2.突然、実家に帰ると言われる
「え?…実家に帰る?」
私の自分の耳を疑った。
カイが学校を辞めて、実家に帰るというのだ。
放課後、校内の静かな庭園。
今日は少し風が強い。
「ほんっとうにごめん!
マリンがこんなに頑張って魔王討伐隊に入るチャンスを手に入れたのに、俺のせいでふいにしてしまって…。」
カイは男性にしては、細身で白い肌をしている。
落ち込んでいるようで、うつむいている。
彼には、庇護欲というか母性本能をくすぐられる。
「大丈夫だよ!もともと、無理な話だったし…。
カイのお父さん大変なんでしょ?
家族に頼られてるんだね。
私のことは考えずに、帰ってあげて。」
私は、カイに負担を掛けたくなくて笑顔で言った。
強がり。
本当はあきらめたくない。
「マリン…。」
カイは今にも泣きそうだ。
瞳がうるんでいる。
そんな顔されたら何も言えないよ。
「…カイが実家に帰ったら、私たちの関係は終わっちゃうのかな?」
カイは前に言っていた。
“俺とマリンが魔王討伐隊になったら、両親も結婚を認めてくれると思う!”
だから、私はここまで努力したのだ。
「…うん。俺には婚約者がいるから…。それに、マリンとは、身分差があるから、関係は終わりになる…。」
私が孤児だから…。
分かってた。
私は今まで夢を見ていたんだ。
今日は、金曜日。
先生に剣術を教えてもらう日だったけど、行かなくてもいいかな?
だって、もう必要ないもん。
私はトボトボと、寮への道を歩いた。
強い風のせいで、砂埃が目に入って痛い。
「おい!どこ行くんだよ!練習始めるぞ!」
ティム先生の声がする。
体育の先生で、怒ると迫力があってすごく怖いのだ。
先生の中でも一番まじめで、最初私が課外授業をしてほしいと言ったら断られた。
見つかってしまったら、しょうがない。
それに、もともと私がお願いしたのだ。
「先生。すみません、練習します。」
自分でも驚くくらい、元気のない声が出た。
「おい、まさかやる気がなくなった、って訳じゃねえよな。
お前、自分のパートナーにバックレられて、へこんでるのか?
あんなへなちょこ、逆によかったじゃねーか。」
流石、学校の先生だ。
生徒の情報はもう回っているようだ。
「カイは、しょうがなく実家に帰らないといけなくなってしまったんです!
それに、私はもうパートナーがいないんですよ。
私のような身分がない生徒と組んでくれる人なんていないんです。
…もう全部、無駄だったんだわ…。」
私は途方に暮れて、頭を抱えた。
先生は驚いたように目を見開いている。
「マリン。お前。そんなことで、夢をあきらめるようなやつだったのか。
今までのこと、全部男のためにやってたのかよ。
…まあいい。今日は、練習なしだ!」
先生はあきれたように手を振った。
私は、そんな風に言われて反論したかったが、なんて言えばいいのか思いつかなかった。
「ちゃんと、今後のことよく考えろ。
俺は、お前には才能があると思う。
もちろん、ちゃんと磨かなきゃ輝かないがな!」
そう言うと、先生は走ってどこかに行ってしまった。
私の本当にしたいことってなんだろう?
ティム先生の言ってたことを考えながら、今日は帰路についた。