6.飴玉の誓い
火曜日。
私は、勉強を終えて寮に向かう。
そして、寮の最上階に転送機で行き、一番奥の部屋をノックする。
私は、入る許可を得ているので、ノックをすれば鍵が開く。
居間を通り抜け、寝室のドアの前にたどり着いた。
すぅー。はぁー。
深呼吸をする。
このドアには鍵はかかっていないが、マナーだ。
ノックをする。
しかし、返事はない。
もう一番、ノックをしたが返事がない。
ガチャ。ドアを開ける。
中には昨日と同じようにベッドに腰かける異世界人の姿があった。
「…こんにちは。失礼します。」
私は、怖がらせないようにいつもよりゆっくりとした動作で、静かに扉を閉め、異世界人に近づく。
ベッドを隔てた距離で、足を止める。
「私は、マリンです。よろしくね。
もしよかったら、あなたの名前を教えて。」
異世界人は、今日も窓から外を見ていた。
私も、何を見ているのだろうと、外を見た。
寮の裏の芝生と木が見えた。
それに、空、そして鳥。
何もない景色だ。
彼はこれを一日中、見ているのだろうか。
「今日は、お前だけか。」
彼は、外を見たままで、こっちを見ずに返事をした。
「ええ、そうよ。」
昨日はサンライが一緒にいたが、今日は私しかいない。
「…俺は、勇者なんかにならない。とにかく帰りたいんだ。」
彼の目に苦悩が映る。
私は、どうすればいいのか分からなくなった。
自分が悪いことをしているように思えた。
「…。」
結局、何も言えなかった。
彼は、帰りたがっている。
精神的に弱り切って、とても町ひとつ破壊してしまうような力を持っているようには見えない。
自分の部屋に戻って来た私は、どうにかして説得できる手立てはないか、考えたかったが、それをすることは自分の良心を裏切っていることのように思えて、悩んでいた。
それに、簡単に説得できそうにない。
タンスにしまっていたサンライからもらった飴玉の入った箱を取り出す。
箱のふたを開けて、きれいな玉を眺めていると、無性に食べたくなる。
でも、気持ちを抑えた。
なぜなら、これは説得に成功したら食べると決めていたんだ。
いくら糖分が脳のエネルギーになると言っても、私は我慢する。
そして、ふたを閉めた。
そう、私はこの飴玉に誓った。
自分で道を切り開くと。
異世界人を説得することは、彼がこの地で生きていくためにも必要なことだ。
そして、私とお父さんとお母さんの未来にも。
サンライ、チャンスをくれてありがとう。