自殺者駅
久々の投稿です。
今回は公式企画のホラー作品「夏のホラー2020」です
少女が二人。電気もつかない廃駅の中を歩いていた。
一人の少女が腕時計を見ると夜中の21時半を回っていた。
「ねえ本当に幽霊でるの?」
「なに怖いの?」
「確かに私が気になったから行こうって言ったけどさ」
「まあ怖いなら別に外で待ってていいんだよ。私が幽霊見つけたら写真に収めて一人で賞金貰うんだからさ」
「もー、そんなこと言わないでって。私も行くから……。だけど本当に幽霊が出るの?」
「噂なんだけど、昔あった学校の近くに潰れかけの駅があったんだけど、その駅の怨念が宿っているらしい。ちなみにその怨念はいじめを苦に自殺した女子高生の噂でもあるし、その親友って噂もあるよ」
「何それ怖い」
「実は今でもその女子高生の霊が現れて悩める思春期の少女を連れて行こうとする……らしい」
「らしいってあやふやすぎ」
「んー、私も人の話をマタ聞きしただけなんだけど確かこうだった――」
休み時間、私はぼんやりと外を眺めていた。
校舎の窓越しから見えるのは駅。と言っても小さく、利用客は少ない。
原因はいくつもあるが一つは電車が来る本数が少ない。
他の要因は別の場所にも駅があること。
そちらは大きくいくつも路線が繋がって交通の便は良いせいか、周囲には色々な店が並び発展しているからだ。
今通っている学校の生徒のほとんどもそっちを利用しているだろう。
まるで片方は田舎駅、もう片方は都会の駅を対比しているかのようだ。
そのため私達は旧駅、新駅と呼んでいる。
そしてここが重要で、この旧駅では電車は各駅停車でしか止まらず大抵は通り過ぎる。通過速度が速いせいもあってか自殺者の名所として後を絶たなかった事。
自殺の理由は不明だが多くは若い男女で、更にはこの学校の生徒の人身事故という噂らしい。
じきに廃線になると聞く。
「美香、どうしたの?」
「え?」
そう私に話しかけてきたのは同じクラスメイトの神崎美香。
ポニーテールが特徴で笑顔が素敵な普通の女子。
私が高校に入学して初めて声をかけてくれた最初の友達であり大切な親友。
その後もクラスメイトとも仲良くなり人気者でもあり私の密かな憧れでもあった。
佳奈のおかげで私は佳奈以外のクラスの女子とも仲良くなれた。
「せっかくのぼんやり眺めてて、もしかしてまたなんかやらかした?」
「違うよー」
「えーけど美香はこの前だってドジ踏んでガラス割ったじゃない」
「あれは男子が悪いんだよ。あんな所にあんなのがあるなんて気が付かないよ」
「確かにね。あれは男子が悪い」
「でしょー」
「そうじゃないとするなら、もしかして……恋煩い?」
「そんなんじゃないよー」
「またまたー」
「佳奈だってあの先輩と付き合ってうまくやっているんでしょ?」
「えへへ、うん!」
当時サッカー部で人気の男子の先輩。名前は確か峰原尚人だっけか。
あんまり良い噂を聞かないけど、美香が幸せそうな笑みを見せていたので口をつぐんだ。
他の女子から佳奈と呼ばれそちらに向かう姿を見て、これからも嬉しい事があるんだろうな。
この時はまだそう思っていた……。
その日の放課後、私は新駅近くの店に用があったため向かっていた所、私の名前を呼んでるのに気が付くと振り返った。
呼びかけたのは美香だった。
「佳奈」
「丁度彼とデートしてたら、偶然美香がいたから声をかけてみたんだよ」
「あ……、えーと」
「そういやまだだったね。私の彼氏、峰原尚人先輩だよ」
髪の毛を茶色に染めて、へらへら笑っている。
確かにイケメンではあるけど私はあんまり好きじゃないかな。
「美香の友達? へぇ……こんな可愛い子がいるなんて。佳奈ちゃん俺も友達になろうよー」
「もー尚人ったら、美香に手を出そうものなら怒るよ?」
「わーった。わーったって。美香は心配性だなー」
仲の良いカップルに見えるが、あんまり受け入れられなかった。
美香は気が付いたように、私に謝る。
「ごめんね佳奈。こいつ女と見かけるとすぐ声かけるんだから」
「ううん、平気。あ、私用がまだ済んでなかったんだ」
「あ、ごめんね。また一緒に遊ぼうね」
「うん」
私は美香と峰原先輩と
次の日学校の廊下を歩いていると誰かが声をかけてきた。
「佳奈ちゃん」
振り返るとそこに居たのは峰原先輩一人で、美香の姿はない。
相変わらずへらへらとした笑み。
「いやー、佳奈ちゃんが一人で歩いていたから思わず呼びかけちゃったよ」
「あの……なにか?」
「つれないねー。昨日出会ったばかりでちゃんと自己紹介してなかったからさ」
「知ってます。峰原……先輩。サッカー部の」
「お、良く知ってるね。そう今はまだだけど活躍し俺はのちのエースともなれる男」
「それでそのエースさんが何か用で?」
「昨日美香と別れたあとで君の事気になってね。これから仲良くなれたらと思って」
「はぁ……」
「あんまりよろしくない反応だね。まあいいや、今日暇? 遊びにいこうよ」
「いえ、忙しいので。チャイムが鳴りましたし行きます」
私はその場から離れるように走った。
あんまり関わり合いたくないと思ったからだ。
その日の放課後、再び新駅近くを歩いていると美香がいた。
「あれ? 美香と峰原先輩に……もう一人は別の学校の女子生徒?」
どうやら揉めているらしく、佳奈が泣きそうな表情を見せ峰原先輩から走り去った。
私は心配し美香のあとを追うように走った。
「美香!」
「あっ……佳奈」
椅子に座っていた美香は私に気が付くと目元を袖で拭う仕草をする。
「えへへ。もしかして見てた?」
「うん……」
「私ね。先輩が好きだったんだよ。一生懸命彼女して。一緒に楽しもうとして。だけどさっき先輩を見つけたら……」
大まかな予想はできた。
美香という彼女がいながらも峰原先輩がナンパして他の女子と歩いているのに遭遇したんだと。
私みたいに声をかけて。
私は美香を抱きしめた。
「大丈夫」
その一言で美香は私の胸で泣いた。
悔し泣きだっただろう。
その後、あんまり覚えてないけど、多分私達は家に帰ったと思う。
次の日、学校にいくと美香がいた。
自分の席の机の上を一生懸命消している様子。
「美香?」
私は疑問に思いながらも美香に声をかけた。
「あ、佳奈。おはよう」
「うん、どうしたの? 何か消してたようだけど、手伝おうか?」
「ううん。何でもない大丈夫」
机の上を見てもほとんど消されていた。
しかし美香は元気がない様子だった。
なんだかクラスメイトの女子達がクスクスと笑ってる気がする。
安易に何をされたかは予想は出来たけど、美香が何もないというんだから私は自分の席に大人しくついた。
この時、もっと美香に気をつかうべきだったと後悔する。
放課後、私は教室で居残りをさせられていた。
机の上には紙切れが一枚。
「もー、確かに私がガラスを割ったのは事実だけども……」
担任からもわざとじゃないとしても流石に申し建てできないという事らしく、反省文を書く事で許してくれるそうだ。
渋々、反省文を書き終え廊下に出ると。
「あれ? 美香と先輩……?」
別校舎の廊下を歩いている美香と峰原先輩の二人の姿が見えた。
ポニーテールが特徴の姿だから間違いなかった。
何か揉め合って、美香が先輩の頬を叩いた。
顔はなんだか暗い表情を見せていたかに見えた。
その日を最後に美香が学校に来ない日々が続いた。
そんなある日の夜に美香から電話がきた。
「美香? どうしたの学校にも来ずに心配してたんだよ」
「……」
「美香?」
「……ねえ、佳奈。私と一緒にいこ」
「行くってどこに?」
「旧駅で待ってる」
電話が切れた。
私は心配になり旧駅に向かうと、駅のホームに美香が立っていた。
顔はとてもやつれ、あの時の元気な美香は見当たらない。
「美香。どうしたの?」
「ねえ、佳奈。私といこ?」
「わからないよ。それにいくってどこに? 私は元気な美香に戻ってほしい」
「佳奈。私ね疲れたの。どこか知らない所へ佳奈と一緒にいきたい」
「どうしたの美香!」
廃駅になるとはいえまだ運行はしている。
今の精神上からすぐにわかりそうなのに美香の事をまだ私は理解していなかった。
電車がやってくる。
速さからして急行。間違いなくこの旧駅には止まらない。
「佳奈……先に逝くね」
そう言い残すと電車に向かい美香は飛び出した。
「え?」
私は呆然と見るしかなかった。
美香の飛び散る血肉が頬に服に当たる。
思考が追いつかない。わけわからない……。
私は状況を理解し始めると叫んだ。
警察が到着すると、私は倒れていたらしい。
気が付くとベッドの上。
警察が複数人来たが、利用者の少ない駅とは言え監視カメラは付いていた。
口論になっていた所、美香が勝手に飛び出した所が映っていたとのこと。
美香の死は自殺で処理されるだろう。
精神的にダメージを受けた私はしばらく入院していたが、医者から問題ないと判断して久々に学校に行くと美香の上には花瓶が置かれてあった。授業が始まってもそこに美香はいない。
美香がいないいつも通りの日常。
美香は死んだんだと改めて実感させられた。
わかっていたのにどこかぽっかり穴が空いた感じで喪失感に襲われる。
喪失感も月日とともに忘れ去られ、美香のいない現実を受け入れ始めた時、クラスメイトからある噂が流れていた。
「何かあの旧駅で女子高生の幽霊が現れるらしいよ?」
「女子高生?」
「なんかその子手招きするんだって。いこうって言いながら」
「なにそれ怖い」
「それを気になった人が近づくと突如として消えたとか」
「幽霊なら当たり前じゃない?」
「何かそれが違うんよ。男だとすぐ消えるけど女だとこうも言うんよ。どうして来なかったの? って」
「なら私達やばいじゃん」
「だよね。それに他にもポニーテールをしていたらしくて」
「ポニーテールって……もしかして美香? うっそだー。幽霊になったとか?」
「もしそうならヤバくね? うちらあれにひどい事したじゃん……」
「何言ってるの。あたしらは悪くない、あれが勝手に自殺しただけじゃん」
「そ、そーよね」
美香?
私は耳を疑った。
あの時ちゃんと止めてれば美香は幽霊にならなかった?
放課後になり私はいても経ってもいられず、旧駅へと向かった。
駅のホームを探すが、もちろんそこに美香はいない。
日は落ち始め辺りは暗くなり始める。
私は諦めかけたその時、懐かしい声を耳にした。
「佳奈」
声の方向へと視線を向けるとそこに居たのは美香だった。
当時と変わらないポニーテールが特徴の笑顔が素敵な美香。
「美香? ねえ私、佳奈だよ!」
「知ってる」
「ごめんなさい。一人にしてごめんなさい。私がもっとちゃんと気づいていれば」
「ううん、いいの」
「だけど……」
「なら私のお願い一つだけ聞いてくれる?」
「分かった美香の頼みなら」
「一緒にいこう」
「うん、わかった。だけどどこにいくの?」
周囲にはいつの間にか人がたくさんいた。
遠くから電車がやってくる。速さからこの駅には止まらない。
電車が近づくにつれ美香は私の後ろへと回った。
「私とね……私達と一緒に逝こう」
ドンっという音とともに私は線路へと突き飛ばされたのだ。
落ちるまでゆっくりとした視界の中、私は目を疑う。
視線を美香と思っていた顔は別人で、更に別人になり。
そうか、何でこの旧駅で自殺者が多い謎がわかった。
私みたいな多感な時期の子だと何か縺れがあって、それらが廃線になる駅の思念に吸い寄せられるんだと……。
そう思いながら私は警笛が鳴る電車にぶつかった。
「――というわけ」
「何だか可哀想……」
「まあね。けどだいぶ前の出来事らしいし、あくまで霊が出るのも噂ってだけだから」
「……」
「どうしたの?」
「あ、あれ……もしかして……」
指さす方向に視線を向けると、一人の女子制服を着た女性が線路の上に立っていた。
手招きをして二人を誘っている。
二人を凝視し続け何かを喋っていた。
「い……こ……う?」
「行こうってどこに?」
「いや、行こうじゃなくもしかして……逝くってことじゃ……」
『き、きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁ!』
二人は背中が凍る思いに駆られ叫び、慌てて駅から逃げるようにその場を離れた。
誰もいない廃駅、しかしそこに女性の幽霊が迎え入れようとする噂が流れる。
今もどこかで手招きをして……。
ご観覧ありがとうございます。
今回夏ホラーの企画に応募させていただきました。
本来なら最初はサラリーマンとホラー関係をと思いつつ執筆したんですがどんどんわからなくなり消して。
次に老人とホラー関係をと思いつつ執筆して消して。
最後に女子高生とホラー関係のこの作品になりました。
まあホラーにすべきでしたが何故か執筆していくうちに女子高生の青春物になってしまったね。
無理やりホラーへと修正しましたが。
ではまた別の作品にて。