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側近の仕事

「殿下、どこまでこの間の毒苺ムースの話が知れ渡っているかわかりませんが、大っぴらに話ができないのは確かでしょう。こうして内緒話をするためには近づく必要があります。普段から近い距離で離していれば内緒話をしても不審には思われないと思うのです」

「確かにそうだが……」

「私の身を案じてくださるのであれば、問題ありません。先ほど申した通り、一緒にいるからと緊張して倒れるようなことはもうありませんから。気分も悪くなるようなことはありません」

「本当か?」

「ええ。それで、早速ですが、毒苺ムース事件に進展はあったのですか?」

「いや。不審な死を遂げた者が王宮に何人かいたが、彼らと親しくしていた者たちに話を聞いたがさっぱりだ。王宮の外の人間と連絡を取っていた形跡もない」

「その親しくしていた人間がそもそも怪しいということは?」

 殿下がうんと頷く。

「それはジェフも言っていた」

 ジェフ。殿下にとっては、私にとってメイのような存在なのだろう。

 侍女や護衛と共にバルコニーのふちに立っているジェフを見る。

 殿下の側仕え。側近。殿下が国王になった時に国を支える一人になるだろう人物。

「ジェフはもちろん不審死した人間と交流のあった人たちも徹底的に調べさせたよ。その死に関わっている者はいないかという名目で」

 毒事件を伏せて、使用人不審死事件として大々的に捜査はしたわけか。

 賢いやり方だよね。毒事件があったということを知らせて不安をあおるようなことにもならない。その上、使用人の不審死を念入りに調査しているということで使用人たちの好感度も上がるだろう。

 ジェフの発案なのかな?

「怪しい動きをしていた者は見つからなかった」

「そう、もう手詰まりということね……」

 黒幕が捕まらないのは厳しい。

 だって、内部情報に詳しい者が関わっているのだ。また、いつ狙われるか……。

「尻尾を出すかもしれないと、一通り見張りはつくけどね。望みは薄いだろうと。ジェフが言うには、もし本当に悪事に手を染めていたとして、仲間が不審死を遂げたらどうするかと言われた」

 殿下の言葉に、私も考える。

 どうするかな。

「自分も殺されちゃうかもしれないと思って怖くなる?それか悪事がいつバレるかと怖くなる?」

 殿下がうんと頷く。

「そう。ジェフも言っていた。あれだけ巧妙に犯罪を行えるなら、さっさと姿を消すだろうと。まだ王宮にとどまっているということは、白じゃないかと」

 なるほど。そういうとらえ方があるんだ。

 言われてみれば、

 不審死……つまり、殺した犯人が誰かさっぱりわからないし、殺されたかどうかすらもよくわからないように命を落としたわけだよね。

 失敗したらトカゲの尻尾切りのように殺されるというのを目の前で見せられてしまったら。怖くて逃げる。

 いや、トカゲの尻尾切をした人間が残っている可能性もあるってことだよね?

 でも、さすがにばれると困ると思って内部からは距離を置く?

 うーん。

 とにかく犯行の黒幕がいると考えて、黒幕につながるヒントをこれ以上見つけるのは難しそうだということ……か。

 殿下の命……もしくは私の命を狙う人間が、まだどこかにいる。

「お茶はいかがですか。お菓子もありますよ」

「ああ、ジェフ。頼む」

 殿下の側近のジェフがにこやかな顔をしてお茶とお菓子を乗せたカートを押してきた。側近の仕事ではない。

 毒を警戒してということだろうが……だったら、今まで通り何も出さなければいいと思うんだけど。

「こちらは、王都で評判のカフェから今朝分けていただいた茶葉とその向かいの評判の菓子屋のクッキーです。私が直接購入して、誰にも触れさせていませんから大丈夫ですよ」

 え?

 皇太子の側近が自ら買いに行ったというの?

 ますます、側近の仕事じゃないけど……。

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