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竜騎士対七星騎士団

竜というのはその大きすぎる存在ゆえに犬や馬といった動物に影響を与えてしまう。

無用の混乱を懸念し、一部の竜騎士たちはパタフの近郊の森で竜とともに野宿している。

現在、竜騎士一行はパタフの近郊の森の中に交代で竜たちの番をしている。

ホウエン、ナナツキは炎を囲むように座っていた。


「ホウエン殿、竜派二刀流の師範代でもあるあなたがあそこまであっさりと負けを認めるのは初めて見た」


「拙者が未熟であるがゆえ…」

自身の未熟を語るホウエンの表情には影がない。


「…オズマ殿と戦いのときの最後のやりとり。あのときホウエン殿は何を言われた?」

ナナツキは酒瓶をホウエンに投げつける。

ホウエンは渡された酒瓶に口をつけるとぽつりぽつりと話始める。


「…今より二百年以上も前になりますか。昔からわが流派、竜派二刀流において一つの伝説が語り継がれております。

わが流派の開祖となるジンサイ様は若いころに狼の化身に鍛えられたというものです。

知っての通り、竜族は人と比べて長寿とはいえ、不死というわけではありませぬ

開祖ジンサイ殿は病で床に臥せ、今わの際までその狼の化身との再戦を切望されておりました。

それ以降、竜派二刀流の師範代には代々、その狼の化身に出会った時には全力を持って相手をするよう言づけられているのです」


「あのオズマという者の容姿がそれに合致したと?」

ホウエンに渡した酒瓶を奪い飲む。


「ええ。拙者も初めは他人の空似かと思ったのですが、あの姿、あの気配、それにあの黒い槍。すべてが伝承通り。

剣を交えて彼がそうであるという確信を得ました」


「だが今生きているとなればすでに三百歳以上となるじゃろ。

そんな長い間生き続けられる存在がいるとすればそれは神獣、精霊、神魔の類であろう。

オズマ殿は我々の戦いにおいて魔力などの力を一切使ってはおらぬぞ」



「…ここでナナツキ殿は

ナナツキ殿は私にオズマ殿は開祖ジンサイ様の名を口にし、技術は研鑽され、受け継がれていくモノだと改めて知った。

とおっしゃれた」


「…それはまことか?」

ナナツキが酒を飲む手を止めて目を丸くしている。

竜派二刀流は竜族の流派。竜族のために編み出された技術。

竜王国では三大流派としては名高いが、人の世では無名といっても過言ではない。

まして竜王国から遠く離れたこの大陸の西でその開祖ジンサイの名を知っているとは考えられない。


「…もしナナツキ殿の言うような存在が何百年も武術の修行を続けていたとしたら、

武術の神とでもいうべき存在なのではないでしょうか。そうであれば拙者ごとき到底敵う相手ではありませぬ。

現に私の技に対し見せた見事な返し技。知っていても実際の戦いにおいて実践できる者はまずいません」

ホウエンはあの時のことを思い出しながら語る。


「何百年も武術の修行をか…。わしは嫌じゃな。人であれ竜族であれ、終わりがあるから懸命に生きられる。

終わりのない研鑽は永遠の地獄そのものじゃ」

ナナツキは手にした酒瓶をぐいっと一気飲む。


「…そうですな」

ホウエンは笑ってナナツキの言葉を受け入れる。


「さて。質問に答えた代わりといっては何ですが、拙者からも一つ質問させていただいてもよろしいかな」


「よいぞ」

ぐびぐびと音を立てナナツキは酒を一気に飲み、ホウエンに向き合う。


「拙者、ナナツキ殿の求婚の話の方に驚かされました。なぜエリス殿を?」


「わしは伴侶とするならばわしの背中を預けられる者が良いと思っておった。

わしと打ち合え、あれほどの女子は竜族にもおらぬ。

この地の勇者という役割を持っていなければ拝み倒してでも連れ帰っていたかもしれぬ」


「ハハハ…拝み倒してもですか…」

ホウエンは苦笑いを浮かべる。


「まことにここまで人間相手に執着させられたのは初めてじゃ」


「たしかに。今回の戦いにおいてひ弱な人間という考え方を根本から改めさせられましたな」

ホウエンの表情が明るくなる。


「うむ。本当に『渡り鳥』の面々には頭が下がる。特にセリア殿。

召喚術は使わなかったとはいえ、あんなか細い童がよくあのユキト殿と渡り合えるものだ。

セリア殿は未だ粗削りだが、あの歳でユキト殿をあそこまで相手にするとは末恐ろしいぞ」


「エルフの血を引いているということは相当の長寿のはず。外見で判断するのはいかがなものかと思いますが」


「ちなみにセリアさんは外見相応の歳です。エルフは幼年期は人間と同じで、青年期が長いととある文献で読みました。

セリアさんの歳はどう見ても十代前半。ほぼ人間変わらないということです」

背後の闇の中から声をかけられる。


「ユキト殿」

ホウエンとナナツキは振り返る。


「ホウエンさん、ナナツキさん、見られていないとはいえ女性の齢を話題に上げるのはいささか無礼かと思いますよ」

ユキトがにこやかに諭してくる。


「それで話し合いは終わったのですか?」


「具体的な案は冒険者側の顔役と明日顔合わせして決めるようですね。それまでは相変わらず待機だそうです」


「わしとしてはすぐにでも攻め込みたいところじゃな」

ナナツキは指を鳴らし、待ちきれないといった様子だ。


「ユキト殿、一つよろしいかな?」

ホウエンがユキトに問いかける。


「何でしょう?」


「あのゼロスという者は一体何者なのでしょう?精霊の類というよりは魔性の類に近い感がするのですが」


「たしかに…妙に肌がぴりつくような感じがする」


「ナナツキ殿は感覚が鋭いですからな」

ナナツキは本能で物事を判断する。


「…すべてが終われば隊長は我々にも話されるでしょう」

ユキトは思案気に口を開く。


「…ユキト殿は心当たりがあるようじゃな」


「まあ…竜が怯えている?」

暗闇の中から一人の子供が姿を現す。


「ねえ、お兄さん。それ君たちの竜?」

ホウエンたちを見ても怯えるしぐさは見えない。

近くに街はあるが夜更けに一人で森の中にいるというのは異常である。

その上、声をかけられるまで気配を感じなかった。


「一体でいいから僕らに頂戴」

もう一人、同じ顔をした子供が背後の竜の近くでほほ笑んでいた。


「…お主たち何者だ?」

ホウエンの両手には剣が握られ、ナナツキも巨大な剣を抜刀している。

ユキトも袖の奥で符に手をかけている。

三人の竜騎士たちは既に臨戦態勢である。


「アルカ、べネト、あまり騒ぎを起こすな」

なだめるような声が子供の背後から声をかけられる。

そこにいたのは五人の人影。


「団長、いいだろうが。どうせみんな死んじまうんだしよ」

武器を背中に抱えた長身で筋肉質の男が声を上げる。

いつの間にか六人の男たちが竜騎士たちの前にいた。


「フェクダ、口を慎みなさい」


「解」

隙を見てユキトが印を結ぶと、一斉に竜を縛る手綱が焼き消え、竜たちは上空に逃げ出す。

緊急時、ユキトは竜を逃がすという役目がある。

ユキトは本能的に異常を察知し、逃がすという選択肢を取ったのだ。


「あーあ、逃げちゃった」

子供が空を見上げながら残念そうな声を上げる。


「飛竜…大陸の東の果てに住むという伝説の竜騎士ですか。

この大陸の東の果てにいる存在がどうしてパタフに来ているのでしょうか?」

中心にいる男がユキトたちに尋ねる。


「答える義理はありませんね」

ユキトの本能は相手は敵だと告げている。


「団長、すでにこちらの姿を見られています。ご決断を」

眼鏡をかけた痩躯の男が頭を下げて提案する。


「私の名は七星騎士団団長アリオト、そちらの名は?」

七星騎士団の名にオズマから話を聞いていたユキトたちの表情がこわばる。

竜騎士と七星騎士団を名乗る集団との間にしばしの沈黙。


「…答えるつもりはないか。残念です。

ここであったのが運の尽きと思ってあきらめてもらいましょうか。眼前の竜騎士たちを討伐せよ」

アリオトがそう言うなり手を出してきたのは同じ容姿をした子供だった。

ホウエンはすぐさまユキトをかばうように双子の前に立つ。

ホウエンを敵と認め、同じ容姿をした子供が左右同時に襲い掛かる。

双子の絶妙な連撃とホウエンの二刀が空中で交叉する。そのまま打ち合うこと数合。


「体から魔力のようなものを放出し、致命傷を避けてる」

「この人、ずいぶんと戦い慣れしてるね」


打ち合い、捌き、いなし、竜気を放出し、致命傷は辛うじて避けているものの、

それでも避けきれない傷がホウエンの体に刻まれていた。


「この体になってからまともに戦える相手なんてほとんどいなかったし、ちょっと本気だしちゃおうかな」

「少しは楽しめそう」

同じ容姿をした子供はそれぞれに凶悪な笑みをそれぞれに浮かべる。

そのままホウエンと二人の子供は交戦しながら森の中に消えていく。


「ということだ。大男のあんた、俺とやろうぜ」

棍を持った男がナナツキの前に立ち挑発する。


直後、互いに全力を乗せた棍と大剣が接触し火花を散らす。

周囲には巻き添えを食らった木々が剣圧を受けなぎ倒される。人の域を大きく超えた攻防。


「やるな。あんた」


「こっちに来てから正面から打ち合うのは二度目じゃの」

ナナツキとフェクダが打ち合い始める。


森の中で武器がぶつかり合う音が響く中、ユキトとアリオトは対峙していた。アリオトの周りには三人の人影がある。

壁のような大男に、眼鏡をつけた長身痩躯の男、卑下た笑みを浮かべた猫背の男。

どれも一癖ありそうであり、それぞれに独特の存在感を醸し出している。

分が悪いというのがユキトの見方である。


ユキトとアリオトたちは見つめあって対峙していた。

ユキトは懐に手を入れ、符を握りしめていた。四対一。

本来ユキトは接近型の戦闘タイプではない。竜騎士としての役割も補助や符を使ったものになる。

ユキトも接近戦は不得意なだけでそこそこはできる。

ただ一人二人なら相手にできるが、手練れ四人となれば話は別である。


「もう一度先ほどの質問をさせてもらいます。どうしてあなた方がパタフにきているのですか?」

アリオトは再びユキトに問いかける。

ユキトはその男に居心地の悪さを感じていた。

動く気配は今のところ見せていないが全くと言っていいほど油断も隙も無い。

こちらの動きをじっと観察しているようにも見える。

それはまるでこちらをいつでも殺せると言っているようなものだ。


ホウエンかナナツキが戻るのを待つ、もしくは飛竜が助けを呼んでくるのを待つ。

ユキトは思考を時間稼ぎに切り替える。


「ちょっとした探し物ですよ」

ユキトは懐から手を出し、会話をしながら相手の隙を伺う。


「探し物?東の果ての竜王国から竜騎士がわざわざ出向くほどの?」

アリオトの声には疑惑が含まれていた。


「同胞がこちらに迷い込んでしまったのでその探索です」


「なるほど。本来竜王国の守り手である竜騎士が動くほどの同胞ですか」

アリオトは薄く微笑む。


「あいにくその同胞はすでに先んじて竜王国へ帰還してもらいました」


「それではなぜパタフにまだあなた方は残っているのでしょう?」


「見知らぬ地で同胞を探してくれた恩を返すためですよ」


「恩ですか。それは果たして命を懸けるほどのものなのでしょうか?」

ユキトがそういった瞬間、どさっとユキトの両脇に人影が落ちてくる。ホウエンとナナツキである。


「すまぬ、ユキト殿」


「この者たち、強い」

ホウエンとナナツキは少なくない傷を負っている。

ナナツキは一部竜化している。ナナツキが竜化しても倒せない敵。

ユキトは表情を変えずに目の前の敵に対し認識を改める。


「こいつら、今の僕たちじゃ、たいしたことないよ」

「肩透かし」

双子が残念そうな表情で告げる。


「タフなのは認めるが、今の俺を楽しませるにはちぃっと足りねえかな」

棍を肩に大男は方に棍をつける。

三人は傷を負っているホウエンたちとは対照的に無傷である。


「あなた方が強くなりすぎただけでしょう」

眼鏡をつけた長身痩躯の男が口元に笑みを浮かべる。


ユキトは状況が限りなく悪いことをここで悟る。

時間稼ぎをしてホウエンかナナツキのどちらかが倒して戻ってくるのを期待していた。

ホウエンもナナツキも竜族屈指の武力の持ち主である。それがこんな短時間で倒されるのは異常だ。


「もう一度聞きます。その恩はあなた方が命を懸けるほどのものですか?」

アリオトがユキトに問う。人ならざる圧をアリオトから感じる。


「私はやられっぱなしは嫌いなんですよ」

ユキトは急にしゃがみ、地面に手を付けると地面に何らかの紋様が広がる。

その紋様の中から無数の小さな蜘蛛が飛び出してくる。


「目の前の敵を拘束せよ、土蜘蛛」

無数の蜘蛛がアリオトたちにむけて一斉に糸を放つ。

あっという間にアリオトたちのいた場所は白い糸で覆われた。


「一か所にまとまってくれて助かりました」


「召喚術は使わないのではなかったのでは」

傷ついたホウエンがユキトに問いかける。

ユキトの使ったのは竜王国に伝わる秘技である召喚術。

セリアとキャバルの闘技場で戦った際はユキトは衆目の目にさらされることを嫌い使わなかったものである。


「ここで全滅よりはいいでしょう」

ユキトの表情からはいつもの笑みが消えている。

対峙しているこの集団には出し惜しみしているほどの余裕がないと判断したためだ。


ユキトが手で印を結ぶと糸が収束していき球体になる。

人の手では決して切ることのできない糸。それが何重にも重ねられている。

巨大な竜ですら拘束することのできる強度である。


「その糸はただの力任せの斬撃では斬ることのできない糸。自由は奪いました。このまま拘束させて…」

ユキトが言い終わる前にその白い糸の塊が黒く染まっていく。


「…まさか侵食している?」

ユキトは顔をしかめる。

糸の固まりはみるみる黒く染まっていき黒い液体があふれ出し、どろりと地面に広がる。


「わしの力でもちぎれぬものを…嘘じゃろ?」

土蜘蛛の糸が破られたことに竜騎士たちは動揺を隠せない。


「なるほど。糸で拘束とは…良い手ですね。ですが相性が悪い」

アリオトの手からはどす黒いオーラのようなものが漏れている。

魔力とも異なるこの世界に存在しない力。


「これが私の能力。この世界にある物質を侵食する。

ですがいかに強度が高かろうとこの世界の物質である限り私を拘束できません」

アリオトの表情には優越感などの一切の感情を読み取ることができない。


「団長、もう殺らせてくれよ」

棍をもった男が待ちきれんとばかりにアリオトに声をかける。


「…そうですね。事情を聴きたいところですがこれ以上ここで時間を取ってもいられません」

アリオトは棍を持った大男に目くばせする。


「ここまで見せるのは我々にここまで付き合ってくれたあの世への手向けだ。貴公らの命を貰い受ける」

男が棍を構えると魔力に似たどす黒い風が吹き荒れる。

感じたこともない異質な力の波動に竜騎士たちの表情は険しさを増す。


「それは少し早いかもしれませんよ?」

ユキトは何かに気付き笑みを浮かべる。

ユキトはこの状況を見越してすでに手は打ってあった。


「待て」

一人の声がその場に響き渡り、そこにいた誰もが動きを止める。

今まで一切の感情を見せてこなかったアリオトの表情がピクリと動いた。


声を上げたのは黒い槍を持った黒の騎士。

ホウエンが武神と表現した男であり、七星騎士団とは深い縁を持つ男。

奇しくもオズマと七星騎士団との対面が叶った。

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