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主として

「もしかして、私のためにわざわざ?ありがとうございます」

 ジェフが薄い茶色い瞳を細めた。

「いえ、私は殿下がシャリアーゼにお茶も出せないのは申し訳ないと言っておりましたので、対応したまでです」

 え?殿下のためでしたか。失礼しました。

「殿下、問題ありませんわ。私、お茶やお菓子を楽しみにこちらに来ているわけではありませんもの。ですが、お気遣いありがとうございます」

 殿下がカーっと顔を真っ赤に染めた。

「べ、別にシャリアーゼのためじゃないいし、そ、それにジェフは自分が食べたかっただけだろ?」

 ジェフがふっと笑った。

「ええ、半分はそうですね。殿下が口にする食事の毒見としておいしいものが食べられて得したと思っておりますよ」

 そう言って、ジェフはテーブルに並べたお菓子の皿とお茶の入ったカップから、殿下が選んだものを口にする。

「側近のあなたが毒見を?」

 驚いた。そりゃ信用置ける者に毒見をしてもらうのが一番安心できるとはいえ。

 やっぱり側近の仕事の範疇を超えてる。

「ええ。とはいえ、毎回というわけではありませんし、私が食べる前にも毒見役はいますので……。どちらかといえば私の毒見は、警戒してますよという犯人への牽制という役割が強いですね」

 なるほど。

 こうしてバルコニーに出てお茶とお菓子をいただく。部屋の中にこもっているわけではないから、ちょっと離れた場所からも様子をうかがおうと思えばできる。犯人が見ている可能性がある。

 側近自らが毒見をしているところを目撃させれば、確かに「もう毒を仕込むのは無理かも」と思わせられるかもしれない。

 だったらいいな。

「すまん……ジェフに危険な役割をさせて」

 ジェフが冷たい笑みを顔に浮かべた。

 ゾッとするような顔だ。

「“殿下のため”ならば、なんでもいたしますよ」

 ジェフはそういうと、すぐに表情を戻す。

 何だったんだろう、さっきの表情。

 殿下が謝ったことが気に入らない?

 ……確かに、使用人が主のために行動することは当たり前で、お礼の言葉は必要ない。ましてや謝罪などすべきではないという考えの貴族もいる。

 ……もしかしてジェフもそのタイプなのかな。頭を下げるものではないと。そのことに怒ったのかな?

 毒見の終わった菓子とお茶を残して、ジェフは再び距離を取って控える。

「ジェフは怒っていたみたいですわね……。殿下のためにしていることが、謝られてしまえば、殿下の気持ちの負担になっていると感じるんじゃありませんか?」

 周りに聞こえないように声を潜めて殿下に話しかける。

「あ、ああ、なるほどな……確かに、謝らせるようなことをしてしまったとなれば、心苦しい思いをさせるのか……悪いことをしたな」

 殿下の顔が曇る。

 あれ?私も言わなくてもいいこと言った感じ?殿下を落ち込ませてしまった。

 空気を換えようと慌てて、焼き菓子を一つ口にする。

「まぁ、これはおいしいですわね」

 甘いクッキーの味なのだけれど、ソフトな歯ざわりだ。柔らかい。ケーキのような柔らかさとも違う。

 クッキーに水分を含ませたような感じといえばいいだろうか。

「殿下も、食べて満足そうな顔をジェフに見せればいいんですよ。きっとそれでジェフは報われますから」

 ソフトなクッキーを一つ持ち上げて殿下に差し出す。

「ああ」

 ああって、殿下!

 私がつまんで差し出したクッキーを、殿下がそのまま受け取りもせずパクリと食べた。

 ちょっとぉ!

 これじゃぁ、なんか、私が殿下に食べさせているみたいじゃないですか!


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