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前半戦を終えて

俺は言われるがままにゼームスの後を続く。

ゼームスは行きかう人々に手を振ったり、握手を求められたりしてる。

ゼームスは人懐っこい笑みを浮かべてそれに応じている。


「竜騎士チームは少しきついんじゃねえの?」

「さすがにあの七星騎士団の副団長とデリスの勇者様だろ。一二試合目はさすがに相手が悪かったって。

あと二試合ってあれだろ、あのひょろっとした奴とあのエルフの『先祖返り』だろ。

連敗して終わるんじゃねえのか?」

「まだ、勝負は捨てたもんじゃねよな」

歩いてるとそんな話が聞こえてくる。俺は身を小さくしてゼームスの後を追う。


階段を上ると極端に人が少なくなる。

やがて衛兵が二人通路の両側を守っている場所にやってきた。


ゼームスは手を上げ挨拶すると我が物顔でその先に進んでいく。

俺はその後をそそくさとついていく。衛兵が守っていた通路の先には不自然なことに誰もいない。

床も赤い絨毯が敷かれており、異様に整備されている。

俺はさっきから黙って俺の前を歩くゼームスの後をついていく。


ゼームスは二人の兵士が立つ、大きな扉の前で立ち止まる。

すると両脇にいた兵士が何やら頷いて扉を開いた。

扉の先の部屋には真っ赤なカーペットが敷き詰められ、調度品や絵画が飾ってある。

二人の兵士と一人の男、そして一度見たことのある女性が立っていた。


「ヘレネさん」

俺が声を上げるとヘレネさんは深々と頭を下げる。

ヘレネはベルガと出会った際に俺たちに引き渡してくれた女性だ。。


「会わせたかったのはそっちじゃない」


「へっ?」

奥に堂々と座っている人間がいる。

駒かな金細工がされた杖を持ち、一際目立つ。

一つ、頭に王冠を乗せているためにそれが誰なのか一発でわかる。


(王様かよ)

俺は頭を下げてゼームスに向けて心の中で絶叫した。

俺が頭を伏せる前でゼームスは手を頭の後ろで組んで全く気にかけていない様子。


「私はこの国の国王ラムルス・コルベル・クロニクル。

渡り鳥のリーダー、ユウ殿。ベルガをデリス聖王国まで届けてくれたこと感謝する」

俺は黙ってそれを聞いていた。

王族と会う場合、相手が発言を許すまでこちらが発言してはならないというのは儀礼らしい。

サルア王国にいたときはそれを知らなくて近衛の人たちからかなりの反感を買っている。

その経験がここで生きるとは思ってもみなかったが。


「そうかしこまらなくてもいいぞ。ここに来ているのだって公式には無かったことになってるんだ。

おっさんとか好きな呼び方で呼べばいいのさ」


「ゼームス殿、それは言い過ぎだろう」

ラムルス王はゼームスに抗議の声を上げるも、それほど怒ってはいない様子。

どちらかと言えば楽しんでいるような感じさえ受ける。

なるほど、ゼームスが闘技場を一日で借りれたのはこの国のトップとつながりがあったためだろう。

ゼームスという男はどれほど顔が広いのか。


「…つまりはあなたが依頼者だったと」


「そうだ」

澱みなくラムルスは肯定する。ジャックが依頼者を言わない時点で何となくそんな気はしていた。


「さて何か望むモノはないか?」


「私はギルドの仕事をしたまで。報酬はもう十分にいただいております」

ここで俺はでしゃばるつもりはない。白金大金貨二枚というのは対価としては十分すぎる。

この手の質問も何度か受けている。そもそも欲しいものなどほとんどない。

手持ちの金も十分すぎるぐらいあるし、爵位とかもらっても面倒なだけだし、

魔道具や武器は既に足りている。


「無欲じゃな」

俺としてはそういう風に思われるのが一番良いし、今の現状欲しいモノはほとんどない。

ただこれ以上コルベルで宮廷内のごたごたに巻き込まれるのはマジで勘弁してほしい。

その後、簡単な受け答えをして、ラムルス王との謁見は終わり俺は一礼しゼームスと一緒に部屋から出る。


「ほれ」

ゼームスは部屋を出るなり俺に金貨を一枚放り投げてくる。

俺はそれを手に取り見て絶句する。白金大金貨だったからだ。

この金貨数枚持っているが、これ一枚で家が建つほどの金額である。


「これは?」


「試合中に付き合わせちまった迷惑料だ。別に金ならいくら持ってても問題はねえだろ」

ゼームスはけろりと答える。放り投げるような代物でもあるまい。

金銭感覚この人にはないのか。


「…それに思いのほか稼げたしな」

ぼそりとゼームスが言ったこっちのほうが本音のような気がする。


「…ならありがたくもらっておきます」

俺は金貨をポケットに入れるふりをして収納の指輪に入れる。

貰っても別にあとで何か言われるようなことはあるまい。


「なあ、一つ聞いていいか?」

ゼームスが歩きながら俺に声をかけてくる。


「なんでしょう?」


「『黒の塔』相手にどう立ち回った?ファイの奴が自ら身を引くのは俺には考えられねえんだが」

ゼームスは最大の爆弾を俺に放り投げてきた。


「そ、それは何と言うか…」

俺は言葉を濁す。そのファイ当人とガチで殴り合ってきたとかもちろん言えない。

話すとなれば『黒の塔』までの移動手段も話さなくてはならなくなる。

俺が魔族と自白するようなものだ。慎重に言葉を選ぶ必要がある。


「…言いたくねえならそれでいいさ。今度万が一が起きたときには俺に声をかけるといい。力になるぜ」

ゼームスは人懐っこい笑みで言葉を濁す俺に笑いかける。


「さてと、あんたにお客さんのようだぜ。俺は先に戻ってるぞ」

振り向けばラムルス王と一緒にいたはずのヘレネがいる。ゼームスは俺を残して先に行ってしまった。


「ユウ様、これを」

ヘレネさんは旅に出る前に預かっていた薄汚れたとんがり帽子とローブを手渡してくる。

薄汚れたとんがり帽子とローブが綺麗になった上にきちんと折りたたまれていた。

これ、あくまで偽装用としてジャックから借りたものである。

ジャックにこんなに綺麗にして返すとか怒られないか少しだけ心配になった。


「…ベルフォード様の件、ありがとうございました」

ヘレネはそう言って深々と頭を下げる。


「俺を信用してくれるんですね」

相手の礼儀正しい物腰に俺は思わず敬語になる。


「依頼完了報告書の筆跡は紛れもなく坊ちゃまのものでした。

坊ちゃまのことは彼が赤ん坊のころから見ています」

ヘレネからはベルフォードを気遣う思いが伝わってくる。


「ベルガ…ベルフォードが言ってました。ヘレネによろしく伝えてくれって」


「そうですか」

きりっとした表情のヘレネの表情が少しだけ緩んだ気がした。


「…ヘレネさんはこれからどうするつもりですか?」


「私としてはもう宮廷内でのごたごたはうんざりですし、坊ちゃまの居ない王宮に未練はありません。

王には引き止められましたが、田舎にある実家に戻ろうかと考えております」

ヘレネの表情からはどこか達観したような印象を受けた。


「そうですか」


「今日来たのはもう一つ、キャバルで最後にあなたがた『渡り鳥』の試合を見ておきたかったからです。

そのために王に頼み込んでついてこさせてもらたのですよ。

『渡り鳥』の残りの試合。応援しております」

ヘレネは俺に笑いかけてくる。


「ああ。ありがとう」

俺はヘレネに背を向け歩き出す。次の試合はセリアの番だ。

俺はヘレネからもらった服を収納の指輪に入れ、俺は足早に俺の仲間の居る試合場に戻る。




ユウと別れたゼームスは歩きながら昨日のことを思い返していた。

昨日、ユウたちと別れた後のことだ。ゼームスはこのキャバルの中心にある王城に向かった。

距離があろうが、天竜と契約している彼ならばその距離は無いに等しい。

不審者と間違えられ囚われそうになったが、警備の兵の中で俺の顔を覚えている人間がおり、

王の元へ案内される。


「顔を覚えられててよかったよ。ここに最後に来たのは十年ちょい前か」

ゼームスは懐かしげにラムルスに言う。


「いかにゼームス殿であろうと約束もなしに無礼であろう」

ラムルスの付き人が非難の声を上げるもラムルスはそれを全く気にしていない。


「よい。人払いを」

横にいる王の付き人が兵士たちを下げる。


「あなたがやってくるのはいつも突然ですな。ゼームス殿」

ラムルスは穏やかな表情でゼームスに語りかける。


「約束を取り付けなかったのは謝る。ただ、こっちとしても緊急の案件でね」


「してゼームス殿、今日は何の用じゃ?」


「明日、闘技場を貸してもらおうと思ってな」


「あなたは大変なことをさらりと言ってくる。

そうなれば明日の闘技場の予定をすべてキャンセルする必要があるな。理由を聞かせてはもらえるか?」


「竜王国の竜騎士と冒険者チームの『渡り鳥』が一戦交えることになった

戦うとなれば周囲の被害対策は必須。キャバル近郊のどこかが焼野原になる。

観客にも防壁云々の話になるだろうし、そう言う点で闘技場はいろいろと都合がいい」

決闘と聞いてゼームスが真っ先に思い浮かべたのは闘技場だ。

ただし、それを借りるには国の許可が必要になるし、できたとしても一月以上先になる。

それまで竜騎士は待ってはくれない。ならば国のトップと直接交渉すればいい。

そんなわけでゼームスは王城にやってきたというわけだ。


「ほう、今日キャバルを騒がせた竜騎士と冒険者チーム『渡り鳥』がか…」

ラムルス王の耳にはすでに城下で起きた竜騎士とのいざこざは情報は伝わっているらしい。

あれだけ騒げば当然ともいえるが。


「出来なくはないはずだ。王命扱いなら。

穏便にすましたいっつうんなら竜騎士を強引に他国の貴族と解釈しちまって

貴族決闘法を持ち出すのもありだな。ああ、同盟の条約を持ち出すってのも悪くない」


「全くゼームス殿、うちの法律家が泣くぞ」

ラムルス王はそう言って肩を竦める。


「何事も経験だ。というかもう二度とそっちの経験はしたくないけどな」

心底嫌そうな顔でゼームスはつぶやく。


「いいじゃろう。その代わり一つこっちの願いを聞いてほしい」


「金銭か?」


「そんなせこいことは言わぬよ。ただし、それとは別途に闘技場の一日分の賃貸料は払ってもらう」


「ちぇ、ちゃっかりしてんな。それでどんな願いだ?」


「わしをその『渡り鳥』のリーダーと会わせてもらえぬか」


「会わせろって…何するつもりだ?」

ラムルス王は机の中から一通の手紙を取りだす。


「これは少し前に崩御した聖王カルナからの手紙じゃよ」


「カルナからの?」

カルナと言う言葉にゼームスはピクリと反応する。


「その手紙にはこう書かれておる。

黒の太陽が王都の上空に現れる。それは凶兆の兆しである。

その時キャバルには北の地より来たりし、五つの光あり。

今は名もなき光なれど彼らこそが人類最後の希望の灯火なり。

その者たちの力を借り、三番目の子をデリスに送り届けよ。さすればデリス百年の安寧は約束されん」


「…筆跡は紛れもなくカルナのものだ」

ゼームスは目を細めその手紙を凝視する。


「『渡り鳥』の者たちはサルアから来たのだという。

オークを倒したことから考えても希望の灯火とは彼らのことだろう。パーティも五人と符合する。

つまりカルナは彼らがコルベルにやってくることまで予測しておったということだ。

ジャックの奴から話を受けたとき背筋が寒くなったわ」

ゼームスは神妙な顔つきでそれを聞いていた。


「昨年崩御されたデリスの聖王カルナ。噂によれば未来を見通す特殊能力を持っていた。

正直わしも半信半疑だったのじゃが、例の原因不明の魔力爆発を見て確信したよ。

すべては聖王カルナの手の内だとな」

キャバル上空で起きた大規模な魔力爆発。それはユウたちと魔族の一派が戦闘した際に現れたものである。

ユウはその魔力の塊を上空に逸らしたがキャバルの上空で大爆発を引き起こしたのだ。


「それで第三王子ベルフォードの護衛に指名依頼であいつらに依頼したというわけか」


「もしこの書状がなければわしも動こうとしなかっただろうな」


「もしなければ見捨てていたと?」


「子がかわいくない親などあろうか。

どういう選択を取ろうと国内にいる限り、王の子としての立場は付きまとう。

王位継承権を返上したところで暗殺の可能性は消えぬ」


「その件を聞いて俺はもう一つわからないことがある。なぜ王弟派のケルビムはどちらにもつかなかった?

まるで俺には第三王子を王にしようとしたようにも見えるんだが?」


「…ケルビムの奴が第三王子についたとなれば三つの勢力が宮廷内に存在することになり、

今よりも複雑な状況に陥っていたであろうな。

今、異母兄弟のケルビムが何を考えているのかわしにもわからぬ。

皮肉なものだ。…長く続いた平和が我々を遠ざけたのだ。

かつて征服王相手に共に手を携えて戦った血盟で死ぬまでそれは変わらぬと思っていたはずがな」

どこか寂しげにラムルス王は語る。


「その点ではあなたは良くも悪くも全く変わらぬな。わしが若いころに出会った姿形そのままだ」


「おいおい、俺が成長しないと言いたいのか?」


「ほお、成長しておるのか?」


二人はお互いに笑いあった。


「もう少しラムルスと話に興じたいところだが、時間がない。

『渡り鳥』のリーダーとの会合はこっちの方で段取りをつける。明日の予定は空けておけよ」


「わかった」

以上がゼームスがラムルス王と昨日交わしたやり取りである。

ゼームスはその後、ラムルス王と調整し、今回の段取りを取り付けた。



「あいつらが希望の灯火ねえ」

ゼームスは闘技場を歩きながらあの男を思い返す。

通りには人が多く、今までの試合のことや次の試合についての話があちらこちらから聞こえてくる。

それはどれも『渡り鳥』と竜騎士との戦闘についてのものだ。

竜騎士と言えば力の強い竜族の中でもエリートである。

ゼームス自身、人間がその竜騎士相手に互角以上の戦いをするというのは考えていなかった。


ゆえにゼームスもまた『渡り鳥』のメンバーの戦闘能力は異常だと判断する。

今まで出てきた三人を見てもAランク相当もしくはSランクに届きえる力を秘めている。

よくそれだけのメンバーを集められたとも思う。

カルナの言うとおり確かに運命を変えられるかも知れないとは思うが、

ゼームスには今別れたあの男がどうしてもそれほどの者には見えなかった。


「ここまで全てカルナの筋書き通りってわけか。…カルナの奴。俺にも何か残しておけっての」

ゼームスは今はなき友人のことを想い、悪態をつく。


「あ、ゼームスさん。もうすぐ後半戦が始まっちゃいますよ」

実況のグラーナがゼームスを見つけ手を大きく振る。


「さてと。切り替えるとするか。後半戦だな」

ゼームスは両頬を両手で叩くと解説席に戻る。

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