6
王族主催のパーティーです。
この度は、私が18歳になっての、貴族会へのお披露目と、男爵令嬢である事を王族に認めてもらう必要があるそうです。
ですが、私の両親は、罪を犯し男爵位を剥奪されましたので、そのまま継ぐと、イメージが良くないと言う事です。
私の実家は、ルース男爵様と言う男爵様に、譲り受けられました。
“長年の功績とかうんぬん…の褒美”とされたようです。ルース男爵様は老夫婦で、子供が居ないそうです。
私は、そこの養子と言う扱いになるそうです。
養子になれば、レオン様の元を出て行かなければならないかと、心配しましたが、書面上の形だけと言われ、安心しました。
私は、貴族の娘として生まれましたので、これは、この社会には、必要な事だと、セバスさんに教えてもらいました。
ダンスやマナーも、皆さんが親切に教えて下さいました。ダンスだけは、なんとレオン様もが、協力してくださってます。
レオン様の靴の靴底に少し固めなものをはめ込み、床との接触音を他の方の靴音と変えて頂きました。
これだけて、足の運びが、追いやすいので、すごく助かりました。
普段の屋敷での、生活人数の足音だけなら、誰の物か聞き分けられますが、パーティーのように、何人もの不特定多数の足音が混ざると、聞き分けられませんから…。
今日は、リーヤさんと、マーヤさんに完璧な御令嬢に見えるように、着飾ってもらいました。
ドレスは、レオン様からのプレゼントです。
とても嬉しいです。手触りがすごくいいです。
みれませんが、皆さん似合っていると言ってくれました。レオン様は、何も言ってはくれませんが、頷いていたような気配を感じたので、ダメでは無いはずです。
屋敷からエスコートして下さってる、レオン様は、今日も変わらず無口です。
ですが、醸し出す雰囲気は、柔らかで優しいので、いつもと変わらないようです。
ですが、私は、少なからず緊張しています。
まず、レオン様との初めてのお出かけです。
それだけでも、嬉しくて緊張します。
もちろん、それだけではありません。
王様に挨拶するそうです。王様です。一番えらい人です。
しかもその後は、レオン様と2人で、ダンスをするそうです。
そして何より、レオン様のご両親もこのパーティーに参加されています。
お忙しいお2人には、居候の身なのに、お会いするのが今回はじめです。
屋敷を出て行くよう言われないかと、心配で不安です。
もう、緊張する事しかありません。
パーティー会場に着き、招待状を渡し受付をすれば、名前を呼ばれ、広間に入るそうです。
私には、広間も受付もわかりません。
杖も、令嬢の装いに、相応しくない為、今日は、ありません。
心配したセバスさんも、リーヤさんもマーヤさんも付いて来てくれましたが、会場の中には、来られません。
受付で、彼らとは分かれました。
彼らには、控室があるそうです。
頼るのは、隣のレオン様だけ…。
レオン様の足音を聞きながら歩きます。
ダンスだけでなく、こんな時にも助かりました。
レオン様が、数秒立ち止まりました。
そして歩きだしました、靴音の響き方が、かわります。
ああ…。段差があるのですね…。
レオン様は、無口ですが、とても優しく、気遣いのできる方です。
今も、着慣れないドレスの私に合わせ、レオン様の歩調は、ゆっくりです。
先程も見えないので、段差に引っかかって転ばないように、足を一度止める事で、私に知らせてくれた配慮です。
レオン様は、昔から変わらず、お優しいです。
もう、本物の天使様では無いと、わかっていますが、私にとっては、かけがえの無い、大切な優しい私の天使様です。
そんなレオン様の腕を取り、歩けるだけで、幸せで、胸が、温かくなります。
自然に頬は緩みます。
レオン様のお顔が見たい…と、隣を見上げますが、もちろん見ることはできません。
今の生活には、何不自由なく、幸せそのものですが、こう言う時、レオン様を見えない…それだけは、残念です。
2人で、広間に入れば、不自由な目にも眩しい光がさしました。
どうやら、周りは、すごく明るいのでしょう。
レオン様が進まれるので、従って進みます。
すると、会場の音楽とざわめきに紛れ、コソコソと小さな話声が聞こえます。
「まあ、豚様よ。くすくす。」
「お隣の方はどなたかしら?きっとお金目当てよ。」
「豚公爵が、女性をエスコートしてるぞ。おいおい、どこかから、さらってきたんじゃないのか?」
「いや、無理矢理連れて来たか、金を握らせたんだろう。くくくく」
なんでしょう。耳を塞ぎたくなるような事を話しています。
豚公爵とは、きっとレオン様の事でしょう…。
セバスさんから、レオン様が、普段から豚の剥製を付けている事は、聞いています。
ですが、それは、レオン様の心を守るための物。
あの様に、バカにされる物では無いはず…。
なにより、私は、さらわれても、無理矢理でもありません。むしろ、私の為に、レオン様が、無理をして付いてきて下さったのです…。
レオン様には、申し訳ない限りです。
これ以上レオン様に、恥をかかせないように、気合を入れ直さなければなりません。
レオン様は、まだ止まない周りからの嫌味や、からかいの言葉を無視して、進みます。
どこか目的があって進んでいるような、足取りです。
私には、わかりませんので、従って付いていくだけです。
レオン様が、足を止めました。
私は、目が見えませんので、セバスさんから、それを知らない誰かと目が合い、「無視した。」や「失礼な!」と、とられないように、できるだけレオン様の方を向くよう言われています。
今も、レオン様の方へ顔を違和感ない程度に向けているつもりです。
「父上、母上ご無沙汰しています。」
「よく来たな、その格好は相変わらずか…。はぁー。まあいい、それより、元気だったか⁈」
「はい。おかげさまで。」
「で、こちらが…?」
「はい。マリアです。挨拶を…」
レオン様に、かすかに背中を撫でられます。挨拶をする合図です。
「お初にお目にかかります。ルース男爵家長女、マリア・ルースと申します。
レオン様の、お父上様、お母上様、お会いできまして光栄にございます。長らくお世話になりながら、挨拶が、大変送れました事、大変失礼いたしました。心よりお詫び申し上げます。」
と、セバスさんに言われた、挨拶をマーヤさんリーヤさんに教わった、淑女の礼をしながらいたしました。
心臓は、口から出てこないかと、心配するほど、ドキドキしています。
「ほう。これはこれは。
キミの事は聞いているよ。大変だったね。だが、よくここまで…」
「まあまあまあ。なんて、可愛らしい。それにその身のこなし、本当に目が?
私は、ずっと娘が欲しかったの。どうぞ私を本当の母と思い仲良くいたしましょう。」
レオン様のお母様でしょうか、柔らかい優しい手が、私の手を包みました。
なんでしょう。手が暖かいからでしょうか…。胸も温かいです。
「ありがとうございます。どうぞよろしくお願いします。」
手を持たれているので、膝を折るだけの簡易の礼をします。
こんどは、男性的な大きな手で、優しく頭を撫でられました。
「私の事も忘れないで頂きたいね…。」
優しい頭の手は、どうやらレオン様のお父様のようです。
「はい。ありがとうございます。」
本当に、優しいお2人です。流石レオン様のご両親様です。
「さて、では、陛下の挨拶を拝聴するために場所を変えるよ。その後は、陛下に、直に挨拶に向かうからね。ついてきなさい。」
レオン様のお父様に言われて、レオン様は、私の手を自分の腕に、誘導してくれます。
私は、掴まっていなければ、はぐれてしまいます。
陛下への挨拶の言葉に、緊張し、ついつい腕を掴む手に力がこもります。
それに気が付いた、レオン様は、掴まれていない手で、私の手を優しく撫でてくれました。
「心配ありがとうございます。はい。大丈夫です。」
レオン様の気遣いが嬉しくて微笑みます。
先程の緊張が、嘘の様に柔きます。
移動してしばらくすれば、陛下がおみえになると、声がかかり、会場が静かになる。
陛下が現れれば、われんばかりの拍手が、会場を包んだ。
陛下の挨拶が終わり、レオン様一家と、挨拶に向かいます。レオン様のお家は、王家の遠い親戚で、公爵家です。挨拶の順番も早いのです。
私は、本来なら男爵家なので後の方なのですが、今日は、レオン様のパートナーとして来ているため、一緒に挨拶させて頂けるという事です。
挨拶は、つつがなく終わりました。代表して、レオン様のお父様が、挨拶されたので、私は、自分の名前と淑女としての挨拶のみです。安心しました。
その後、陛下から、男爵令嬢として、社交界へのデビューを認めると言うお言葉をもらいました。
次は、レオン様とのダンスです。楽しみですが、また緊張してきました。