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私の名前は、マリア。
ずっとずっと寒くて暗い部屋に、閉じ込められていたの。だからずっと天使様に祈っていたの。
毎日ずっと助けて下さいって。
だから、最近、天使様に助けて頂いた。
天使様は、小さい頃唯一見た絵本にあったような、キラキラの髪なような気がしたけれど、寝て起きたら、大きな鼻の大きなお顔になっていました。
お名前は、レオンハルト様。
キラキラの髪でも、大きなお顔でも、
天使様のお声と匂いは同じ。
とっても、心地いい優しい声で、ずっと嗅いでいたいくらい、とってもいい匂い。
私の目は、あんまり見えないの。
だから、かな⁈お鼻とお耳は、すごくいい。
人の動きは、音でわかる。
でも、天使様が、連れてきてくれたお家には、知らない音が沢山。
知らない言葉も沢山。だから、一生懸命色々な音を聞き取ってる。でもわからない事が多くて、少し悲しい。
でも、みんな痛いことはしない。
誰も大きな声で、怒鳴らない。
触ってくれる手は、とっても優しくて心地いいし、お風呂にも入れてくれた。
偉いねって褒めてくれた。
傷も治してくれた。
暖かい服を着せてくれた。
美味しいスープもわざわざ食べさせてくれた。
もっと沢山ほしくて、仕方なかったけど、お腹が痛くならないように、少しづつくれた。
私を気遣ってくれた。
すごくすごく嬉しくて、心がポカポカしてる。
お顔もポカポカしてる。
ヘニャヘニャ笑顔が出てきて、なんだかくすぐったくて、クネクネしたくなる。
なんかヘンテコな気分で、下をみたら、気分が悪いのかと、心配して、背中を撫でてくれる。
やっぱりここは天国なんだな。
天使様は、私を天国に連れてきてくれたんだ。
天使様に、次、会ったらお礼を言おう!
ありがとう。
沢山沢山ありがとうって。
心が、ポカポカするのが、こんなに嬉しいのを知りませんでしたって。
それで……
天使様に、ここにずっと居てもいいですか?って聞かないと…。
居たらいけないって言われたらどうしよう…。
私に何ができるかな?
何でもするから居させてくださいって言うには、何かできないとだけど、何にもできないから…。
助けてくれたけど、何も役に立たなかったら、どうなるのかな?
天国も、私みたいに役に立たない人はいらないのかな?
ああ…お母様も、役立たず!って、私をよく叩いてた…。そうか…。役立たずは、居場所がないのか…。
どうしたらいいのかな⁈
だれか、だれか教えて…。
私は、どうしたらここにいられますか?
さっきまで、ポカポカだった心が、なんだか、ザラザラして、喉の奥がぐーってして、胸がムカムカする。
悲しい気持ちが、どんどんやってくる。
誰か、誰か…。
ベッドにある、天使様の匂いがする、柔らかいクッションに、顔を押し付けた。
クッションを抱きしめていれば、なんとなく落ち着く。
天使様が来たら、まずはお礼。
優しい方のお母様が、言ってた。お礼と笑顔は、忘れちゃダメって。
そうだ。笑顔だ。
また、クッションに顔を埋めて、大きく息を吸えば、天使様の匂いがする。
うん。優しい気持ちになれた。嬉しい気持ちになれた。笑顔になれた。
天使様、いつ来てくださるかなぁ…。
でも、夜遅くになっても、その日は天使様は帰ってきませんでした。
私は、クッションに抱きついたまま寝ました。
朝になると、昨日お世話してくれた、侍女のマーヤさんと、リーヤさんが、来てくれました。
彼女達は、朝の支度をするといい、色々と世話をしてくれます。
世話の中に、きき慣れない音が沢山あるので、もし、よかったら、今何をして、何を持っているか話しながら、お世話してもらないかと、頼みました。
部屋の中は、昨日歩きまわったので、だいたいの位置やサイズ、家具の並びもわかりました。
今は、お風呂場に来て着替えています。と思っていたら、お風呂場に行く手前に、ドレスルームがあり、そこで着替えているそうです。
ドレスルームってなんですか⁈
着せられた服は、何だかふわふわしています。そしてだいぶ重いです…。
重みに耐えれずに、座りこんでしまいました。
マーヤさんが、気付いて、ドレスは少しづつならしていく、事になりました。
ですから、今日は、丈の長いワンピースです。
着替えが済めば、部屋の扉の外に、セバスチャンさんが居ます。
「あの…セバスチャンさんは、どうして入って来ないんですか?」
「え?」
マーヤさんと、リーヤさんが不思議な声をあげました。
なぜでしょう?
「セバスさん、もう、扉の前におみえなんですか?」
リーヤさんが、扉に向かい話しかけました。
「はい、控えております。どうかしましたか?」
「「まあ‼︎」」
2人は、揃って驚きました。
「なぜわかったのですか?」
「足音で…」
「え⁈セバスさんの足音?一番足音がしないしかも、気配を消せるセバスさんの足音ですか?」
なんだか、驚かれてしまいました。
「では、私どもの、区別もつくのですか?」
マーヤさんから、そう問われました。
「区別ですか?マーヤさんとリーヤさんですよね?」
どう言う意味かわからず、左右に居る2人に、マーヤさんの声のする方に、マーヤさんと手を向け、リーヤさんの声のする方へリーヤさんと、手を向けた。
「まあ、なんですごいんでしょう。私達は、双子なんです。親でも見分けがつかない程似ていて…。周りには、声も似ていて、判断が付かないとよく言われるんです。」
「確かに似ていますが、足音と、呼吸と、体の動かし方が、微妙に違います、」
「体の動かし方⁈」
リーヤさんは、びっくりして、一歩後ろにさがったようです。
マーヤさやんは、手を口に当てて、やっぱり驚いたようです。
なぜそんなに、驚いているのでしょうか…?
部屋の中に、入ってきて、話を聞いたセバスチャンさんも、何だか驚いています。
何か悪い事をしてしまったのでしょうか…。
急に不安が胸をよぎります。
そんな私に、セバスチャンさんが言いました。
「数日中に、あなたに家庭教師を付けます。今まで学べなかった事や、これから必要になることをしっかり学んで下さい。それまでは、しっかり休んで、体力をつけるのが、仕事ですよ。」
「それは、役に立つ?ここにいられる?」
「そうですね。役に立ちますし、きちんとこなせば、ずっと、レオンハルト様のお側にいられますよ。」
「嬉しい。それは、頑張る。やります。教えて下さい。」
こうして、セバスチャンさんが、ここにいる為に、私にできる事を教えてくれました。