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嵐が去って

「オズマさんの昔の同僚がやってきたのか」

小高い丘の上で俺はセリアと話している。

空では星が瞬いている。ユキトさんには無理を言ってセリアと交信符でつなげてもらった。

襲撃で連絡がかなり遅れてもセリアは応答してくれた。

修行で疲れているはずなのに。


「それでどうにかなりそう?」


「思ったよりも…ちょっと強いかな」

オズマなら楽勝だと思っていたがそうではなさそうである。

あいつらは人の皮をかぶった獣だ。断じてちょっとどころではない。

フェクダが一人でも道連れにする戦い方を取っていたら犠牲はかなり出ていたと思う。

そんなのが少なくともまだ六人もいる。ただセリアは今結界をムーアに教わっていて心配は極力かけたくなかった。


「でもこっちは大丈夫だ。オズマやエリス、クラスタもいるし、竜騎士たちもいる。

セリアはそっちの魔方陣に集中してくれ」


「…悔しいな。今回こそは『渡り鳥』の一員として一緒に戦えると思ったのに」

セリアが皆に追いつけるようにゲヘルの下で血反吐を吐くような修行をしていたのは知っている。

もともと才能があったとしてもその成長速度は異常といってもいいものだという。

それは早く『渡り鳥』の一員になりたいという動機があったためだ。


「結界を張ってプラナッタを外界から隔離することは俺たちの中でセリアにしかできないことなんだ。

セリアはもう少し胸を張るべきだ」

これは俺の心からの想いだ。


「…わかった」


「それに今回が最後ってわけじゃない。次があるさ」

気軽に俺はいうが、俺の寿命はもう長くはない。

それに今回の敵は今までの敵とは全く違う。

魔神たちやパールファダの時のように全力で挑んでも勝てるかどうかわからない相手だ。

神の呪いを受けている状況で力を出し過ぎれば間違いなく、俺は、終わる。


「そうだね…」


「夜中に連絡してごめん」


「連絡してきてくれて嬉しかった。離れているけど私もみんなの一員だもん」


「それじゃ、おやすみ」


「おやすみ」

その声と共に通信がぷつりと切れる。



セリアとの交信が終わるのを見計らってオズマが横に現れる。

オズマが腕に負った傷はすでに回復していた。


「オズマ、アレがオズマの敵か」

俺の声にオズマは小さく頷く。


「はい。…アリオトとは何を」


「お前の主人って言われてたから興味があったんだとさ」

半分本当で半分嘘である。


「…そうですか」


「アリオトから伝言だ。明日の夜、王城で待つ。西門から来いと」


「…」

オズマの表情は見えないがオ、ズマの握りしめた手からオズマの決心を垣間見た気がした。


オズマの奴、絶対に一人でも行くだろうな。

直感的にそう思う。罠なのは火を見るよりも明らかだ。だがオズマは行くのだろう。


「とりあえず明日もう今日か。ゼームスがやってくる。話を通してからだ」

ゼームスから出された討伐の話は了承している。

すでに前金としてセリアの精霊契約の仲介をしてもらっている。

こちらの事情で一方的に反故にするわけにはいかない。


「わかりました」

オズマはそう言って俺に背を向ける。

その背中には多くのものが背負っているように見えた。


「オズマ、最後までやり抜く覚悟は変わらないか?」


「はい」

俺の問いにオズマは即答する。オズマの声には迷いは感じられない。

ならオズマの主としてやることは腹をくくることだけだ。


「それじゃ、明日な」


「ええ」

一人になった俺は今の課題を振り返る。


目下最大の課題はパタフに集結するSランクの冒険者たちをどうするかだ。

Sランクの冒険者を敵に回すような事態になるのは極力避けたい。

それは冒険者ギルドを敵に回すことと同義だろう。今後人間社会で活動の足場がなくなるのはきつい。

戦闘中に横やりを入れられたくはない。以上の理由からゼームスたちへの説得は必須事項である。

あのゼームスからどうやって譲歩を引き出そうか。

問題なのはそれがゼームスだけじゃないってことだ。


以前にファイやドリアもSランクの冒険者である。ゼームスから要請は受けているはずだし、来る可能性が高い。

ドリアはともかくファイは俺に対してよくないイメージを持っていそうだ。何せガチで殴り合ってるし。

その他にも来るみたいだし、正直ちょっと怖い。

最悪Sランクの面々と対立することになるかもしれない。

奴らと正面から話し合うのは…今から胃が痛いところだ。


それが終わってからようやくアリオトたちとの戦いに専念できる。

残り六人。ゼームスとの協力関係をこちらから切るわけだし、

俺の使えるのはセリアを除いた冒険者チーム『渡り鳥』の面々だけだろう。


正直なところ、かなりきつい。


だがここで引くわけにはいかない。

俺はアリオトと話して今の現状を知ることになった。アリオトの覚悟も。アウラ姫の決意も。

なぜ侵略者インベーダーが暴れていないのか。

なぜ七星騎士団がクーデターを起こしたのか。


想像以上に状況は複雑だった。それを知ってしまった以上俺もアリオトの共犯者だ。

ただ少なくともこれで七星騎士団との対峙は決定的になったといってもいいだろう。俺が引かない限り。

全部ゼロスに任せて消し飛ばしてしまうのが一番なのかもしれない。ただそれじゃ台無しだ。

これからすることで誰も幸せにならないし、だれも救われない。


今日、オズマの実力は桁外れということを改めて思い知った。

フェクダからの殺意をもった必殺の攻撃を紙一重で躱し、吸い込まれるように狙った場所に相手に槍が届く。

俺には絶対に届きえない人の技術の極致。身もだえするような羨望すら憧憬に変えるほどの技量。

俺の部下にするにはあまりに過ぎた存在だと思う。

オズマなら一人で全員倒し切ることができる気もする。

オズマは俺のことを信じてくれている。なら俺もオズマの信じてくれる俺でありたい。

これはただの意地だ。俺が俺であるための。

そのためには数々の問題と向き合わなくてはならない。


ここまで考えた俺は考えるのを放棄して、その場に大の字になって倒れる。

気が付けば東の空がうっすらと明るくなってきている。今日が始まるのだ。


ふと俺はフェクダの最期を思い出す。

自身のもったものすべてを出し切り、やり切った表情。

俺も死ぬ間際になってあんな顔ができるだろうか。

フェクダという男が少しだけ、ほんの少しだけ羨ましいと俺は思った。


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「命令を無視して王宮を飛び出した弁明を聞かせてもらおうかしら、アリオト?」

玉座の間で頬杖を突きながら一人の女性がアリオトに話しかける。

目の前の玉座に座るのはアウラ。そのすぐわきには黒い人型の何かが立っている。

頬杖を突きながら頭を垂れる七星騎士団の隊長を見下ろしていた。


かつてその美貌を宝石にたとえられ、婚儀を求める貴族が絶えなかったともいわれるが、

今はその表情からは何の表情も一切読み取れない。


「それは…」

メグレズが何かを言いかける。


「黙りなさい。私はアリオトに聞いているの」

メグレズは見えない何かに自身を地面に押し付けられる。

少女が扱うのはこの世の理ではない別の何か。


「オズマを見つけたという報告をミザールから受けそれを確かめに行きました」

アリオトの一言にアウラ姫の表情が固まる。


「オズマオズマオズマ…ウフフフフ…アハハハハハ」

アウラは玉座から立ち上がり身を乗り出し、狂気の混じった笑い声を高らかに上げる。


「あの人が…今どこにいるの?」

亀裂のような笑みを浮かべアウラはアリオトに問う。


「オズマを含めた冒険者チーム『渡り鳥』とは宿場町パタフで遭遇し戦闘になり、その際にフェクダが殉職しました」


「ウフフフフ…間違いないようやく見つけた。全軍を持ってパタフに向かいましょう」

全軍を動かすなど狂気の沙汰である。

フェクダの殉職など耳に入らないほどアウラはすでに壊れていた。


「そう急がずとも現在オズマの所属する冒険者チーム『渡り鳥』のリーダーとは話をつけております。

今日の夜、このシーリウに彼らは必ずやってまいります」

アリオトが淡々とアウラに告げる。


「…なるほど…それは楽しみね。ならば私たちは最高のもてなしをしましょう…ウフフフフ」

玉座に座り、アウラは壊れた笑みをその端正な顔に浮かべる。


アウラの笑う横でアウラの隣に立つ黒い影もかすかに笑ったようなしぐさを見せた。

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