第0話 暑い挨拶
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毎朝うるさいセミの合唱がアラームに代わって数週間。この教室は、全開の窓から流れるそよ風によってなんとか一命を取り留めていた。・・・・・・のだが俺はもう死んでるから早く帰ってシャワー浴びてアイス食ってパンツ一丁でクーラーがんがんに効かせておいて布団かぶって昼寝してえ。
「・・・・・・よし、これで一学期は終わりだ。明日から夏休みになるが、遊びすぎて宿題をやってこないなんてことはないように。9月にまた笑顔で会えることを願ってるからな。あーそれと、もう言うまでもないことだとは思うが一応言っておく。絶対に異世界転生なんかするんじゃないぞ。じゃあ解散」
先生がそう言うとクラスメイトたちは待てを解かれた犬のように、灼熱の監獄から抜け出して行くのであった。そして俺もまた脱獄犯の一人である。
俺は今、心の中で存在しない誰かに向かって話をしている。まあ神でも仏でも地獄の閻魔でも俺の心の呟きを聞くことなど出来はしないのだが、道端でブツブツと独り言を言って気味悪がられるよりもずっと健全だろう。
そしてその神や仏や地獄の閻魔よりもすごい能力の持ち主であるあなた!返事は全く期待していないが自己紹介させてもらう。俺の名前は藤田龍、誕生日は2月9日で血液型はB型、好物はラーメン寿司カレー焼肉ギョーザ・・・・・・というかなんでも。嫌いな食べ物はナシ。趣味はナシ。特技もナシ。セールスポイントもナシ。
とまあこんなところか。家に着いてから面倒になって適当になったがご愛敬ってことで一つヨロシク。じゃあ俺は今からシャワー浴びてアイス食ってパンツ一丁でクーラーがんがんに効かせておいて布団かぶって昼寝するからまた今度な、どっかの誰かさん。
―――ん?なんだここは。さっき昼寝のために布団にもぐって、まだ起きてないハズなのに。・・・・・・というか何も見えないんだが?なぜか、ここが絶対に夢の中じゃないってことはわかるけども。
そこは現実でも、夢でもない。音もにおいも、温度も、自分の身体の存在感や何となくの第六感も、人間が感じる一切合切が無いどこかだった。
「 」
わかってはいたが声も出ない。叫ぼうとしても何も出来ない。俺は一体・・・・・・。
「―――あーあー、フジタリュウ君、聞こえているか?聞こえていたらなんでもいいから返事をしてくれ。」
「 」
「 」
ダメだ、声が出ない!誰かわからんが話しかけてきたのに、聞こえてるのに返事ができない!
「―――よし、ちゃんと聞こえているようだ。では説明を始めるがその前に軽く自己紹介をすることにしよう。君へのお返しだ。」
え、今なんて?!ていうか返事してないんですけど!
「私はNAMELESS、名無しなんだ。役職は特殊異世界転生者選別神。誕生日、血液型、好物等全てナシ、だ。」
すまん、自己紹介されたが全く理解できん。まさか心の中で呟いたことが異世界の神?とやらに聞かれていたとはな・・・・・・。それで、わざわざ返事をしてもらっておいてなんだが、今どういう状況なんだ?ただ自己紹介しにきただけ?ってそんなわけないと思うけど。
「フジタリュウ君、単刀直入に言うが、キミは異世界に行きたくはないか?・・・・・・とまあ愚問だが、一応聞くことにしているんだ。この世界の住民は皆、好き勝手に異世界に転生してきているのだからな。キミも異世界に転生したければもうとっくにしているハズだ。」
俺は名無しの言うことをイマイチ理解していなかったが、ガタイの良い男性の凛々しくハッキリとした声、年老いた女性の少ししわがれた優しい声、小さな子どものように若く明るい声。そんな不思議な彼?彼女?の発する音に、どこか懐かしさを感じていた。と言っても音も何も感じない空間にいるのだから気のせいなのだろうが。
それで、異世界転生については去年の春頃から定期的にニュースになっているが詳しいことはあまり知らない。今月の異世界転生者は〇名でした、くらいしか報道されていないのだから当然なのだが。ネットには嘘か真か様々な噂や考察が転がっているが・・・・・・そういえば去年同じクラスだったやつが異世界転生について熱心に語ってきていたな。えーと、確か―――。
「フジタリュウ君、異世界に転生するのかどうか今すぐには問わない。こちらの世界で一週間経ったら、またこの場所へキミを呼ぶ。それまでに心を決めておいてくれ。それと今回のことは、一部記憶に制限をかけさせてもらうが、まあなんてことはない。ではまた。」
あ、おい、ちょっと待ってくれ!最後に一つ聞きたいことが―――。
「・・・・・・さむ。」
調子に乗ってクーラーの温度を下げすぎたか。ちょっと頭痛いし・・・・・・というかまだ1時間しか経ってないのか。なんかマラソン大会の後くらい疲れてる気がするんだが、これからクーラー効かせて昼寝はよそう。
腹減ったし、コンビニ行ってなんか食おう。
「あつすぎだろ。」
思わず口からこぼれてしまった、誰も聞いてなくて良かったぜ。そういやー真っ昼間よりもこのくらいの時間の方が気温が高くなるって聞いたことあるな。
そんなことを考えながら、太陽光の照り返す灼熱のコンクリートの上を歩く。冷蔵庫のように冷えきった家との急激な温度差のせいか、まだ5分も経っていないにも関わらず夕立に遭った後かと思われる程、汗で濡れていた。昼寝から覚め体調が優れない俺から、煉獄の地面に揺らめき立つ陽炎が世界を隠した。
「あー・・・・・・これ、やば―――」
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