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少年の旅立ち3

 場所が変わって、朝食を終えた真白は実家の隣に柵で隔てた神社に来ていた。

 目の前の賽銭箱に貯金して貯めた円満の意味がある一万円札を入れ、鈴を鳴らして、礼と手を合わせて願い事を念じながら拝んだ。

 その様子を後ろで静かに見守る祖父と両親。


 真白が終わったのを見計らったように黒髪、サングラス、黒スーツの女性とその後ろを付いて来てる顔を布で隠した神秘的な模様の司祭の服を来た人の二人組がこちらへとやってきた。

 それを見た両親たちは顔を合わせないように逸らし、祖父は敵を見るかのように睨みつける。


「失礼ます。本日は真白君をお迎えにあがりました」


「貴様……!」


 女性はその視線に気にすることなく、事務的に対応した。

 彼女は三森 鈴子。政府側の人間で真白の監視担当者。

 今日ここへ来たのは真白を神楽島へ向かわせるために、後ろで物珍しそうに周りを見渡している人物を連れて来た。

 その人物に見覚えがある。それは1月1日に全国放送で挑戦者になった人達一覧を公開した神楽島の使徒だ。

 使徒には挑戦者を転移の術を使ってあの島へ送る役割を持つ。


「緑さん、そんなに睨まないでください。これは総理のいえ、国のためなのです。それに神楽島からの賓客の方もいますし……」


 三森が後ろを見ると、こちらのやり取りを眺めるように使者は佇んでいる。


「何が国の為じゃ! 政府の人間が願望器である聖杯を独占するために一体どれほどの若者を島へ赴かせたのだ!」


「島に赴いた若者は一年に100人。世界からすれば些細な人数でしょう」


「貴様、それでも人間か!」


「これは国が定めた法です。私個人としては好ましくありません」


 三森だって毎年あの島へ行かされる若者達の事で胸を痛めている。しかし自分ひとりで政府の人間に立ち向かう事は無策に等しい。今の彼女には従うしかできない。


「どんな言葉を繕ってもお主も政府側の人間であることは変わらぬ」


「私の事をどう思われても構いません。私はただ仕事をするのみです」


「貴様……!」


 熱くなり、いかにも掴みかかろうとする緑を蒼太が止める。


 それとはよそに、後ろで控えていた使徒が家族の傍にいた真白に近づく。近づいてきた使徒に真白は怯えるが、使徒は膝を屈んで目線を始める。


「はじめまして、白尾 真白君。私は使徒とばれているものです。今日はあなたを神楽島に迎えるために来ました」


「あ、はい。はじめまして。白尾 真白です。よろしくお願いします」


 相手が礼儀正しくしてきて、真白はそれに合わせて対応する。


「三森さんから聞きました。真白君は10歳にして歴史初の最年少の挑戦者と聞き、私は驚いています」


「は、はぁ……」


「そう言えば、真白君は『神童』と呼ばれているようですね」


「……」


 真白はこう見えて『神童』と呼ばれる才はあった。何回か最難関の大学入試模試をやってみて、受けてみた数だけ合格した。大学からは推薦がくるが、真白は断った。無理して年上の場所に行かなくても同年代のいる学校にいた方が自分には合っていた。

 『神童』と呼ばれているが、真白の性格もあって周りとは仲良くやっている。友達と遊んだり、勉強を教えたりして、その日常が楽しかった。

 それなのに挑戦者に選ばれて、学校や町内の人達や家族、友達と離れ離れになるのがとても辛かった。目の前にいる使徒の存在がもうこの日常の最後だと現実を突きつけられる。


「……もしかしてそう呼ばれることは嫌でしょうか?」


「……い、いえ。そうではありません」


 正直、神童と呼ばれることは嫌だった。ただ頭がいいからって年上だらけの環境にいくのが嫌だ。でもこれから行く場所は同い年がいない年上のいる島だ。


「真白君は本当は行きたくないのですか?」


 使徒がそう言って来てが、三森のいるから本心を言えない。


「……真白君。本来は挑戦者の意志を尊重して島へ送るようにしています。なので行くことを拒否しても構いません」


 使徒がそう言ってくれるが、


「いいえ。僕にその選択はありません。僕は行かなければなりません」


 家族や友達の安全のために自分が行って聖杯を取って持って帰らないといけない。


「……わかりました。では真白君をお連れします。よろしいですか?」


「はい。でも最後に家族とお別れを言ってもいいですか?」


「わかりました」


 そう言って、使徒は立ち上がり、三森のいるところまで離れる。


 真白は自分の荷物を引き寄せて、家族に向き合う。


「お父さん、お母さん、おじいちゃん。行ってきます」


「真白……」


 朱音が優しく小さな真白を抱きしめる。


「お母さん?」


 母の方を振り向くと、肩がふるえているのがわかった。


「やっぱりいや……!行って欲しくない!」


「でもそうなったらお母さん達が……」


 政府に捕まり、聖杯を献上するまで人質状態となる。


「構わない。僕達は真白が生きていればそれでいい」


「お父さん……」


 真白は一歩下がり、母の腕をゆっくり解く。そして父と母を交互に見る。


「僕はお父さん達に不自由な扱いにしたくありません。それに決められているのなら逃げることなんてできないと思います」


「真白……」


 もう真白を止めることはできない。


「……真白。絶対、絶対に帰って来て。私達はあなたが帰ってくるのをいつまでも待っているから」


「……。ありがとう、お母さん」


 涙をこらえて朱音がそう言うと、向かい合う真白も泣いてしまいそうになる。

 まだ10歳の真白。本当ならまだ親元ですくすくと育つ年代だ。それなの挑戦者に選ばれてしまい、早くに親元を去ることになってしまった。


「……では、行ってきます」


 言いたくない言葉を口に出した。


「ああ、行ってらっしゃい」


「必ず、帰ってこい」


 二人から言葉を受け取って、真白は三森と使徒の方へと歩いていく。


「使徒さん。よろしくお願いします」


「はい。では門を開きます。『転移門、発動』」


 使徒が手を突き出すと、そこに人が入れ来るくらいの大きさの光の渦が現れた。


「この渦が神楽島に行く転移門になります。準備はよろしいですか?」


「ちょっとお待ちください」


 そこへ三森が待ったをかけた。


「私にも真白君にお別れを言わせてください」


 そう聞かれて使徒は真白に尋ねると、真白は頷いた。


「真白君。今日まであなたを監視して窮屈な思いをしてごめんなさい」


「いえ、三森さんは良い人でしたから、窮屈さは感じませんでした」


 真白は政府の人間である三森を嫌ってはいない。

 三森は今日まで影から真白を監視している間、気にかけてくれたりして相手をしてくれた。だからこそ三森は悪い人ではないと真白は思っている。


「おじい様にも言いましたが、私だってこんな無理矢理なことをはしたくありません。政府にあらがえない私が恨めしいです」


「三森さん……」


 サングラスで目は見えないが、口を思いっきり噛んでいた。


「三森さん。お願いがあります」


「え?」


 真白が三森にお願いしたいこと。


「僕の家族を守ってください」


 自分がいなくなったら家族がどうなるかわからない。ならせめて政府で信頼が出来る三森に家族を任せたい。


「島に行ってその後、僕にどんなことが起こるのかわかりません。だからせめて三森さんに家族の身の安全をお願いしたいんです」


「……わかりました。今の私にできるかわかりませんが、真白君の守ります」


「よろしくお願いします」


 家族を守ってくれる約束した三森にお辞儀をして、真白は使徒が開けた光の渦に歩いて行った。


「……?」


 その時、どこからか鈴の音が鳴る音とここにいる人達以外、離れた所からの視線を感じた。


「どうかなさいましたか?」


 あたりを見渡していると、使徒が声をかけて来た。


「い、いえ。何でもありません。あの、よろしくお願いします」


「はい。真白君を安全にご案内します」


 そうして、使徒と共に光の渦に入った。


(……さようなら)


 心の中で自分の故郷と家族、友人達に別れを告げ、光の渦は消えた。

 たった今、白尾 真白は挑戦者たちが集う神楽島へと旅立った。


 ☆


『……』


 神社の屋根の上で、人の形した空間の歪みが佇み、真白の旅立ちを見守っていた。


『……まさか、あの子が選ばれるとは』


 溜め息を吐き、その視線を神楽島がある方角へ向ける。


『なれば、私があの子を導き、守り通そう』


 そう言って、人の形が溶けるように空間の歪みが無くなった。

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