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会議の後

「ファイ」

俺の呼びかけに通りを歩くファイたち三人は振り向く。


場所はパタフの通り道。朝や夕方は人通りもかなり多いもの、昼を回っていて歩く人はまばらである。


俺はファイたちと会うために議場の近くで会議が終わるのを待っていた。

それというのも俺はついさっきの会議のことでファイたちに頭を下げに来たのだ。


ちなみに俺の後ろにはオズマとエリスがいる。

先に戻って休んでるように言ったのだが、見てみたいと言って押し切られた。

ファイの言動からトラブルの火種になることも考えられるために一人で来たかったのが本音なのだが。

…特にオズマさん。俺に対しての暴言などで暴走する可能性が高い。

実際、ナイフ投げ返していたし。


「ファイ、さっきは助かった。感謝するよ」

俺は頭を下げて礼を言う。


「私は私が最善と思うことを判断し行ったまで。貴様に礼を言われる筋合いはない」

ファイのツンとしたところは変わらなくて安心した。

ただ前回対峙したときにファイの中からギラギラとした何かがなくなっているのが気になった。


「…傷は大丈夫か?」


「貴様に心配されるようなことではない」

ファイは不快さを隠そうともせずに眉間にしわを寄せる。背後でドリアが笑うのをこらえている。

ちょっとした地雷だったらしい。敵に心配されるのだから当然か。

ファイは品定めするようにファイはオズマとエリスに目を向ける。


「横にいる二人ががオズマ、エリスか。…なるほど、いい手札を持っている。

その者が嫌になったら私の元に来るといい。私はいつでも歓迎する」


「まあ、手札って思ったことはないけどな」

オズマとエリスはかけがえのない仲間だ。断じて手札なんかじゃない。

人によってとらえ方は違うのでそこら辺をあまりツッコむ気にはなれないが。


「…あの小娘はムーアに気に入られたようだな」

ファイの言うあの小娘というのはセリアのことだというのはすぐに分かった。

セリアのことはゼームスから話を聞いたのだろう。


「気に入られたかどうかはわからないがセリアはムーアさんの補助を行うことになった」

そのセリアを取り合って前回俺と『黒の塔』は数日前にやりあっている。

ファイたち『黒の塔』にとってセリアのような魔法使いはかなり希少な存在らしい。

セリアがムーアの手伝いをしていることがどう意味を持っているのか今の俺にはわからないが、

ゼームスが必要だといったのだ。やはりセリアはこの作戦で要となるような場所にいるとみてもよさそうだ。


「まあいい。もしあの娘がお前を見限ったとき、私は遠慮はしない」

俺はファイの一言に内心かなり驚いていた。

つまりはセリアが俺を見限るまでセリアには手を出さないという意味だ。


「その時は頼む」

俺の返答にファイは眉間にしわが寄せる。


「…フン、おかしな奴だ」

ファイは呆れた様子で俺に言い捨てる。

数日前にセリアがファイと取り合った事実から見ても俺の言動はおかしいのはわかる。

ただ、もう俺に残された時間はわずかだ。

ひょっとしたら今回のことで馬鹿をやって残された時間も尽きるかもしれない。

セリアは見目麗しいし、魔法使いとしての秀でている。その上、ハイエルフだという。

ゲヘルとのつながりはあるが、俺がいなくなった後でのセリアの人間社会での立場を俺は心配していた。

イーヴァはセリアの友達でもあるし、イーヴァを見る限りファイは悪人には見えない。

攫うという強引なやり方には頭に来たが、それはセリアの才能を惜しんでのことだ。

セリアの後ろ盾という意味でもファイなら任せられるような気がした。


「一つだけ言っておく」


「?」


「貴様はこの私を一度でも退けたのだ。無様なまねをすることだけは許さん」

ファイはそう言って踵を返し、俺たちに背を向け歩きだす。

ドリアは背中を向けて俺に手を振り、イーヴァは振り向きぺこりとお辞儀する。

弱気になっていると思って俺の背を叩いてくれたのだろうか。


『黒の塔』に乗り込んでいったときにこんな関係になるとは思ってもみなかった。

セリアがさらわれた時に俺が怒りの感情に任せて行動していれば、今のような関係にはなっていないだろう。

結果としてだが、自分を抑えて本当に良かった。


「あの者にあそこまで言わせておいてよろしいのですか」

オズマが俺に問いかけてくる。

ちょっとお怒りなのかオズマを取り巻く空気が硬い。


「気にしなくていい。ファイはああいう奴だ」

言動はひねくれているが、悪意は全くと言っていいほど感じられなかった。

あれをツンデレというのだろう。


「だがあいつがセリアを攫った張本人なのだろう」

エリスは納得のいかない表情である。


「あれはセリアの才能を考えてのことでもあったしな。

不思議と憎しみとかそう言う負の感情は湧いてこないんだよ」


「お前は…お人よしだな」

エリスが呆れたような表情を俺に向ける。


「そうかもな」


俺たちが話していると通りから一人の男が俺たちの前にやってきた。

ファイとの話し合いが終わるのを見計らっていたようだ。


「改めてわしの名はジルドという。少し時間を取らせてもらってもよいかな?」

間近で見れば巨大な巌のような

身長はオズマと同じぐらいだがオズマよりもがっちりした体格である。

まるで岩のようだと思う。


「もちろん。俺たちに賛同してくれてありがとうございました」

俺はジルドに対して礼をいう。

あの会議の場で一番初めに俺の意見に賛同してくれたのがジルドだ。

ジルドが賛同してくれなかったらどうなっていたら、あの場でまとまらなかったかもしれないし、

イーリスたちと敵として対峙していたかもしれない。


「何、礼には及ばぬよ。わしも仲間が道を外したのなら同じ行動をとるだろうしの。

それにユウ殿の仲間を思うあり方には感銘を受けた」

いかつい外見とは裏腹に柔らかな物腰に俺は警戒を解く。


「それにわしはおぬしらに借りがあるのだ」


「借り?」

俺は首を傾げる。ジルドとは出会ったのはこれが初めてである。

思い当たることなど全くない。


「コルベル連王国、第三王子ベルフォードのことじゃ」


「!ジルドさんがベルガの言ってた冒険者か」

ジルドの一言に俺はベルガから聞いた冒険者を思い出した。


「わしの小さな友人を助けてくれたことを礼を言う」

ジルドが俺に頭を下げる。ベルフォードはベルガのことである。

子供のころにみた冒険者を見て彼は冒険者に憧れるようになったとのこと。

まさかそのきっかけとなった人間に会うことになるとは世の中狭いものだ。


「一つ尋ねてもよいか?」


「はい?」


「お主、あの時ナイフの瞬間、一瞬躊躇ったな?」

いきなりのジルドの質問に俺は固まる。


「なんでそう思ったのです?」

確かにどうするか一瞬躊躇したのは本当のことだ。

両脇のエリスとオズマが俺が躊躇している間に対処してしまったが。

ただ、それは一瞬のことだ。どうしてそれが分かったのか気になった。


「お主の焦点はナイフを捉えていた。その上目の奥に意があった」

俺の目を見て俺が何か考えていることを読み取ったらしい。さすが武人といったところだろうか。

この相手には下手に隠すよりも正直に話した方がいい気がした。


「軌道も俺には当たらないものでしたし、単なる脅しっていうのはわかっていました。

それでどうするか躊躇っていたらオズマとエリスが処理してくれたってのがあの時の状況ですかね」


「あの一瞬でそこまで考えておったのか…。はっはっは、見事じゃ」

ジルドが機嫌よさげに大笑いする。

街道を歩く人間が何事かと言わんばかりに視線をこちらに向けてくる。

どうしてそれができたかと問われれば魔族だからとしか言いようがない。

ただ、幸運なことにこれ以上はジルドは追及してこなかった。


「後ろのお二方も相当な実力者じゃな。エリス殿は今代の勇者か」

ジルドの目がエリスに向けられる。


「若輩者ですが」

エリスはぺこりと頭を下げる。

エリスは勇者という立場とは別にジルドに対して武人として敬意を持っている。


「謙遜はいらぬ。勇者という立場に満足せずに修練を続けているのが、その隙の無い動作より読み取れる」


「もったいないお言葉です」


「カルナは最期に良き者を残した。カルナの名に恥じぬようなお励むとよい」

ジルドはそう言ってエリスの肩をポンポンと叩く。

大きな手である。エリスの顔などすっぽり入ってしまうのではないだろうか。

エリスは委縮しているのか、固まってされるがままになっていた。


「オズマ殿。その気配、そして、あのナイフへの対応。お主、相当な達人じゃな」

ジルドはオズマに向き合う。


「お主と同じ名の強者を遙か昔耳にしたことがある。

わしがここ西方の地にやってきた後、東の地で名を馳せた天才武術家。

その技量はその人を以上は他になしとまで言われ、あまたの強者たちを打ち負かしたという。

現在、東方の地においてその名は武神と等しく扱われておる。

わしも手合わせしたいと思ったがその者の活躍していたのは三百年前も昔のことじゃ」


「私の名など特段珍しい名でもないだろう」

そっけなくオズマが返す。


「そうじゃな」

ジルドさん、多分それオズマ本人だと思います。

オズマはほぼ永遠を生きる魔族でありながら、人間の武術に興味を持ち、数百年人間の世界で修行したという。

その結果、オズマはそっちの界隈では神格化しているようだ。

ホウエンさんもオズマのことを知ってたようだし、時間があればオズマに何をやらかしてきたのか問い詰めたいところだ。


「にしてもオズマ殿の気配は相当なモノじゃ。全くと言っていいほどに隙が無く、それでいて澱みがない。

まるで何百年も修練を重ねた大河を思わせる。武人として理想的とすら言えるほどのな。

このわしが久しぶりに魅せられたわ。この一件が済んだのなら是非ともわしと一度手合せ願いたい」

雰囲気、気配、身のこなしからジルドはオズマの強さを感じ取ったらしい。

バルハルグの時もそうだったが、わかる人にはわかるらしい。


「死合うものでなければ付き合いましょう」

オズマも満更ではなさそうである。


「ありがたい」

オズマの言葉にジルドは破顔する。


「もし何かあればわしに声をかけるとよい。おぬしたちの力になろうぞ。はっはっは」

気分を良くしたのかジルドは笑いながらその場から去っていく。

『十天星』とかいわれている雲の上の存在みたいな人たちを身近に感じる。


「エリス、オズマってそんなにすごいと思うか?」


「ええ。気配だけ見てもジルド殿に劣らぬほどですね」

俺はオズマをまじまじと見つめる。俺としてはオズマはいつも近くにいるしその辺はよくわからない。

においというのは自身だと気にならないが、他者のモノはよくわかる。

これはそういう類のものなのかもしれない。そこで俺は思考を止める。


とにかく、目の前にある問題に集中できるようになったことを喜ぶべきか。

決戦は今日の夜だ。

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