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流石に、王様を狙った事件だったので、レオン様のお父様も、レオン様も、なかなか帰ってきませんでした。
今日は、公爵家の本家に来て3日目です。
朝起きて、ビックリしました。
起こしに来た、マーヤさんと、リーヤさんの顔が、腕を伸ばしたくらい離れた距離までなら、見えるのです。
まあ!なんと素晴らしい。
本当です。マーヤさんと、リーヤさんは、鏡に映ったようにソックリでした。
見える事を伝えれば、二人は、涙を流しながら、喜んでくれました。私は、なんて優しい人たちに囲まれて、幸せなんでしょう。
これなら、レオン様のお姿、お顔を見る事ができます。それも、なんと幸せな事でしょう…。
レオン様のお母様と、治して下さった先生にお礼を言わなくてはいけません。そう思い、マーヤさんに言えば、これから朝食の席で、レオン様のお母様には、会えると教えてくれました。
服を着替えて、鏡の前に立ち、数歩近づいていきます。成長して初めて自分の顔を見ました。
「こんな顔だったんですね。」
「とても可愛らしいお顔ですよ。」
「そうなんですか⁈」
今まで、見えていなかった私には、いい悪いの判断基準が無いので、顔という認識しかありませんね…。
これから色々見れるのが、とても楽しみです。
朝食の席で、レオン様のお母様に、眼の事を伝えてお礼を言いました。
レオン様のお母様も喜んでくれ、私をご自分の近くに呼びました。
近くで見た、レオンお母様の顔は、ずっと見ていたいと感じました。ああこれが、キレイとか見惚れると言う感情なのですね…。
眼が、美味しい物を食べたかのように、離れたたがらないのです。
「困りました。レオン様のお母様…。
おキレイ過ぎて、私の不甲斐ない目は、自制が効かず、眼が離せません。」
素直に、感情を口にすれば、
「あらあら。まあまあ、ふふふふふ…
嫌だわ、こんなおばさんに…ありがとう。」
と、はじめは驚いた顔をされ、その後にお礼を言いながら微笑まれました。
ああ。眩しいです。光ってないのに、眩しいと感じることがあるんですね。
その日のお昼過ぎ、レオン様のお父様がお帰りになられました。
お母様とお出迎えをしましたが、お父様は、お疲れで、挨拶をしたら、すぐにお部屋に行かれました。
マーヤさんと、リーヤさんが、しばらくしたら、別宅から、迎えが来る事を教えてくれました。
レオン様も、お屋敷に帰られたようです。
お迎えが来る前に、治癒魔法使いの先生にお礼に行きました。先生は、顔にシワのある、優しい御老人でした。
迎えには、セバスさんが来てくださいました。
セバスさんは、マーヤさん、リーヤさんからの報告で、私の眼の事は知っていました。
会ってすぐに、よかったと、近くで、顔を見せて下さいました。
セバスさんは、渋いと言うか言葉が、よく似合う大人の男性でした。
セバスさんは、不思議な事を言いました。
「お迎えには、参りましたが…。
マリア様の住みやすい方に、居ていいとの、レオン坊っちゃまからの伝言でございます。」
「?」意味がわからなくて、首を傾げます。
「目が、見える様になりつつありますからね…。坊っちゃまには、色々気にかかる事があるようですね…。本当にヘタレ…っゴホゴホ。
マリア様が、好きな方に、お住まいになっていいと言う事です。本家と、別宅どちらがよろしいですか?」
セバスさんが、はじめに口の中で何か呟きましたが、言葉になっていない咳ばらいの前は、聞き取れませんでした。
好きな方に、住む事を許されると言うなら、答えは、簡単です。
「私は、住む場所は、どこでもかまいません。置いて頂けるなら、レオン様のお側がいいです。」
なんでしょう。セバスさんの顔が、これでもかと言う程微笑みました。そして、直ぐに帰りましょう!と、レオン様のご両親に挨拶を済ませると、あっという間に、別宅に連れ帰られました。
連れ帰られ、着いた部屋は、前から貸して頂いている、使い慣れた私の部屋です。
出かけた時のままキレイに掃除されています。
マーヤさん、リーヤさんに言われるまま、着替えをして、レオン様のお部屋に、帰った挨拶をしに行くためです。
2人の雰囲気は、フワフワ楽しそうです。
私も、久しぶりにレオン様に会えるのが、嬉しいです。
レオン様のお部屋の前で、ノックをします。中から許可を得たセバスさんが、扉を開けてくれました。
カタン。
部屋の奥で、足音がします。
あれはレオン様の足音です。椅子から立たれたのでしょう…。
私は、レオン様がいるだろう方を向き、淑女の礼で挨拶をしました。
「ああ。」
レオン様からは、何か硬いお声が、帰ってきました。
そして、近づく許可も頂けません。
部屋の中には、しばらく沈黙が落ちます。
今まで、そんな事は、ありませんでした。レオン様はいつも、快く迎えいれて、目の不自由な私が、不自由しないように、直ぐにお側に置いて下さいました。
ああ…。今は、不自由じゃ無いから、お側に寄らせていただけないのでしょうか…。
それは、なんだか、すごくすごく寂しいです。
「お茶の準備ができました。」
沈黙を破って下さったのは、セバスさんです。
セバスさんは、私の手をとり、ソファーへ誘導してくれました。
いつもなら、向かい側のソファーに、レオン様が座られるのですが…。
「私は、ここでいい…。」
レオン様は、部屋の奥にある執務机に行かれた様です。
なぜでしょう…。近づいて頂けません。
この間の有事で、余分な事をして、足を引っ張ってしまった事をお怒りなのでしょうか…。
ああ。私を庇った時、大事な、豚の剥製が、傷ついたと、お母様が、説明して下さいました。
そうでした。私のせいで、大事な物が傷付いてしまったのです。お怒りは、ごもっとも…。
ですが、優しいレオン様は、私にお怒りには、ならない。でも、鎮め切れないお怒りを私にぶつけないように、距離を取られいるのでしょうか?
私なんか…叱り飛ばして頂いて良いですのに…。
お優しいレオン様は、ご自分の中に閉じこめるのですね…。
でも、悪い事をしたのは、私です。謝らないわけにはいきません。
「レオン様…。あの……あの時は、庇って頂きありがとうございます。その…足手まといになり、大変申し訳ありませんでした。あと、そのせいて、大切な物を傷つけてしまったと、伺いました…。
本当に申し訳ありません。」
「あ。いや、君がなんともなくてよかったよ。僕こそ、弓から、庇ってくれて、ありがとう。」
少しだけ、レオン様の雰囲気が、いつもの雰囲気になりました。ですが、やはり近づいては、下さいません。
その日から、ずっとレオン様は、ある一定の距離以上、近づいて下さらなくなりました。