第3話 ネギ抜き麻薬卵2
「ったくよぉ……。なんで、俺が見張りなんかしないといけないんだよ。せっかくの寝心地の良い夜なのに………。犯人が現れたら、絶対八つ当たりしてやるからな………!」
俺はタオルケットで身を包みながら、夜のキッチンに鎮座していた。あかりの命令により、麻薬卵の監視を命じられたのである。
しかし……、こんなことをしたところでなんになるんだよ………。別にネギなんて無くたっていいのに……。
頭では文句を愚痴ってばっかりの俺だが、それを口に出すと妹に何をされるか分からないため、すこぶる真面目に冷蔵庫を見張っている。
だが……、想像以上にこの作業は暇だ………。眠い、とにかく眠い。ダメだ。『眠い』と脳内で言うだけでもっと眠くなってくる。あ、しかも今『眠くなってくる』も使ってしまった。もっと……、眠く………。
ああ……、気持ち良い。みんな、おやすみなさい………。
仕事を任されたにもかかわらず、それを放り捨てるという背徳感を得た俺は、30分もしないうちにいつもより心地良く意識を手放す。そして、そのまま寝ること2時間。俺は不快かつ強烈な臭いで、目を覚ました。
「ゔぇっっ………。生臭っ……。らめらマイデハキそう………」
眠りの深い俺の意識を、一瞬で覚醒させるほどの強烈な腐敗臭。これは……、ネギの臭い………!? 何かを滅する主人公のようなセリフを思い浮かべ、タオルケットを鼻に当てつつ臭いの根源を探る。臭いは……、冷蔵庫の前から漂って来ていた。
ということは……。俺はダイニングテーブルの陰からこっそりと冷蔵庫を覗く。するとそこには衝撃的な光景が広がっていた。
緑色の塊から手が伸びて、冷蔵庫を開けている。一瞬、○ーモかモ○ゾーのどちらかかと思ったが、アイツらがこんなネギ臭い訳がない。化け物だ。人間ならざる存在がキッチンに侵入してしまっている。
こんな異常事態に心臓は爆発寸前。だがしかし俺は目の前のコイツを取り逃がせば、あかりの強靭な拳が今度は頭蓋を突き抜けてしまうかもしれない。
……となれば、俺にはこの化け物を打ち倒すしか生きる道が無いのだ。やるしかない。俺は足音を立てないように一歩また一歩とにじり寄って、戸棚からフライパンを取り出す。
いくら化け物とはいえ、脳天を仕留めてしまえばひとたまりもないだろう。ようし……、やってやる。俺は勢いよく走り出すと、力一杯にフライパンを振り上げる。
これは、いける…………!! この勝負、もろたで、○藤っ!! 確信の笑みを浮かべながら、俺は全力で化け物の頭に渾身の一撃を振り下ろす。しかしその瞬間に緑色の塊が歪んだように見えると、フライパンは見事に空を切り、嘲るような高い笑い声が背後から響き渡っていた。