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法具補修師は王子殿下に求婚される  作者: 葵月さとい
第五章「法具補修師たちは未来のために戦う」
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⑮ハーキマーの願い

ちょっと短いですが、お楽しみください。

 薄らと、空が白みはじめた。

 ラオフィーネは、ここが船の上だということも、今まさに世界が闇に染まりつつあることも忘れ、補修することだけに全神経を集中させた。

 それを可能にしたのは、共にいる精霊達への信頼だ。

 広がっていく闇を炎で薙ぎはらうイーフと、次々と闇をのみこんでいくダイン。

 それから憎しみにとらわれたまま、呪いを吐く魂達に、キズナは「鎮まれ」と呼びかけ続けた。

 はじめは振り向きもしなかった、かつて人であった魂達のなかには、キズナの(こえ)にみずから安寧を選び、消滅するものもいた。

 レクメスとテクメスは、船をはさむように陣取り、身を盾にラオフィーネ達を守る。


 一方、光竜(レイドラゴン)【アズーラ】の降霊のために、リーネとサザナミも準備を進めていた。


「今の私に出来るのは、光竜(レイドラゴン)をこの次元に導くことだけ。簡略した儀式になるから、使役することも、意思疎通もできないわ。だから、あとはアナタに任せるわね」

「具体的に、どうすればいいんだ?」

光竜(レイドラゴン)()い願うのよ。光の守護を受けている人間の言葉なら、きっと叶えてくれるはずよーー」

「闇を祓ってほしいと、頼めばいいんだな」

「ええ。だだし、高位の精霊は魂を()るわ。やましい想いからの願いは聞き届けてはくれない。その点、アナタは大丈夫そうだけど?」

「無論だ。俺は守りたい者を守るために此処(ここ)にいる……」


 サザナミは補修をしているラオフィーネに目を向ける。

 どうやら無事に補修は終わり、不備がないかシオンに最後の確認をしてもらっているようだ。


「殿下……」


 名前を呼ばれた。

 ハーキマーの声だった。

 上体を起こそうとするハーキマーの姿に、慌てて駆け寄る。


「無理をするな。横になっておけ、ハーキマー」

「……殿下、……ガジ……こと、な……」


 ハーキマーが浅い呼吸を繰り返しながら、何かを伝えようとしている。

 掠れでる小さな声を逃さないように、サザナミは耳を寄せて、途切れ途切れの(こと)()を拾いあげる。


「ーー……わかった。『ガジムを殺すな』……で、いいんだな?」


 ハーキマーが首肯し、安堵したのかそのまま意識を手放す。

 ゆっくりと己の騎士の身体を横たえてから、サザナミは承諾の意味をこめて、ハーキマーの胸元をトンと叩く。


「戦った者同士だからこそ、分かることもある……か……」


 ハーキマーが伝えたかったこと。

 それは「ガジムを殺さずに罪を償わせること」だった。

 ガジムの自責の念を、ハーキマーはあの短い戦いのなかで感じ取っていた。

 戦いを好むハーキマーとは、似て非なる存在であったガジム。

 だからこそ気付けたのだろう。

 口では、すべての破滅を望むようなことを言いながら、本心では過去を悔やみ、怒り、罪を犯した自分に深く傷付いていることを……。


「はじめから悪人だった者はいない。……哀しいな。どうしようもない事がこの世にはたくさんある……」


 サザナミはガジムに同情した。

 生まれながらの立場のせいで、サザナミも命を脅かされた経験がある。

 もしもラオフィーネと出会っていなければ、今頃、怒りと憎しみで(こご)った心根の人間になっていたかもしれない。いや、その前に、出会っていなければとっくの昔に死んでいたか……。


「ガジム……おまえを断罪するのは俺じゃない。おまえの心が少しでも安らかになれるように、生きて、少しでも前に進めることができるように、俺はハーキマーの願いを叶えたい……」


 そう決意を口にして、サザナミは空を仰ぐ。

 とっくに夜が明けているが、嵐の前のような濁った空の色と、それを映した真っ黒な海はやけに静かで、まるで生命の息遣いが感じられない。

 世界の終わりが迫っていることを見せつけられているようだ。


「サザナミ……終わったよ」


 ラオフィーネが、瞠目しているサザナミに声をかける。


「……そうか。よく頑張ったな」

「みんながいてくれたから……。サザナミがそばにいてくれて、わたしのこと信じてくれたから……。だから今度は、わたしがサザナミのそばにいるね」


 そう言って、出来上がったばかりの法具をサザナミに手渡す。

 指輪の型をした法具は、円環の表面にも、内側にあたる部分にも、緻密な紋様が所狭しと刻まれていた。

 この曲線のひとつひとつに意味があるのだ。


「……すごいな……言葉では表せないくらい、美しいな……」

「ありがとう」

「次は、俺が頑張る番だなーー」


 サザナミが表情を引き締める。

 隣に立つラオフィーネが、その手を握った。

 すべての準備が整い、いよいよ高位の精霊である光竜(レイドラゴン)【アズーラ】の降霊が始まる。



お読み頂きまして、有難うございます。


残り3話。

最後まで、どうぞ宜しくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 推しーーーーー!! 推しが推して然るべきなことをーーーー!! さすがハーキマー!!さすハキ!! 儀式っぽい静けさを感じました。 (周囲は賑やかだろうけど) 次はサザナミターンですな。 …
[一言] ああああハ───キマ────!!!!!(号泣) …………胸熱♡
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