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暴風の化身

アリオトはメグレズとメラクと共にフェクダが戦っている場所にむかっていた。

アリオトたちに対し、アルカとベネトとが並走してくる。

オズマと戦ったアルカとベネトの表情はすぐれない。


「満足できなかったんですか?」

アルカとベネトにアリオトは言葉をかける。


「剣がボロボロ。おかげでオズマとの戦闘もまともにできなかった」

「一方的に攻めてたはずなのに剣がボロボロ…消化不良」

オズマとの戦いの負荷で二人の手にした短剣は無残にも折れてしまっていた。

アルカとベネトは走りながらポイっと手にした短剣を投げ捨てる。


「焦らなくても次の舞台はすぐに用意します」


「了解」

「しょうがない」

アリオトの言葉に双子はしぶしぶ同意する。

アリオトたちはフェクダのいる場所に戻ってきた。


「団長か。撤収かの」

ドゥーペが少し離れた場所からフェクダの戦いを見ていた。アリオトは頷き、フェクダの見える位置にやってくる。

フェクダはエリスたちと対峙している場所はすでに森ではない。

フェクダとエリスたちの激闘の後が所々に見られる。


「フェクダ。戻りますよ」


「俺は戻らねえよ」

フェクダはアリオトの命令を拒絶した。フェクダは『敵』に出会えたらしく珍しく高揚している。

フェクダの体温すら伝わってきそうだ。


「フェクダさん何を言っているのですか。それでは戦術が…」


「ああ?俺に指図するつもりか?俺を連れていきたきゃ後ろから撃てよ」

フェクダが窘めようとしてきたメグレズをにらみつける。


「止めんじゃねえよ。俺にとっての人生のピークが今なんだ」

フェクダは黒いオーラを全身からみなぎらせている。

そんなフェクダに対し、メグレズは眉間を寄せている。


アリオトがフェクダの前に立ち、剣を取り出し縦に構える。

団員たちはアリオトの意図を察して皆アリオトにならう。

それは戦士たちが同じ戦士たちを弔うために行う葬送の儀礼。


「フェクダさん、今までありがとうございました。ご武運を」


「はっはっは、最後があんたでよかったぜ。あんたもがんばれよ」

アリオトに対してフェクダは口の端を吊り上げ笑う。


「撤退します」

アリオトは鞘に剣を仕舞い、背を向ける。団員たちはアリオトに続きその場を去る。

七星騎士団の面々はその場を後にする。


俺とオズマは到着していて、途中からそのやり取りを見ていた。

エリスとココノエは多少の手傷は負っているものの致命傷は負っていないことに少し安堵する。

あれはフェクダって男の完全な独断だ。


「さてと、それじゃあ、俺の最後の舞台を始めますかね」

フェクダはじろりと俺たちをにらむ。殺気でも闘気でもない。そこにあるのは凄味。

覚悟をした人間だけが醸し出す特有の何か。今わの際の最期の輝き。


「あれ、本当に元人間かい?」

ゼロスが空から俺たちに近づいてきてそう告げる。

ゼロスのフェクダの評価はもっともだ。俺の肌がぴりつくような感じ。


「これは厄介だな」


「こちらの犠牲も考えないといけませんな」

エリスとココノエが顔をこわばらせていた。死線を経験した者たちだからこそその危険性を知っている。

対面している男は退路を自ら断ち、死をすでに覚悟している。そんな男に勝つには容易ではない。

こちらも相当な犠牲を強いる必要がある。


「私が相手をする」

オズマが前に進み出る。


「副団長じきじきか」

オズマが出てきたことにフェクダは歓喜する。


「フェクダ、お前に私自らが引導を渡してやろう」

オズマが影を纏う。影はまるでオズマの体に黒い炎となってまとわりつく。

オズマが本気を出すときは魔力を使う。オズマが本気を出したのは二回。

女神パールファダの使徒 カルナッハ・パルピィラオ、サルア王国最強の騎士 バルハルグ・イエルトーダとの戦い以来である。


何故その二つしかないのか。オズマが魔力を使う必要がなかったためだ。

対人間において数百年という狂気に近い時間を使い武術を極めたオズマにとって人間など相手にならない。

それがたとえ相手が同じ魔族相手だったとしてもだ。

何百年と絶えず練り上げ続けた完成された武術は広く多岐に渡り、

人であろうと魔物であろうとその武術のみでたやすくあまたの敵を打ち滅ぼしてきた。

その上、魔族という絶対的ともいえる種族のアドバンテージを持ちながらもそれに依存することない。


何故魔族である彼が人の技をそこまで極めることができたのか。

それはオズマの心の根底に人間への強い敬意があったためだ。


その彼が魔力を使った場合、その能力は武術と相まって数十倍に跳ね上がる。

それは人の及ぶ領域をすでに超えていた。


「さあ、来い。貴様のその腐った思い上がりごと打ち砕いてみせよう」

オズマの目は金色に輝き、魔力の放出によりその長髪は逆立つ。

オズマはフェクダを見据えながら槍を構え低く腰を落とす。


「そんなあんたとやりたかった」

フェクダは棍を構えて闘気をむき出しにする。

互いの体から放たれるものが消えると、静寂がその場を支配する。

それは嵐の前の静けさ。これからはじまるのは一流の戦士同士の戦い。

その場にいる誰もが固唾をのみ、見守る。


次の瞬間、二人の姿が消え、オズマの槍と棍が宙で交叉する。

オズマとフェクダの一撃が閃光と化し、ぶつかり合う音が爆発音を上げる。

ぶつかった衝撃波で地面がえぐれた。それだけ一撃一撃に想像以上の力が込められている。

常人ならば受けも許されないほどの速度。


オズマの顔面すれすれをフェクダの棍による突きがかすめる。

フェクダの右肩をオズマのめちゃくちゃな体勢からの突きがかすめる。


エリス、ココノエは瞬きもするのを忘れて食い入るように見守る。

武人でないのに知覚できる俺からすれば、きわめて心臓に悪い戦いでもある。

二人とも当たれば致命傷。薄氷の上を踊っているに等しいのだから。


しばらくすると互角に見えていた均衡が少しずつ崩れていく。

フェクダの体に少しずつ傷がつき始める。対してオズマの方は無傷だ。

魔力をすべて自身の膂力に変えたオズマの攻撃と侵略者の力を宿したフェクダの攻撃。

威力は同等だろうが、一撃に込められる精度が違う。そこにあるのは純粋な技量の壁。


「ははは、すげえ、すげえよ」

フェクダはオズマから放たれる一撃一撃を体に受けながら歓喜していた。

オズマの放つ一撃一撃は必殺であり、人間が到達した技の極地。

いくらフェクダが天才で、子供のころから武術を叩き込まれようとも

オズマの費やした膨大な時間とその野生の感の前では相手にならない。


フェクダはそれを認識し、戦い方を変えた。

オズマの槍がフェクダの左腕を切り飛ばす。闇が千切れた腕を再生する。

オズマの槍がフェクダの左わき腹をえぐる。闇がえぐられたわき腹を再生する。

オズマの槍の突きがフェクダの目をえぐる。闇がフェクダの目を再生する。

傷を負いながらもフェクダは臆することなくオズマに襲いかかっていく。


「あれは…」

フェクダの再生力が異常である。

俺の問いかけに浮かんで観戦しているゼロスが答える。


「あれは『侵略者』(インベーダー)と取引して獲得した能力だね。獲得した能力は『再生』(リジェネレイション )。

大きな力の受け渡しには核が必要となり、必然的に何かに特化した能力になる」

フェクダがその能力を選んだのはより長く戦いを味わうためだというのは、何となく俺にもわかる。


「しかし、このレベルの力のやり取りができるということは、

『侵略者』(インベーダー)は相当な上位者ということなんだが…」

ゼロスが誰にも聞こえないような小さな声で漏らす。


フェクダは再生に持てるすべての力を回し、戦闘継続が可能なぎりぎりのラインを考え、

不要と判断した箇所は切り捨てて、フェクダはオズマの攻撃を選んで受けていた。

フェクダのそれはある種、狂気の沙汰である。

だが、それでもフェクダはオズマの武の領域には届かない。


フェクダ自身の放つ攻撃を体勢を崩しながらも必殺の一撃を繰り出す。

フェクダから放たれた一撃をオズマは蹴り上げ、ぎりぎりのラインで躱し、フェクダに一撃を見舞う。

途方もないほどの技術の応酬。

オズマから放たれる規格外とも芸術的ともいえる一撃一撃がフェクダを満たしていく。


フェクダはその絶対的ともいえる壁を全身で感じる。

同門からは鬼とまで呼ばれ恐れられ、その男に出会うまでは敗北はなかった。

そんな自身の放つ武術が及ばない相手。そこからフェクダの感じたのは悔しさというより歓喜だった。

自身がこの世界で唯一認めた相手が全ての力を持って相手をしてくれる。

この時点でフェクダにとって勝敗もうどうでもよくなっていた。


フェクダの体が地面に沈む。


「勝負ありだ。『再生』(リジェネレイション )は能力強化よりもより多くの力を使う。

まして戦闘中にあれだけの速度で『再生』させるとなれば消耗は当然大きなものになる」

ゼロスは宙から見下ろしながら語る。

たしかに四肢の再生が明らかに遅くなってきていた。

フェクダが『侵略者』(インベーダー)から与えられた力が尽き始めていることをそれは意味していた。


「あー、そろそろ終わりか」

フェクダは両ひざをついて心底残念そうな声を上げる。オズマは槍を止めて、それをただ黙って聞いていた。


「結局ずるしてもあんたには勝てなかったっつうわけか。悔しいが、心残りっつうわけでもないな…。

次が俺の最期の技になる。副団長、受けてくれるかい」

フェクダは残った力を振り絞って立ち上がる。


「来い」

オズマはただ一言そう返す。フェクダが棍をもって全力の跳躍をする。

棍の関節が外れ、それはまるで蛇のようにオズマに向かっていった。



オズマは俺たちを背にして、地に背をつけるフェクダを見下ろしていた。

オズマも左腕には傷を負っていた。オズマでもフェクダの渾身の一撃を避けられなかったのだ。

フェクダの胸には穴が開いている。それが致命傷だと一目見ただけでわかる。


「副団長、…楽しかったぜ…」

フェクダの表情は恨み節でもなく、命乞いでもなく、ただ満ち足りた表情だった。

オズマはそれをただ黙って見下ろしていた。


「あんたとまたやりてえな…」

フェクダという武人が残した最期の言葉になった。

直後、彼の体は黒い粒子となって消滅する。あたかもそこに初めからいなかったかのように。

ゆっくりとフェクダの体が消滅していく。フェクダには次はない。彼は世界の理に叛意を示したのだから。

それはこの世界の循環から外れることを意味する。

それが『侵略者』(インベーダー)に手を貸した者の末路でもある。


「…馬鹿者が」

オズマは俺たちに背を向け、フェクダのいた場所でそうこぼした。

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