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口うるさい者たち

「ああ、本当だ。美味いな」

 殿下が満足そうに美しい顔に笑みを浮かべる。

 深い緑の瞳は輝いて、白く滑らかな肌が薄く色づく。幸せそうな顔を殿下は見せた。

 そして、殿下はそのままジェフの方に親指を立てて見せた。美味いぞと伝えたかったのだろう。

 ……ん?ジェフが呆れたような顔をしている。

 やっぱり呆れるか。

「で、殿下、申し訳ありません……。決して、殿下にクッキーを食べさせようとしたわけでは……」

 殿下が顔を赤らめる。

「え?あ、そうか……」

「勘違いさせてしまったならば申し訳ありませんが、絶対に、何があっても、そんなことを私が殿下にするわけはありませんっ」

 強く否定すると、殿下がちょっとしょんぼりとした顔をする。

「……これからも、ずっと……か?」

 は?これはきちんと伝えておかないと。

「そうですっ。いくら、その、馬と親しくなるために餌をあげるというのもあるとはいえ……、私、殿下を馬扱いなどいたしませんわ……!これからもずっとです!

 殿下が目を丸くしている。

「う……馬……に餌……」

 ぼそりとつぶやきを漏らすと、あはははと大きな声を出して笑い始めた。

「なるほど、そういうことか、確かに馬扱いはひどいな。そういう意味じゃないんだが……そっか。そっか。じゃあ、シャリアーゼ」

 殿下がクッキーをつまんで私に差し出す。

 受け取ろうと手を伸ばしたらひょいっと手を持ち上げられた。

 そしてすぐに私の口元へと持っていく。

「で、殿下?私を餌付けするおつもりですか?」

 馬扱いされるのは私の方だと言いたいのかしら?

 殿下ともあろうものが。子供か!仕返しとか、子供か!

 ここで拒否したらどうなる。

 ……あ、寿命が減る。何てこと、たかがそんなことで!

 じゃあ食べたら?

 12だった寿命が13に増えた。たかがこんなことで?

 くぅー。子供め!仕返しが成功するか失敗するかで私の寿命を動かすなんて、剥げろ!

 寿命が増えるなら喜んで食べますよ。ええ、1枚食べれば1年増えるなら、何枚だって。

 馬扱いされようとも、構うものですか!

 にこりと微笑んで、殿下手からクッキーをパクリと食べる。

 殿下が再び真っ赤になった。

「こ、これで、お相子だからな、も、問題ない。全然、問題ないからな?」

 なるほど。私が殿下を馬扱いしたと不敬に問われないように、殿下も私に対して同じ行為をしたということですね。

 ごめん。子供扱いして、剥げろなんて思っちゃった。剥げなくていいです。ふさふさ生えてこーい。

「ありがとうございます。殿下はお優しい方ですね」

 殿下がプイっと横を向いてしまった。

「ジェフにも言われてるからな。婚約者とはいえ、不敬な行いをしたら処罰するべきだと」

 へぇ。

 後ろに控えている無表情なジェフの顔をちらりと見る。

 いろいろとアドバイスしているんだ。ジェフは。

 確かに、いくら婚約者といえ目に余る不敬行為が続くようなことがあれば王室が軽んじられていると思われるし、必要なことだと思うけれど。

 殿下自らが婚約者に処罰を与えたり、言い渡したりすると関係が悪くなってしまうこともあるような気が。

 いえ、もしかいたら他の者に行き過ぎた重い処罰を与えられないように殿下が処理して問題にしないようにという意味なのかな?

 いろいろとアドバイスをしたり、お茶とお菓子を用意したり、毒見役を自ら買って出たり……。

「いい側近がいらっしゃるんですね」

 殿下がふぅと息を吐き出してから、紅茶を口にした。

「ちょっと口うるさいけどな」

「口のうるささで言えば、メイ……私の侍女も負けてはいないと思いますわ」

 でも、大好き。

 きっと、口うるさいと言えるほど、殿下もジェフのことが好きなんだろうと思う。

「それにしても、本当にこのクッキーは美味しいですわね」

 後でどのお店のものか聞いてみましょう。




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