偶発的な開戦
七星騎士団の隊長の得意な武器はそれぞれに違う。
フェクダの扱う武器は大きな棍である。
どうして彼が刃のない棍を選んだか。それはフェクダ自身が戦闘を楽しむためだと言われている。
ゆえにフェクダは強者ぞろいの七星騎士団において一二を争う戦闘狂と称される。
戦闘狂であるのと同時にフェクダは生まれついての武の天才である。
平民に生まれた彼はその才能を買われ、幼いころから武の一門に引き取られる。
武の一門の中においてもフェクダの才能は突出していた。
引き取られてわずか三年あまりで彼は一門で並ぶものがいないほどの実力者になった。
彼は天才であるがゆえに何事も全力を出し尽くすことなくできてしまうのだ。
ただ、その実力を認められる一方で平民出身のフェクダをよく思わない勢力もあった。
彼らは数十人がかりでフェクダをリンチにしようとしたが、フェクダはそれをあっさりと返り討ちにする。
一門の上層はフェクダの才能を惜しみ、それを有耶無耶にしようとするも
ただ運の悪いことにその数十人の中に国でも有数の巨大派閥の貴族の子弟も含まれていた。
有力な貴族は王に調停を願い出て、国が本格的にその事件の調査に乗り出すことになる。
結果、様々な政治的な思惑が複雑に絡み合い、その事件の調査結果は公開され、その関係者たちはすべて罰せられることになる。
当の本人であるフェクダを除いて。
武の一門は貴族からの恨みを避けるために、フェクダをその武門の一派から破門を言い渡す。
一門から破門されたフェクダは傭兵団や盗賊団を転々し、女と酒におぼれる生活を送る。
そんなすさんだ生活をしていたフェクダは一人の男と出会う。
当時傭兵団の副団長だったオズマである。(その当時は七星騎士団は名もなき傭兵団だった)
オズマという人間は彼にとっての初めての分厚く巨大な壁となり立ちはだかった。
フェクダは今までの人生で培ったすべてをオズマにぶつけた。
どれほど死力を尽くしても、どれほど全霊を込めようともオズマに簡単にあしらわれてしまう。
彼の人生においてそれは衝撃的だった。
オズマに対し完敗した以降もフェクダはオズマにまとわりついた。
オズマに付きまとううちにフェクダはそのあけすけな性格から次第にガルシアや傭兵団の仲間と意気投合。
気が付けばフェクダは七星騎士団の一員となっていた。
それが彼が七星騎士団に入った経緯である。
その後、傭兵団の切り込み隊長としてその本領を発揮する。
血まみれになり、笑いながら敵をなぎ倒していく様は対峙する敵にとって恐怖以外の何物でもない。
プラナッタ王国で発生したスタンピードにおいてひときわ大きな功績をあげ、
フェクダは七星騎士団一番隊長という地位に納まった。
『猛牛』のフェクダという彼に付いた二つ名は、人間では止めることのできない男という意味である。
-------------------------------------------------------------------------------------
「これは相当だね」
空に浮いているゼロスがその様を見て他人事のように語る。
いつの間に来ていたのかわからない。
「ユキトはナナツキとホウエン、ミザール殿を連れて街まで後退。ここはユウ殿たちと私が食い止める」
本能で危険を察したココノエはユキトに後退の指示を飛ばす。
「わしらはまだ…」
ホウエンとナナツキがまだ大丈夫だとアピールする。
「けが人は足手まといだ。私もどこまで戦えるかわからん」
ココノエの横顔には余裕がない。
「それじゃ、ちょっと強引にいきますよ」
ユキトが地面に手を出すと陣が描かれ、巨大な蜘蛛が現れる。
巨大な蜘蛛は手際よくナナツキとホウエン、ミザールを糸で簀巻きにし、担ぐ。
「おい、こら。おろせっ」
ミザールは蜘蛛の糸に簀巻きにされ、芋虫のように体をよじらせている。
「ここから先、人間の出る幕はありませんよ」
暴れるミザールを蜘蛛が何事もないかのように担いでいく。去り際にユキトがゼロスに目を向ける。
「あなたは?」
ユキトは宙に浮かぶゼロスに声をかける。
「僕は見物に残るからいいよ」
ゼロスはそう言って手を振る。それを聞くとユキトは巨大な蜘蛛を走らせる。
巨大な蜘蛛はその巨体に似合わず素早い動きでその場所から去っていった。
その間、アリオトたちには動きがなかった。こちらが準備が整うのを待っていてくれたとみることもできるが、そうではなさそうだ。
アリオトは二三人の団員に近寄り、何か耳打ちしていた。
「そっちの準備はできたようだな」
黒く禍々しい靄がフェクダの引き締まった体から吹き出る。
俺たちは反射的に身構える。フェクダから放たれる気配はすでに人のそれではない。
「おおっと、名乗りを忘れてたな。俺の名は七星騎士団一番隊隊長フェクダ」
フェクダは肩に乗せていた棍を手前に持ちかえると、前のめりになる。
フェクダにアリオトと同じ黒い靄がまとわりつく。その黒い靄を纏うフェクダはまるで巨大な四足歩行の動物を連想させた。
「気をつけてください。フェクダは七星騎士団でも一二を争う力を持つ実力者です。少しでも気を抜けばやられます」
オズマが俺たちにかける声には緊張が含まれていた。
あまり見たことのないオズマの様子に俺は『天月』を握る力を強くする。
「いくぜ」
フェクダはそのまま棍を振り上げ思い切り地面を蹴り、俺たちに向かってくる。
俺とオズマは身構えるが、フェクダは緊張する俺とオズマを素通りし、その背後の地面に棍を叩きつけた。
フェクダの強烈な一撃は大きな音とともに大地が裂き、地面を揺らす。
巨大な地震のようだったが耐えられないほどではない。
フェクダの狙いが分からず俺は少し混乱するも、俺は体勢を立て直し、周囲を見渡し皆の安全を確認する。
「大丈夫かっ」
仲間に呼びかける。オズマ、エリス、ココノエは見た感じ無事である。
フェクダは俺たちに当てるつもりはなかった様子。
無事を確認し安堵したのも束の間、死角から二人の人影が俺に向けて剣を振るって向かってきた。
「なっ」
俺は咄嗟に手にした『天月』でそれを受ける。俺に攻撃をしてきたのは双子アルカとベネトである。
アルカとベネトはそれぞれ両手に短剣を手にし、俺の急所めがけて、切り込んできた。
明確な殺意が込められ、二人は連携が恐ろしいほどに取れている。
息もつけぬ連撃を浴びせられ、人ならざる魔族のはずの俺でもその攻撃を受けるだけで手一杯となる。
俺は体勢を崩しながらかろうじて斬撃を凌ぐものの、推されて後退していく。
何かを思考する余裕など全くない。俺のすべての意識を防御に回さなければ受けられない。
それが俺のみを狙った誘導だったと気付くのは仲間たちとかなり離されてからだ。
「主殿っ」
オズマが叫ぶも双子の攻撃の手は緩められることはない。
ユウは双子の猛攻に押される形でその場から遠ざけられ、オズマたちの視界から消える。
オズマはユウを追うか、ここに残るかを躊躇する。
「こっちは私たちに任せろ。オズマはユウを追ってくれ」
エリスとココノエがフェクダと対峙している。
「すまない」
オズマは二人に言い残すとユウを追い、その場を離れた。
「あらら、副団長はあっち側に行っちまったか」
フェクダはとぼけた様子でオズマの向かった方角を見てつぶやく。
フェクダはエリスとココノエをちらりと見る。
「まあいいか。こっちもそれなりに楽しめそうだ」
フェクダはココノエとエリスを見て舌なめずりをする。
根っからの戦闘狂というフェクダの側面をエリスとココノエは垣間見て、さらに警戒を強める。
「楽しい殺し合いをはじめようぜ」
誰も予期しないところで俺たちと七星騎士団との死闘の幕が上がる。




