮の1部屋だけになり、使用人は3人までになる。

 あまり裕福とは言えない者は複数人同室ということになるし、使用人は連れてこられない。

「そうでしたわね……」

 寮に入った殿下と次にお茶会をするのは、2か月ほど先になる。

 ……大丈夫かな、殿下。

「寂しいかい?」

 お父様が心配そうな顔をする。

「え?」


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