大魔王さまの影武者やってますがそろそろ限界です
「うぅ」
私はキリキリ痛む胃にうめいた。
「どうしました、魔王さま?」
「なんでもない。気にするな」
何でもないわけあるか。
私の横、円卓に座った真面目そうな魔族の女性が首を傾げる。
円卓に座れるのは、我が魔王軍の幹部だけだ。
弱肉強食を地で行くお国柄ゆえ、彼女は私なんて片手でひねり殺せるくらい強い。
彼女だけじゃない。
そんな、私よりも圧倒的に強い存在が私を囲むよう十二の席に座っている現状。
正直おうちに帰りたい。
座っているだけで、わたしの胃にやさしくない。
「徹底抗戦だ!」
「そうだ!」
血の気の多いのが、円卓を叩いて意見を述べる。
衝撃で円卓にヒビが…。
なんの話をしてるのかと言うと、ヒト族との問題をどうするかだ。
ヒトは怖い生き物だ。
ドラゴン見かければ狩って鱗や牙を剥ぎ取っていくし、幻獣見れば狩って羽を毟っていくし、魔獣と会えば狩って肉を食べつくす。
ヒトって怖すぎじゃないだろうか。
だから大事なことだ。
なんだけど。
「円卓こわすなよ」
ぼそり呟く。
せっかく皆の意見を聞くために取り寄せたのに。
「サンちゃんなにか言った?」
私の右隣、13番目の席の男が首を傾げた。
だが、私が答えるより前に。
「クロノ、魔王さまに対して口の利き方に気を付けろ!」
隣の女性が円卓を叩いて、円卓は物理的に崩壊寸前だ。
お前も気を付けてほしい。
「アイズ、新参者が俺に意見しようって?」
「関係ない」
「へえ?」
獰猛に笑うクロノは、幼馴染で本物の魔王だ。
ほんもののまおうさまである。
彼が魔王となった時、その地位を私に押し付けやがった。
曰く、私の方が向いているからと。
ぜったいうそだ。
「魔王様が円卓を置いたのは、我々が争うことなく対等に意見を言い合うためだ」
「ああ。だが俺はお前を気に入らねえ」
クロノから威圧感が強まる。
「ひぇ」
一触即発の空気。
私は泣く泣く、ドン! と円卓に拳を叩きつけた。
そして円卓は木端微塵になった。
サヨナラ、九代目。
「ここに座る以上、円卓が壊れるほど争うなと言ったハズだ」
「壊したのサンちゃんじゃ」
「あ?」
私はバカを睨みつける。
「承知しました」
「わかったよ」
「わかればいい」
ああ、胃が痛い。
本当、そろそろ辞めたい。
◇ ◇
ところで、癖が強い魔王軍が曲がりなりにも纏まっているのは、ひとえに魔王代理のサンライトの功績だ。
円卓に座る者は一人を除いてそれを理解しているし、誰も代わりなんてやりたがらない。
だから彼女は辞められない。
知らぬは本人だけ。