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話し合い

宿に戻るとセリアにエリス、クラスタ、アタが俺の部屋に集まっていた。

早朝だというのにパーティメンバー全員勢ぞろいだ。

それぞれの表情を見ればクラスタはどこ吹く風だが、エリスぶぜんとした表情でこちらを見ている。

中でもセリアが笑顔なのが怖い。経験上相当怒っているときの顔だ。

クラスタの肩にいるアタが困惑の眼差しをこちらに向けてきている。

どことなくデジャビュのようなものを感じる。

俺とオズマは言われるまでもなく部屋の真ん中に座らされる。


「昨日の夜どこに行っていたのか教えてくれるわよね」

いつになくセリアの笑顔が怖い。


「昨日のことは…」


「教えてくれるわよね」

怒りを抑え込んだ静かなセリアの声に内心ビビる。ゼームスとは違う意味で怖い。

どうやら口答えは許してもらえないようだ。


「…はい」

リーダーは俺のはずなんだが、すでに主導権はあちらにあるようだ。

どうやらどこの世界でも女には勝てないらしい。

俺は昨日ゼームスに出会ってきたこと、そしてそこでのやり取りをセリアたちに話した。


「なるほどな。ゼームスに話を聞きに行ったか」

腕を組みながらエリスは納得した様子をみせる。


「話を受けるにも情報があまりにも少なかったもので…。

それに皆、昨日は竜騎士との戦いと祝勝会で疲れていただろうかなって…」

セリアの圧に押されながら俺は話す。

言い訳がましく、そして情けなく見えるだろうがこれでもリーダーである。

今のセリアの圧はゲヘルたちにも負けていないと思う。


「このまま今後のパーティの方針を決めようと思う」

俺の声に皆が頷く。ようやく本題に移れそうだ。

俺は気を取り直して話を進める。


「それでオズマ。プラナッタで何を嗅いできた?」

俺の一言に皆の視線がオズマに向く。

オズマは冒険者ギルドからの帰り道、一言も発せず何やら考え込んでいた。


「私がかつてあれを嗅いだのは千年前のことです」

オズマの言葉に皆の表情が一変する。


「千年前?大崩壊の時の話か」

クラスタはぼそりとつぶやく。


「大崩壊?神話の世界だぞ」

エリスが大崩壊と聞き表情を変える。


サルア王国の王立図書館で読んだことがある。

千年前に起きた大災害。それは人間の文明が一度消滅したといわれるほどのものだったという。

その災厄により人類の八割が死滅したという。今までの文明は文字通りリセットされ、

生き残った人類は必死の思いで復興したという。サルア王国の図書館の本にはそう記されていた。


「それの要因となったのは侵略者インベーダーと呼ばれる外敵によるものです」


侵略者インベーダー?」


「…やっぱり今回の一件は侵略者インベーダーがらみかよ」

クラスタはあからさまに嫌な顔を見せる。

俺の疑問をそっちのけにして会話が進んでいく。


「個人でどうにかするには少しばかり大きすぎます。本来なら六柱が対応する案件ですよ、これは」

クラスタのそばにいるアタが話しかけてくる。


「アタのいう通りだ。話を受けずにこのまま『極北』に話を持って行ったほうがいい」


「ちょっとまてその前に侵略者インベーダーってやつのことを聞きたい。侵略者インベーダーって一体なんだ?」

侵略者インベーダーのことを知らないのは俺だけではない様子。

セリアもエリスも俺の言葉に同意してくれた。ちょっと安心。


「定期的に外界から稀にやってくる敵だ」

クラスタは俺の質問に淡々と答える。

クラスタには今までの軽い雰囲気にはないぞっとするぐらい冷たいものが混じっている。


「連中は世界から追放された邪神、自分のいる世界を喰らって世界から零れ落ちた者、

無から生まれた怪物。そんな連中が世界の外には何体か存在していると言われる。もちろんそいつらと遭遇するのは稀なことだ。

だが一度そいつらがこの世界にやってくれば世界に大災害と言った形になって現れる。

そいつらから世界を守るために世界は巨大な結界、断絶結界アルスベルトによって隔離されている」


「なるほど。外から来た奴らのことを侵略者インベーダーって呼んでるのか」


「それでそれを討伐する役割を担うのが俺たち魔族なんだ」


「なるほどな」

思い当たるふしはある。魔族の役割は世界の管理と聞いている。

魔族が敵対するのは外からの侵略者に対しても当てはまってもおかしくはない。


「魔族は現世で唯一力を持つことが許された存在。

それは奴らみたいな外界からの侵略やはみ出し者の粛清等の不測の事態に備えてのことも含まれる。

ま、そこんところ勘違いしてる魔族は多いけどな」

クラスタの言う上というのはゲヘルたちのことだ。クラスタの言う六柱というのは『極北』の魔神のことである。

はるか北の地に存在し、強大な力を持ち、この世界での絶対者。敵対という選択はありえない。


「もし今回ゼームスたちがそれの対処に当たったとして、ゼームスたちは倒せると思うか?」


「さあな。相手の規模にもよるな。侵略者インベーダーってのはピンキリだ。

人間数名を丸呑みして満足する奴、人の国を食らって満足する奴、

最も大きいのでは世界を渡り歩いて世界を食らう奴もいるって話だ」


「…世界をか」


「スケールが違いすぎるな」

それぞれに感想を述べる。世界を食らう敵。


「対話という選択肢はないのか?」

相手に自己があるのならばその可能性もある。


「そもそもが掃きだめにいる連中だ。まともな奴なんかいやしねえ。

その上、力のある侵略者インベーダーは絶えず餓えてやがる。

途方もねえ時間を暗闇の中で過ごしている存在だ。奴らには自我なんてもんはほとんど残ってねえよ。

残っているとすれば強烈な意思を持った奴か、本能のみの危うい奴らだ。

前者の場合は近寄ってくる理由なんてものは知れてるし、後者の場合、奴らは世界を餌としか見てない。

侵入してきた段階で世界の抑止力なんて気にせず侵入してきた時点で見境なく喰らい始めるっつう話だからな」

クラスタの話によれば対話という選択肢はないと思てもいい。


「でもプラナッタはまだ残っているわよね」

セリアのつぶやきはもっともである。

本能のみの存在ならばすでにプラナッタ国内で暴れている可能性が高い。


「プラナッタがまだ無事ということは前者の強烈な意思を持った奴ということか?」


「そうだな…。一国にくすぶっている時点で脅威度としてみるなら四段階中の一番下の人喰い(マンイーター)ってところだろ。

天竜と同化してるあの男なら制圧はできなくはないだろう」


「どうしてもゲヘルたちへの連絡は必要か?」


「当然だ。隠ぺいしたと六柱に判断されれば下手すりゃまとめて消されかねねえ」

魔族の消すは文字通りこの世界から消すということだろう。

魔族の六柱と相対した俺だからそれに実感が伴っている。


「俺達では討伐はきついか」


「主殿、それは…」


「わかってる」

俺の声にオズマが慌てて横から口をはさんでくる。

オズマの心配していることは俺の体の心配である。

クラスタからの話を聞いた限りではそんな相手に魔力なしで戦うことはできない。

ただ、神力に蝕まれている俺が魔力を使うことは寿命を削る行為となる。

現状、魔力を使うことは自殺するに等しい。事実、魔力を無理に使用をして吐血して倒れたことがある。

相手の規模にもよるが下手をすれば討伐に命をかけなくてはならなくなる。


「プラナッタの首都シーリウでその民は生きているのだろう」

エリスが横から話しかけてくる。


「ええ。まだ生きて生活しているようでした。どういうわけか侵略行為は未だ最小限で留まっている様子で、

プラナッタの首都シーリウでは都市機能が生きている様子でした」


「なら問われるまでもない。倒しに行くべきだ」

エリスが意を決したように立ち上がる。


「俺としては倒しに行くべきじゃねえし、あの男の提案は乗るべきじゃねえと思う。

もし六柱が出てきたら俺たちも巻き添えを食らっちまう。大将も六柱の力はわかってるだろ。

巻き添えを食らったら全員もれなく即死だ。悪いことは言わねえ、この件は断って柱に報告して先に進むべきだ」

クラスタがエリスに対し、真っ向から反論する。

クラスタのいうことも一理ある。もしゲヘルたちが動いた場合プラナッタが地図上から消え去り、

プラナッタの首都周辺もしくはプラナッタのすべてが巨大な湖になる。

ゲヘルたちの力は地形をたやすく変えるほどのものだ。

そんなゲヘルたちの戦いの余波を食らえば人間はもちろんのこと、魔族だとしてもひとたまりもない。


「はい、ゲヘル様たちは外敵に対して容赦はありません。

侵略者インベーダーはこの世界に対して明確な敵であり、その存在がゲヘル様たちに知られえれば

容赦なく、躊躇なく、徹底的に殲滅することになります」

オズマがクラスタに同調する。


「ならば何も知らぬプラナッタの国民の犠牲を指をくわえてみていろというのか?」

エリスが激昂する。宿中に響き渡るような大声だったが、この部屋にセリアが予め結界がそれを防いでいた。

正義感の強いエリスらしい答えともいえる。エリスの考え方は変わらない。人を救うことをエリスは信条にしている。

自分の身の安全など顧みない自己犠牲の精神。それゆえに聖剣に勇者として選ばれたのだろう。


俺は騒然とした雰囲気の中、初めてゲヘルたちと出会った時のことを思いだしていた。

俺とゲヘルたちは正面から敵視され、俺は運よくゲヘルたちと和解できた。

その恐ろしさを俺は身に染みている。

ゲヘルたちは自分たちの使命を全うするためならば人間の犠牲など全く気にしない。

世界の維持のために必要だと思う選択を躊躇なくとる。

それが彼らの存在理由であり正義なのだから。


Sランクの冒険者も参加するという。

依頼を受けるとするなら前と後ろ両方の注意を払わねばならないということらしい。


「ただどちらにするにせよ放置するという選択肢は存在しません。

被害はプラナッタにとどまらず拡大していくことになるでしょう。

被害はプラナッタだけにとどまらず近隣の国々まで広がります。

侵略者インベーダーの目的はこの世界の存在を喰らうこと。

速やかに倒さねばそれによる犠牲は拡大していきます。どちらにせよ早急な対応が求められます」

カラスのアタの意見である。


皆の言い分はそれぞれの立場で語られている。

ただここでもっとも重要なことは別にある。俺はオズマに向き合う。


「オズマ。オズマの考えを聞きたい。オズマとしてはどうしたい?」

オズマは俺の声に応えない。オズマの表情に感情の揺らぎを俺は感じた。

短い付き合いだが、オズマの考え方は何となく読める。

クラスタから聞いた情報、そして今の反応で大体の事情を俺は察する。


「『極北』に報告するべきです」


「それで…」「違うだろ」

エリスの怒声を遮り俺は続ける。


「…」


「俺はオズマがどうしたいかを聞いている」

あのオズマが動揺している。


「…私は…」


「…私は…いえ、もしそれにアウラ姫や七星騎士団が関与しているというのなら私が七星騎士団を止めます」

オズマはためらいなく言い切る。そこにはオズマのはっきりとした意思を感じる。

すでにゼームスから話を聞いた時点で覚悟は決まっていたようだ。


「それがオズマの古巣の七星騎士団やアウラ姫と敵対することになったとしてもか?」

俺はオズマの目を見て語りかける。

戦場での躊躇いは死を招くと俺に教えてくれたのはオズマだ。

もし躊躇いが少しでもあれば俺はエリスを説得し、ゲヘルたちに伝えて保留するつもりだった。


「ええ」

躊躇なくオズマは答える。オズマの腹はすでに決まっているようである。


「…なら決まりだな」

俺は立ち上がる。


「皆。俺はゼームスの依頼を引き受け、これからプラナッタに向かおうと思う。それに異論のある者はいるか?」

俺は皆に向けて問いかける。


「ない」

エリスは当然といった様子で同意する。


「今度は私も頑張る」

セリアはやる気満々の様子。


「ま、しゃーねえな。奴らと戦うのもありか。その代わりそうなったらそうなったで俺は逃げ出すぜ」

あくまで反対していたクラスタはしぶしぶながら納得してくれたようだ。

クラスタの脇でアタも頷いてくれている。


ただ賛成してくれた皆とは別に一人だけオズマが困惑している。

オズマはこの決定に納得できていないのだ。


そのオズマの表情を見て俺の予感が確信に変わる。

オズマはたとえ命がけになるであろうとも侵略者インベーダーと刺し違える覚悟だった。

そして竜騎士たちとの戦いが終わったのなら俺たちの元から離れる腹積もりだったのではないか。

プラナッタの現状をゼームスから聞いた後、黙っていたのは俺たちを巻き込むことになりそうだったから。


オズマは不器用すぎる側面がある。

そもそもオズマが俺たちに何かを頼るさまが考えられない。

自分自身の手ですべて終わらせようとするだろう。自分に関係のあることだからそれはなおさらだ。

プラナッタ王国からわざわざ戻ってきたのは俺たちに力を貸してくれるようにお願いするためじゃない、

俺たちに別れを告げるためと考えるのが最もしっくりくる。


「仲間だろ。我儘ぐらい言ってくれ」

俺はオズマの肩に手を手を置いて語りかける。


「ゼームスに俺たちの参加する旨を告げてくる」

俺はそのまま部屋を後にする。


オズマにはこの世界に来てから世話になり続けている。もちろんゲヘルやラーベに命じられているのもあるだろう。

だがそれを差し引いてもこんな俺によく尽くしてくれた。


俺に残された時間は少ない。

そんな俺の命の残りを賭ける理由には十分すぎる。

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