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少年の旅立ち2

「「「いただきます」」」


 朝食を並び終え、家族四人が箸を動かす。今日は真白の好きな料理だ。

 真白にとってこれは母の作る最後の料理だ。だからしっかりと味わおうと思った。


「……真白、ちといいかのう?」


 食事中に今まで黙っていた緑が口を開く。


「は、はい。何でしょうか?」


 緑が話しかけて来たことに緊張する真白。普段緑は家族相手でも喋らない事が多い。


「真白は本当に……このまま、行ってしまってもいいのか?」


「……はい、僕はそう決めました」


 緑の問いに真白は間を開けて答えた。


「いくら政府の法で決められているからと、自分を犠牲にするようなことはいかん」


 なぜ緑の言葉に政府が出てくるのか、それは神楽島が出現した時代に遡る。


 ☆


“証を持つ挑戦者たちよ。己の力で塔に挑み、試練を乗り越え、我が主に打ち勝ったものにたった一つの望みを叶う事が出来る万能の願望器『聖杯』が与えられるだろう”


 そう世界に伝えられ、挑戦者になった者達が聖杯を手に入れるために神楽島へ赴いた。しかし、誰も帰ってこなかった。


 神楽島が存在し続けたまま時は流れ、挑戦者になっても行く人は少なくなっていった。しかし、聖杯を望むものは挑戦者になった者達だけではない。


 聖杯の存在を知った世界各国の首脳たちはそれを欲していた。

 政府は聖杯を自国のものにするために法律を築き上げた。


・挑戦者に選ばれた者は自国の命に従い、神楽島に赴き、塔を攻略し、聖杯を手に入れ、これを献上する。

・従わない場合、法律違反と見なし、強硬手段を行い、関係者及び一族を拘束し、聖杯の献上を解放条件とする。


 真白が挑戦者として神楽島に行くことを拒んだ場合、彼の周りの家族や親戚、関係者を人質にして聖杯を手に入れようと政府はそうしようとしている。

 とある時に聞いた話によれば、それでも拒んだ場合、その挑戦者を拘束して、強制的に島へ送ることもあるらしい。


 なんとも勝手すぎる法律であるが、この法律は真白が生まれる前にできたもので挑戦者は一部を除いて、それに従っている。

 

 いや。従っても従わなくても自分から行くか、強制的に行かされるか。人質の自由を監視か拘束かの扱いの違いだ。


 真白が挑戦者の証が発覚した翌日に政府から黒スーツの役人が訪問し、歴史上初の最年少でも例外はせず、真白に島へ赴くよう命じるが、それに対して家族は猛反対。法令違反となったとしても自分たちの子供を守るという勢いであった。

 だが、真白は命令に従った。親達は説得するも真白にとって法令違反となってしまう家族を見たくなかった。

 それでも親達は説得を続けるが、真白の決意は固く、やがて親達は何も言えず俯いてしまい、今日となってしまった。


 そのことを思い出して、4人の表情は暗くなり、箸を持った手が動かなくなった。


「早すぎる……何もかも……!」


 真白が若すぎること、この日が来たこと、どちらに意味を込めて拳を食卓に叩きつけるように言葉を吐いた。


「……本当ですね。真白はこんなに小さいのに。このまま一緒にいられると思ったのに……」


「朱音さん……」


 最愛の息子がいなくなってしまう事に涙をこぼしそうになる朱音を慰める蒼太。


「もし、ばあさんがここにいたら何と言って居ったのだろうか」


 緑が言うばあさん、白尾 紫は今世直しの旅に出ており、ここにはいない。


「いたとしたらきっと、殴りこんでいたんだろうな。でも結局は同じだろうな。それに政府の目も……」


 蒼太がもう息子を守ることが出来ないと思うようにそう答え、顔を上げる。


 政府の目。挑戦者となった者が逃亡を阻止するために物陰から常に隠れた役人がここ数日監視を行っていた。


 そして沈黙が再び続いた。


「お父さん、お母さん、お爺ちゃん」


 何か言った方がいいと思い真白が口を開く。


「僕の事は心配しないでください」


「だがしかし……」


「もう戻ってこないって訳ではありません。いつか帰ってこれるかもしれません」


「だけど、あの島に行った今までの挑戦者は全員帰ってこなかったんだよ」


「……そうですね。でももしかしたら」


「……そうあって欲しいわね。私だって真白がいつか飼って来て欲しいと思っているわ」


「ありがとう。お母さん」


「……蒼太よ」


「はい。父さん」


 何か思いついたように緑は蒼太に話しかける。


「確か、あいつの息子もずいぶん前に挑戦者に選ばれたのだよな」


「兄さんの子の事ですか? そう言えばそうですね」


 あいつとは緑の息子にして蒼太の兄。その兄の息子が挑戦者に選ばれて、島へと赴いていた。


「ただ生きているかどうかは……」


「そうだな。だがあやつの息子じゃ。そう簡単に死ぬような奴ではでない」


「ええ。兄さんもあの子も何かと生命力は超人並かそれ以上ですからね」


「うむ。真白よ、もし島で奴が生きていたら頼ってみてくれ」


「はい。わかりました」


 そう言って真白は箸を動かした。最後の食事を忘れないように味わった。

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