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猛牛のフェクダ

俺の目の前にアリオトと二人の団員がいる。

俺に襲い掛かってきた双子はどこかへ行ってしまった。

フェクダの初めの一撃は俺たちの分断を狙ったものだっと今さらながら気づく。

俺は相手の思惑通りに進んでいるこの状況を警戒する。


「何のつもりだ?」

俺は『天月』に手をかけたまま警戒を解かない。

眼前に立つのは敵の頭であるアリオト。何を企んで俺を皆とを引き離したのか。


「改めてはじめまして、私の名は七星騎士団団長、アリオト。

あなたがミザールの手紙にあったオズマさんの主であるというユウさんですね」

アリオトはそう言うと手で脇にいる二人を下がらせる。

俺はアリオトの意図が分からず眉を顰める。


「まずは強引な手段を取らせてもらったことの謝罪を」

アリオトは俺の前で頭を下げる。


「その団長様が俺に何の用だ?」

警戒しつつ俺はアリオトに問う。


「あなたと争うつもりはありません。私はあなたと少し話がしたい」

アリオトはそう言って帯刀している剣を地面に置き、両手の手の平をこちらにみせる。

アリオトからは殺気は全くと言っていいほど感じられない。

二人の連れも少し離れた場所からこちらをうかがっているだけだ。

アリオトに俺と敵対する意思はない様子である。


アリオトという人間への心証はそれほど悪くない。

今話してみてアリオトに抱いた印象は好青年だ。

整った顔立ちに、柔らかい物腰。極め付きは団長という肩書。

どうでもいいことだがめちゃくちゃ女性にもてるだろうなと感じた。


それに今は三対一。相手にとって有利な状況である。

俺を倒すことが目的ならば対話という手段はとらない。

それを捨ててまで俺と話をしようとか戦いとは違う何か意図があるか、もしくは何か伝えたいことがあるとも考えられる。


そもそも目の前の相手と敵対する理由も相手の目的もさっぱりわからない。

状況に流されてしまっているが、そもそもなぜ争っているのかすらわからない状況にある。

相手が対話を望んでるというのならそれを探るためにも乗ってみるのもいいかと思った。


「わかった。あんたには俺にも聞きたいことがあったんだ」

俺は『天月』を鞘に納める。


「ありがとうございます」

アリオトは俺に微笑みかけてきた。


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オズマとドゥーペが森の中で戦っている。

オズマから放たれる突きをドゥーペは木々を盾にして、それをかろうじて躱す。


「命令とは言え、貧乏くじじゃな」

ドゥーペはアリオトにオズマの足止めを命じられていた。


オズマは勝負を急いで少々焦っていて、神業ともいえるオズマの技を曇らせている。

その上、オズマは『侵略者』(インベーダー)から与えられた力を警戒し、決定的な踏み込みができない。

その二つの枷をドゥーペはオズマに課すことに成功していた。

ただしそんな環境を作り出しながらも、ドゥーペは守りに徹しなければすぐに押し込まれる状況である。


それは断じてドゥーペの力不足というわけではない。

実際のところドゥーペは七星騎士団の精鋭である隊長の中でも中の上ぐらいの実力者である。

ドゥーペはフェクダ、アルカとベネトのような戦闘狂ではない。

金と命を秤にかけるプロの戦士であり、自身に対する客観的な評価もできている。

現在の七星騎士団の隊長の中でも最年長であり、またその経験も豊富であるがゆえに堅実な戦い方をモットーとしていた。

また七星騎士団の中でご意見番的な存在でもあり、もっとも信頼されている存在でもある。


「敵にすると本当に厄介だな」

敵の術中にはまり、力を出し切れないオズマは苛立ちを募らせている。


「それは賞賛と受け取っておこうかの」

ドゥーペの足止めはうまくいっていた。

これはアリオトの采配によるところが大きい。アリオトはドゥーペをオズマの足止め役として選んだ。

彼が最も適任だったからだ。


ドゥーペと対峙するオズマに連携のとれた四つの剣閃がひらめく。

オズマは背後に飛び、それらを当然のように躱した。


「さすがオズマ」

「変わらずいい感してる」

双子の声は喜びに満ちたものである。


「ようやく来たか。副団長相手はさすがにわしでは堪えるわ」


「いいじゃん。楽しめて」

「若いもんには負けられんじゃなかったっけ」

アルカとベネトは悪びれることなくほほ笑む。


「主殿はどうした?」

オズマは対峙する双子に問う。


「主殿?」

「あの男のことか」

アルカとベネトは今まで戦っていた男のことだと気づくまでに少々時間がかかった。


「何なのさあの男、割と本気で取りにいったのにかすり傷一つつけられない」

「動きは素人なのにさ、自信なくしちゃうよ」

アルカとベネトはそれぞれに不満をつぶやく。

双子の両手には短刀が握られている。手に握られた短刀はすでに刃がボロボロだった。

ユウの持っている『天月』という剣は魔神であり鍛冶の神ヴィズンの最高傑作である。

そんな剣を持ち、防御に徹したユウに対し、全力で向かっていったのだからそうなるのは当然である。


「なぜ我が主を狙った?」

オズマは口答えは許さないといった様子で双子に問う。


「団長があの男と話したいって言ってたから手伝っただけ」

「ま、本気で殺そうとはしたけどね」

オズマの問いに悪びれもなくアルカとベネトは応える。

アルカとベネトは駆け引きなどまどろっこしいことはしないし、嘘もつかない。

長い時間を一緒に過ごしたオズマだからこそわかることだ。

主が無事だということを悟り、オズマは平静を取り戻す。


「やれやれ」

ドゥーペはオズマが平静を取り戻した様を見て深いため息を漏らす。

オズマに焦りがあったからこそドゥーペは防御に徹することで、わずかな時間抑えられていたのだ。

平静を取り戻したのならオズマは本来の鬼のような戦闘力に戻る。

オズマの埒外の戦闘能力は一緒に旅をしたドゥーペの身に染みていた。

そのことを知っているドゥーペからすれば、アルカとベネトは面倒ごとを増やしているようにしか見えない。


「やってられんな。わしは退散させてもらうぞ」

ドゥーペの命じられたのはアルカとベネトが来るまでのオズマの足止め。

命じられた任務は成功しているし、これから始まるのは獣同士の戦い。

アルカとベネトの連携は凄まじいが、完成されている分、第三者のドゥーペがアルカとベネトの間に踏み込む余地はない。

下手をすれば踏み込んだ瞬間にアルカとベネトに挟撃される可能性もある。

一+二は三には決してならない。さらに悪いのはそれを標的のオズマが知っているという点。

オズマはそれを間違いなく利用してくる。現実主義の彼は巻きぞえを食らうのはごめんだと判断。

ここはアルカとベネトに任せ、ドゥーペはその場を離脱した。


「じゃーねー」

「こっちは任せて」

ドゥーペがいなくなると、双子は短剣を手に取り構る。


「さあ二ラウンドを始めよう」

「今日こそは副団長を倒すよ」

それは遊び場にやって来た無邪気な子供のようである。


------------------------------------------------------------------------------


エリスとココノエはフェクダと対峙していた。


「はっはっは、まだまだぁ」

フェクダは甲高い笑い声をあげながら棍を振り回す。

エリスはフェクダの棍の一撃を受けただけで全身から力が抜けていくような感覚すら覚える。

エリスは地面に足をしっかりとつけその力をかろうじて地面に受け流す。

ココノエが竜気を体から放出し、神速の斬撃を繰り出すも巨体のフェクダはそれをすべて紙一重で躱していく。

一進一退の攻防。二対一とういう状況で危うい均衡がかろうじて保たれていた。


少し前まで木々が生い茂っていた場所には遮蔽物など見られない。

赤茶けた大地がむき出しになり、周囲には倒された木が散乱している。

まるで竜巻でもあったかのような有様である。


フェクダはエリスの法力を乗せた斬撃とココノエの縦横無尽の動きに完全に対応できている。

フェクダは技量だけではない。天性の感というものがある。

『侵略者』(インベーダー)から与えられた力を十全に使いこなしている。

人間の技を覚えた獣。それがフェクダに対するエリスの感想だ。

またそれは武というものの一つの理想の形でもある。


正直なところ、ここでどうして戦闘になったのかの理由はエリスはわからない。

竜騎士たちの野営地にたどり着いて戦いに巻き込まれた。

目の前のフェクダに対してはわずかな隙でも見せればその瞬間に押し込まれる危うさがある。


相手がどうであれこのレベルの戦いでの迷いは即死だ。

最強の武器を持っていようが殺し合いにおいては使い手次第。

戦いとは所詮はただの殺し合いである。そこには積み上げてきた己が技量しか信用できない。

隙を少しでも見せれば即死につながるし、薄皮一枚のところに明確で理不尽な死が存在する。

フェクダとの死闘はエリスはそれを強く再認識していた。


また共闘しているココノエに関してエリスは心の中で称賛していた。

速度は変則的に変わり、剣の筋も全くと言っていいぐらいに読めない。

それに加え、こちらの攻撃を読んだように動いてくれる。自身より一段上の実力者。そう認識する。

もし闘技場でユウではなく、エリスがココノエと戦ったのであれば負けていたとすらエリスは感じていた。


エリスは呼吸を整え、ココノエに目くばせを送る。即席の連携だが戦ううちに互いの息遣いが取れてきている。

ココノエはエリスの目くばせに頷き返す。

直後二人は同時に左右に散開する。


「ほう」

それを見たフェクダは口元に笑みを浮かべる。


エリスは体勢をかがめフェクダに向けて直進する。

走りながら地面すれすれのところから上に掬い上げるような斬撃。

法力を乗せたエリス渾身の斬撃である。フェクダは振り上げた棍でそれを迎え撃つ。


ガン


重い斬撃がぶつかり合った鈍い音が響き渡り、衝突の衝撃波が周囲に飛び散る。

そのままエリスとフェクダは力比べに突入する。


時間差でココノエがフェクダの斜め上から後頭部めがけて突っ込んでくる。

エリスのいる場所と丁度対角線になる形であり、絶妙といってもいい位置取りである。

竜気を足から放出し、ココノエはその体を弾丸と化しフェクダに向かう。

フェクダは左手を棍から離し、黒い霧を纏わせそれを受ける。

左手から放出される黒い霧に遮られココノエの攻撃はフェクダに届いていない。


「なんだと」

即席ながらも絶妙ともいえる連携攻撃を綺麗に受け止められたことにエリスもココノエも驚きを隠せない。


「すげえな」

フェクダは感嘆の声を上げるなり、エリスの腹部に蹴りを放ち、回転するように棍をココノエのいる場所に横薙ぎ繰り出す。

エリスは繰り出された蹴りを剣の柄で受け止め、ココノエは竜気を放出しその斬撃を躱した。


再びフェクダとエリス、ココノエの間と距離が取られる。

攻撃が止んでもエリスとココノエは視線をフェクダから逸らせない。

少しの隙がこの相手には命取りになると理解しているからだ。

エリスは勇者でかつ一流の法力の使い手であり、ココノエは竜族でも選りすぐられた竜騎士の中で隊長を務めている。

立場こそ違えど二人はトップレベルの戦士である。

その連携攻撃を受けてフェクダはかすり傷一つ負っていない。


「しっかし強いなあんたら。この力を与えられない俺だったら一対一でもきついところだろうな。

名を教えてもらえないかい」

フェクダが二人に対して楽し気に聞いてくる。


「エリス」


「ココノエ」


「竜騎士のあんたもだが、あんたは人間なのにすげえな。しかもその気の量、今まで見てきた人間の中でもぴか一だ」


「気?法力のことか?」


「なるほど、大陸の西では法力と呼ばれてるのか。俺の所属した門派はそれを気術と呼んでいた。

その膨大な気の量…ひょっとしてあんた勇者か?」


「そうだ」


「…はっはっはっは、俺は最高に運がいい。ここにきて生涯で最も戦いたかった極上の獲物とやりあえるんだからな」

フェクダからの圧が目に見えて強くなる。

さらなる激闘を予感し、エリスとココノエは身構えた。


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「それが真相になります」

アリオトから俺にもたらされた話は衝撃的だった。

色々と斜め上過ぎて頭が追いつかない。


「なんで俺に伝える気になった?」


「オズマさんは私たちの中でも特別でした。

どれほどの地位、名誉、金銭を目の前に積まれても誰にも仕えず

そして私たちの誰よりも強く皆の憧れでした。そんな彼が仕える人間を見つけた。

私、いや我々にとってそれは衝撃的でした」


「…成り行きだ」

魔族の上司であるらーべからオズマは俺に仕えるように話をつけられている。

オズマの意思でそうなったわけじゃないし、オズマが俺を選んでくれる理由などない。


「いえ、あなたはあなたが思うよりずっと特別だ。だからあなたにかけてみたくなったんです」


「…俺が裏切るかもしれないぞ?」


「だとしたらそれまでですね」

にこやかにアリオトは語る。


ここで俺がやってきた方向から肌がぴりつくような波動を感じ振り返る。

かなり距離が離れているはずなのに、大気を通じて緊張がびりびりと伝わってくる。

双子じゃない。この感覚は初めに手を出してきたフェクダって奴のものだ。

フェクダって奴は相当やばい奴だったっぽい。残してきたみんなが気になった。


「…困ったな。本番はまだの予定だったのにフェクダさん、本気になったようですね。

まあいいでしょう。伝えるべきことは伝え終わりました」

アリオトは察してくれたようだ。

アリオトはかがんで地面に置いた自らの剣を手に取る。


「なあ、アリオト、俺たちは敵にしかなれないのか?」

俺も自分の『天月』を拾った。


「…私にも男として譲れないものがあるとだけ言っておきます。では明日」

そういってアリオトは俺に一礼すると、少し離れた場所にいる二人を連れてその場を後にした。


「主殿」

アリオトと入れ替わりにオズマがその場にやってくる。


「オズマ」


「無事で安心しました」

オズマから立ち昇る闘気から今まで交戦していたのだと気づく。


「話はあとだ。エリスたちの元に戻るぞ。ちょっとやばそうだ」

オズマがここにいるということはエリスとココノエがフェクダと対峙している様子。

あの二人が弱いというわけじゃない。フェクダって奴がずば抜けて異質なんだ。

俺たちはフェクダのいる戦場に向かう。

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