東日本人民共和国 建国大会 メモ
東京 霞が関。かつて日本の行政の中心だった場所だ。そのとある会場で今、ある会見が開かれようとしている。このメモはその一部始終を書いたものだ。このメモがだれの目に入るかはわからない。しかし、とりあえずメモを残しておくことが、自らの務めのような気がした。
壇上の右から、64歳ほどの女性の声が聞こえる。「これより、国家行政委員会委員長兼国家主席、椎大主席の就任宣言及び建国大会を開会いたします。」その声とともに、ゴージャスな音楽が流れ始めた。赤い幕が開き、その中から赤黒いガウンに身を包んだ72歳ほどの男性が現れた。そしてマイクに首を傾け、「本日、東日本人民共和国の初代国家行政委員会委員長兼初代国家主席に就任いたしました、椎大でございます。この度は、苦しい戦いの末、国民の平等、幸福を実現したこの東日本人民共和国を建国させていただき、誠にありがとうございました。」そして、拳を聴衆の前に掲げた。「我が国は、やがては列島の民すべてを束縛から解放し、国民の平等を実現させることを約束します。この平等を守るべく、皆さんにはまだまだ戦ってもらう必要があります。ここに、我が国の建国は宣言されるのです!」その力強い声が響き渡った後、ポケットから紙を取り出し、机の前で広げた。「宣言 我が国は、東日本人民共和国として独立し、あらゆる束縛から人民を開放する。そして、人民は国家行政委員会の前に平等な存在として誇り高く存在する。この平等を守るため、人民は国家行政委員会を支援し、守り、補助する義務がある。国民の権利等においては、のちに定める憲法に記載するものとする。この宣言はこの国が存在する限り永遠に尊重されるべきであり、この宣言に合わない行動は慎むべきであり、法はこれらを認めてはならない!」聴衆はぽかんと見ていた。中には手を叩いているものもいた。ただ静寂が包まれていた。「以上で建国宣言を終了いたします。これより質疑応答へまいりますので、指名されたらお名前と属する組織や肩書を明らかにしたうえで質問をしなさい。まず、NHKの森岡さん」森岡さんと指名された男性が立ち上がり、マイクに向かって質問した。「NHKの政治部記者森岡です。発言の中に列島のすべての人民を開放するという発言がございましたが、それはつまり現在東日本人民共和国の支配下にない日本が実効支配している他県に軍を送るという解釈でよろしいでしょうか。もしその解釈でよろしいのであれば、それはいつごろ実行されるのでしょうか。」国家主席は答えた。「その解釈で誤ってはおりません。実行時期については、今後2,3年間は国内の整備や法律を整えるため防衛目的以外ではあらゆる軍事力を行使しないことを委員会で決めております。よって今後2,3年は行いませんが、その時間がもし過ぎ、潮時と判断したのであればすぐにでも実行いたします。」言い終わると壇上の右にいる女性が私を指名した。私はここでは名乗らないことにするので、名は言わないことにする。ただ、以下のような質問をした。「宣言の中で、国民の権利等においては、のちに定める憲法に記載するとありますが、その憲法の内容を簡潔に述べられていただけますか?」主席はこう答えた。「国民は、委員の指導の下、生活する権利、人権を踏みにじられない権利などを保証するという内容になっております。しかし、委員会でも揉めており、まだ簡潔には決まっていません。しかし、来週に発表される予定です。」その言葉を言い終えると、壇上の右にいる女性は、「それでは、以上で会見を終了させていただきます。」と言った。聴衆たちはざわめき、カメラや手帳やペンを手に取り、主席に詰め寄った。すると、発砲音が鳴り響き、それ以降聴衆は静寂に包まれた。
もう、東京は東日本人民共和国の支配下なのである。そのことは変えようがない。これからどうなるか、私にはわからない。しかし、今この流れを止められるものなどいないのであろう。これ以上書き過ぎてはいけないので、ここで私は筆を結ぼうと思う。