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大将戦 ユウ対ココノエ

「一言だけ言っておく」

オズマが俺とココノエの間に割って入ってくる。

俺にはひょっとしたら止めてくれるかもしれないという淡い期待があった。


「主殿は私より強い。それでも戦うか」

オズマの一言にその場がしんと静まり返る。


「そ、それは…本当か?」

ココノエは目を丸くし、オズマに問い返す。


「ああ。主殿の敗北はあり得ない。なんなら私の一勝をかけてもいい」

自信満々にオズマは断言するのを聞いて俺は耳を疑う。

オ、オズマさん?あんた何煽ってるの?

俺が声を上げようとすると俺の背後から声が上がる。


「私も賭けてもいい。ユウ殿は私よりも強いぞ」

「私も」

「いいぜ。俺も賭ける」

何故か俺の仲間たちは俺が戦うことに乗り気のようだ。

…俺は何で仲間から突き上げを喰らっているのだろう。


仲間からの突き上げのあとに闘技場から一斉に試合のコールが巻き起こる。

賭けで負けていて半ばやけくそ気味になっている連中もちらほら。

俺はこの状況にうなだれる。どうやら俺に拒否権は無いらしい。


「わかった。受けるよ」

俺が承諾すると会場中から大歓声が巻き起こった。

ま、覚悟はしていたし、みんな戦っているのに俺だけ戦っていないとかなんか嫌だ。


俺は嘆息交じりに試合場に向かう。今までよりも一際大きな歓声が上がる。

そこには戦いが終わらなかったことで賭けが終わっていない事への安堵もあるのだろう。

事実上の決勝戦みたいになったぞ。別に戦うのはそれほど問題ではない。俺の場合問題は少し違う。

収納の指輪から木刀を取りだす。


「あ、あれは」

ゼームスが声を上げる。


「ゼームスさん、あの木刀は何かすごい魔法道具なのですか?」


「冒険者ギルドの向かいの通りにある武器屋で売ってるやつだ」


「は?」

グラーナはゼームスの言葉に絶句する。


「私をなめているのか?そのようなもので私と戦うと?」

ココノエは憮然とした表情で俺に問う。


「やってみなくちゃわからんだろ」

『天月』は危険すぎる。鞘があっても結構な攻撃力があるし、加減ができる自信がない。

ココノエの行動はサクヤのためを思ってやってることなのだろうし、俺に女を泣かせる趣味は無い。

木刀ならば受けはできなくとも間違っても相手を殺すことはないと思う。


「つまりは私では全力で戦うには値しないと。なめられたものだ」

ココノエは刀を振りぬくべく構えを取る。ホウエンのとは違うどう見ても日本刀のそれだ。

和風だなと思っていたが、ここまでかとも思う。

生きているうちに出来れば竜王国とやらに行ってみたいともちょっと思った。


「大将戦、ユウ対ココノエ始めっ」

観客には掛け声とともにココノエの姿が消え、ユウの背後に現れたように見えた。

ユウの体勢は上体そらしのような体勢になっている。

何が起きたのかわからず観客席はざわめく。


「ゼームスさん、一体何が起きたのでしょう」

解説のグラーナもココノエの姿を目で捉えられなかったらしく動揺している。


「独特の歩法で飛び出すと同時に刀を振りぬいたって奴だな。

足の裏から竜気を放出してな。並みの人間が相手なら気が付けば首と胴が離れている。

東方に伝わる居合という独特の戦いのスタイルの合わせ技だ。

もともとは人間が編み出した技らしいが、竜人が使うと恐ろしいことこの上ないな」

ゼームスの解説が終わると歓声が周囲から湧き上がる。


「それにしてもあれを初見で躱すか。ユウという男なかなかやるな」

竜騎士たちもユウに対し感嘆の声を上げている。


「焦った」

俺はそう言ってのけぞった上体を起こす。


「ほう。まさか初見でこれを躱されるとはな。言うだけのことはある。次は連続で行くぞ」

ココノエは俺に向き合い、腰を落す。


先ほどの速度で俺を通り過ぎた直後、ココノエは俺の頭上から剣先で俺の胴体を狙って降りてきた。

俺は身を捻ってその攻撃を避ける。


「まさか、死角からの攻撃も躱すか」


「感心するなら早く諦めてくれ」

俺の声を耳に貸すことなくココノエは俺に向かって攻撃を始める。


このココノエは斬撃だけではないらしい。突きなども織り交ぜてきているから厄介である。

速度もキレもある刃が縦横無尽に俺めがけて飛び交う。

魔族の高い能力があっても空間認識能力がなければ確実に一発もらっているだろう。

繰り出される斬撃や突きを俺は体勢を崩しながら紙一重で躱していく。


「ココノエ殿は竜騎士最強。そのココノエ殿の斬撃を悉くかわしておる」

ホウエンはその戦いから目を離すことなくつぶやく。

他の竜騎士たちも同様の表情で頷く。


「空の型、閃」

ココノエは俺の死角に入るなり、本来竜気を一定方向に収束させ、レーザーのように射出する。

死角から放たれたそれを俺は横に跳びそれを躱す。


「危ないぞ」

俺の偽らざる感想である。ちょっと冷や汗をかいた。この人、油断も隙もあったもんじゃない。


「…私の奥の手までも」

ココノエは俺がそれを避けたことに衝撃を受けている様子。

俺としてはこのまま敗北を認めてくれるとうれしいのだけど…。


「燃えてきました」

ココノエの身から放出される竜気がさらに上がる。

…ですよね。竜族の考え方が少しわかった気がする。要は好戦的で負けず嫌いなのだ。

俺の周りに同じようなのばかりだからよくわかる。

この手合いは引かないし、良くも悪くも敗北を認めてくれない。

この手合いに負けを認めさせるには一つしか方法はない。

俺はココノエの鋭い斬撃を避けながら、小さく嘆息した。



「ユウ選手はココノエ選手の攻撃を躱す、躱す、躱す」

グラーナが大声を上げ、実況をしている横でゼームスはそれを分析していた。

ゼームスの眼は竜眼。『天竜』ガルドと契約したことでその力を得た。

天竜と同化したことにより得たその眼は使われた力を観測することができる。


(ココノエの能力値的には竜族の近衛兵というのは伊達ではないな。

万能型で竜力の消費を可能な限り抑えた戦い方をする。

ココノエの放出する竜力量は実際のところそれほど多くは無い。

竜力だけならばスードラやナナツキの方が上だろう。

わずかな竜力を無駄なく収束させ、速度に転化させたり、レーザー状にしている。

小一時間はあの攻撃を続けることができるぞ。


反面、あのユウという男、目はいいが動きが全くの素人。

身体能力と目はいいのだろうが、躱すのに体勢を崩し過ぎだ。

あれでは満足に反撃すらできない)

ユウは躱すのに専念し、ココノエは攻めに徹している。今の状況、どちらも決め手がない。

ユウは持久戦にし、ココノエの体力の消耗を待つつもりなのだろうが、

そもそも竜族は人間とは体の構造が違う。言うならば体力のお化けである。



これは長引きそうだなと思いゼームスはパンフレットに目を向ける。

そこには『渡り鳥』のメンバーの名前が箇条書きに描かれていた。

ゼームスは今までの『渡り鳥』のメンバーの戦いを思い返す。


魔族と言えば典型的なのはクラスタだ。

仕掛ける際にはピンポイントで魔力を体内で増幅し、力を強めている。

今まで何度か戦った魔族も同じような強化方法を使っていた。

魔力を使えばスードラにも勝てたかもしれないが、その場合大衆の眼に魔力を晒すことになる。

Aランクの冒険者もいるこの状況、誤魔化しきれない。

魔族は人間の天敵でもある。下手をすればその場で討伐対象にもなりかねない。

今回の戦闘では勝敗よりも魔族であることを隠すことを優先させたということだろう。


セリアは戦闘中に体中から出る魔力がわずかに減少していくのが見て取れた。

体内で魔力を生成できず、魔力を体内に蓄積させる発動するタイプ。

人間の魔法使いなどと同じだが、ただ放出される魔力の減少量を考えると

その体内に蓄積させる魔力量の許容量がとてつもなく多い。

あの激戦が終わっても体に内蔵している魔力の総量は七割ほど残っていた。

内蔵魔力量はイーヴァより若干少ないぐらいだろう。エルフの『先祖返り』の特性か?

魔力自体も発動が早く、まだ若く、伸び代が残されている。

ジャックがAクラスにしたのも頷ける。


エリスは法力。法力は人間の生命力を原動力とする。

とはいってもエリスの使っていた法力は突出している。

人間の百人分ぐらいの力を普通に出せるのは法力使いと言っても規格外過ぎる。

技術というのを全く使わなかったのは単に竜族と力比べをしたかったからだろう。

法力以外の能力は一切見れていない。

『ゼ・フィール』の選んだ今代の勇者は相当な実力者だと断言できる。


オズマと言う男は魔力を一切使っていなかったために良くわからない。

動作に無駄がないと言うよりは、老練し熟練した動き。

それこそ数百年武術に没頭した者…達人とか仙人とか言われるほうが近しい気がする。

ひょっとしたら『闘仙』ジルドの奴といい勝負ができるかもしれない。

まだ在野にあれほどの逸材が眠っていたことが信じられない。


総評としては『渡り鳥』というチームの中ではオズマが突出してる。

その次にエリス、クラスタ。セリアは少々戦いの尺度が違うが、経験を積めばかなりの腕になるだろう。

よくこれだけのメンバーを揃えられたものだ。メンバーの名前を見ながらゼームスは思う

その時会場中から歓声が上がった。


ゼームスが試合場に目を向けるとユウの足元にココノエが地面に転がっていた。

ユウの手には木刀らしきものの残骸が根元から折れて残っている。

審判が試合続行可能かを判断するためにココノエに駆け寄っている。


「しょ、勝者、ユウ」

審判はユウの勝利を宣言する。何が起きたか観客たちは理解していないようだ。

竜騎士の顔は困惑の表情でココノエに近づいていく。


「…なにが起きた?」

ゼームスは目を離したことを後悔する。


「私は一体…」

竜騎士たちに介抱され、ココノエは意識を取り戻した様子。

自信が敗北したことすらココノエは気付いていない様子。



俺は出会いがしらにココノエの後頭部に木刀での一撃を見舞ったのだ。

戦うことになった場合のためにオズマに角度と威力を教えてもらっていた。

それというのも今回の戦いにおいて俺自身への制約が多かったためである。


『天月』は威力が高すぎる。鞘はファイとの戦いでぼろぼろだ。

もう一度使えば間違いなく鞘は破損する。

鞘から解き放たれた『天月』ならば一撃で相手を絶命させることも可能だろう。

俺が使う始源魔法はサルアにいたときに人前での使用は避けたほうがいいと

知り合いの魔法使いから話を受けている。

魔族ならではの魔力を頼った戦い方も出来ない。

また魔族という人間離れした戦い方もできない。

つまりこの状況では俺の使える手がほぼないということだ。


特技が使えないという絶望的な状況の中、ココノエと対面した時に俺が感じたのは余裕だった。

何度か実戦しているし、最近戦ったファイやドリアに比べればずっとましな部類ではある。

『天月』を使用してないとはいえ、戦闘において俺はぎりぎりまで追い込まれた。

ココノエが弱いというわけじゃない。あの二人が強すぎたのだと思う。

それにココノエが幾ら速かろうが、何度も目にしていれば目も慣れてくる。

目も慣れてきたところでタイミングを合わせて回避した直後、首筋に一発。

反撃を考えていなかったココノエは俺からの一撃をまともに喰らうことになった。

ただ一つ、木刀まで壊れてしまったのは誤算ではあったが。


オズマから竜族も人と変わらないと聞かされていたし、

俺はサルア王国にいたときに人と戦う場合、殺さないで相手を戦闘不能にする手段を練習している。

今回の戦いではそれが生きた。


「…どうやら私の完敗のようですね」

意識を取り戻したココノエが俺に声をかけてくる。

木刀が壊れるほどの一撃を見舞ったのだが、頭を押さえるだけで大した傷は負っていない様子。

さすが竜族。俺は起き上がるココノエを見て内心、胸をなでおろしていた。


「ココノエ、何をしているのですか?」

俺がココノエの手を握り返そうと手を伸ばすと大きくはないが、

その透き通るような天からの声が闘技場に響き渡る。

その声に闘技場が静まり返った。まるで天からの御使いのように上空から舞台に降りてきたのは二人。

闘技場の視線がその二人に集まる。

一人は長い髪に天女の様な青の衣を纏った美女である。

もう一人は執事の様な恰好をした細目の壮年の男性である。

二人とも神々しいという言葉がぴたりと当てはまる。


闘技場のすべてが静止していた。威圧や殺気とかいうようなものではない。

巨大なものと対峙したかのようにピクリとも動けないのだ。

実況をしているはずのグラーナですらその状況に言葉無く見入っている。


多くの人に見られているというのに二人は全く気にも止めない。

俺も彼らがやっててから肌がピリピリする。

ゲヘルたちと対峙した時に感じたそれに近い。どちらかといえばパールファダに近いモノを感じる。

竜騎士たちよりもはるかに上位の存在だと断言できる。これはちょいと…いや、かなりやばい。

このキャバルを更地に変えるなど二人には造作もないことだろう。

戦闘になったとして今の俺では戦いにすらならないかもしれない。


…なんでこんな規格外がこの世界にはうようよいるんだろうな。


俺は心の中で悪態をつきつつ最悪の状況を想定し、収納の指輪から『天月』を取り出す。

相手の出方がわからない以上、武力行使という切り札は持っておいた方がいい。

警戒している俺の肩を背後からやってきたゼームスがぽんと叩く。ゼームスは無言で俺の前に出た。

任せろという意味らしい。この人、こういう時は頼もしく感じるから不思議だ。


「よ、久しぶり。シーリアとエアか」

ゼームスは二人にさりげなく挨拶する。


「あなた、ガラムとその契約者ですね」

シーリアはゼームスに顔を向ける。


「今はゼームスだ」


「ゼームス、あの子…サクヤが世話になりました。どうやら無用に騒がせてしまったようですね。

騒がせてしまったことに関しては詫びましょう」


「このまま連れて帰ってくれるのか?」

ゼームスのすぐ後ろにはサクヤがやってきていた。


「あの子が私たちの話を聞いてくれるのであれば…」

シーリアは困ったようにサクヤに目くばせするが、サクヤは全く気にも留めていない様子。


「…苦労するな」

シーリアの苦労をゼームスは察したらしい。シーリアはゼームスの言葉に小さく頷く。


「サクヤ、あなたはどうするつもりなのですか?」

シーリアは責めるようにサクヤに問う。


「私の探し人である旦那様はすでに見つけました。彼です」

サクヤは俺を向いて断言する。シーリアとエアは俺に視線を向けてくる。

サクヤさん、旦那様になることを承諾したつもりはないんだけどね…。


「…なるほどあなたがあの子の選んだ男ですか」

シーリアは俺に近寄り、俺の体をつま先から頭までなめまわすように見てくる。

俺は素性がばれないか内心ハラハラしている。


「あなた、少し私たちとお話しましょうか。ゼームス、この子少し貸していただきます」

シーリアがエアに目くばせすると俺の周囲の景色が変わった。

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