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祭りの始まり~対竜騎士五本勝負~

俺たちは馬車に揺られながら闘技場に向かっていた。

馬車を使うつもりはなかったが、今日の朝は宿の前に馬車が止まっていた。

何でも冒険者ギルドの方で手配したという。俺たちはそれに乗ってキャバルの闘技場までやってきた。


闘技場と呼ばれる場所はかつては剣奴と呼ばれる人間たちが競い合ったと聞くが、

今は商人や貴族のお抱えの剣士を戦わせるなど、貴族同士の争いの代行の様な場所になっている。

戦士として腕がよければ貴族や豪商などのスポンサーがつくことも多い。

ただの文無しから貴族の専属護衛になったという一攫千金の話も多くある。

闘技場というのは彼らにとって自分の力で成り上がるための唯一の場所なのだ。

また一方で賭け試合も盛んにおこなわれており、

公共のギャンブル施設として人々の娯楽として定着しているという。


闘技場に近づくにつれ道行く人の数が次第に多くなっていく。

闘技場に着いたようで馬車が止まり、俺たちは馬車の扉を開けて外に出る。

馬車から降りた俺はその光景に目を見張る。目の前には巨大な建造物があり見上げるほどだ。

距離があるというのにその大きさは相当なものである。

前世で言えば形とその大きさからどこかの球場を俺は連想していた。

もちろん空からキャバルの街並みを見たこともあるが近くで見ると想像以上に大きいのがわかる。

滞在したサルア王国の王都カーラーンにもあったが近寄ったことはなかった。


闘技場の周囲には人だかりができている。人々は俺たちに気づくと人垣が二つに割れ、自然と道ができる。

目立ちたくない俺からすればその場で頭を抱えたくなるような光景である。

ただ、気圧されていると思われるのは嫌なので俺は何事ように堂々とその真ん中を歩いていく。


「見ろよあれ、今日闘技場で竜騎士と戦う新人のAランクだろう」

「あの二人の女性も竜騎士と戦うのかよ」

「リーダーが好色の極悪人だとか」

根も葉もない噂が飛び交っている。俺は横で暴走しかけているオズマを推しとどめる。

…最早かけ試合になっている。帰りたい。本当に帰りたい。


決闘をすることになってそれを興業にするとか、冒険者ギルドの人たちは一体何を考えているのだろう。

多くの人間が俺たちに好奇の目を向けてくるし、縁日のように屋台が道の端にずらりと並んでいる。

屋台の中には冒険者ギルドで見かけた顔もちらほら。これはもう興業と言ってもいい。

…ゼームスはともかく、ジャックさん、あんたまでなにやってるの。

俺は頭を抱え、心の中でツッコミをいれる。


「へー。こんな騒ぎになってるんだな」

物珍しそうにクラスタはきょろきょろしている。


「クラスタ、あんまりきょろきょろするなよ」


「ありゃなにやってるんだ?」

クラスタの指さす先を俺は見る。その光景に俺はガツンと頭を殴られたような衝撃を受ける。

何故ならクラスタの指さす方向には一際目立つ場所に今回の黒幕がいたからだ。


「倍率は今のところ『渡り鳥』が3.7で竜騎士が1.5だ。

観客席チケット付き賭け券も残りわずか。世紀の対決、見ないと損するよ。

ちなみにパンフレットは銅貨三枚ね」

大勢に囲まれ声を張り上げている男。今回ここまで話を大きくしやがった張本人、ゼームスだ。

彼は数人の売り子とともに何やら売りさばいている。

彼は昨日竜騎士を追い払った姿は何処へやら、派手なはっぴを着て見事なほどに周囲に溶け込んでいる。

俺はゼームスにテキ屋の兄ちゃんを連想させられる。


「ゼームスさん…」

俺は表情をこわばらせ、ゼームスに近づいていく。

ツッコミどころ満載である。英雄と聞いていたが…何やってるんだこの人は。

俺は彼の売っている商品をちらりと見る。

そこには竜騎士と俺たちの姿が描かれたパンフレットが山のように置かれている。


ゼームスさん、一日でよくここまで…。俺は最早乾いた笑いしか出てこない。


「よ、お前らか。今日はがんばれよ」

けろりと悪びれる様子もなくゼームス。手にはメガホン、頭には鉢巻をつけている。

めちゃくちゃ有名な英雄らしいが、この姿に品格も品位も威厳もひったくれも感じない。


「…よく闘技場を借りられましたね」

商品を見ながらセリアがゼームスに聞く。


「はっは、そりゃ、伝手があったからな」


「何でまたこんな場所に…」

俺は恨みがましくゼームスを見る。


竜騎士ドラグナー相手じゃ、周囲に被害を与えちまう。

かといって近場でやるには広い場所なんてあんまりねえからなぁ」

ゼームスは俺の恨みの籠った視線を全く気にしてない。


「だから闘技場を貸し切ったと…」


「ここなら大抵のことが起きても大丈夫だしな。

ただ闘技場を借りるにあたってただってわけにもいかねしな。こうして少しでも元を取っている」

ゼームスはそう言って手にしている賭け券を見せてくる。その様に俺は軽い眩暈を感じた。

少し人目があるどころではない。もはやこれは興業のレベルだ。

俺はゼームスにいいように丸め込まれたということらしい。


「このパンフレット一部もらおうか」


「あ、私も」

俺とゼームスが話している脇でエリスとセリアが記念にとパンフレットを購入していた。


「毎度。にしてもお前ら、緊張してるようには見えないな。いい傾向だ」

腕を組んで人懐っこい笑みでゼームス。あんたが言うなと俺は内心で叫ぶ。


「ユウ、中休みに少し時間空けておけよ。少しばかり用事がある」


「へ?ああ?」

いきなりゼームスから神妙な顔つきで言われ、俺は面食らう。


「兄ちゃん、竜騎士の方に銀貨二枚な」


「お、毎度あり」

ゼームスは人懐っこい笑みを浮かべ対応している。

俺の中でゼームスのイメージが一瞬でストップ安でしたよ。



気を取り直して俺たちはゼームスと別れ闘技場の方向へ歩く。

そこへ俺たちの前に爺さんが数名の人相の悪い男たちを引き連れやってくる。


「ガルトハンマだ」

有名な男たちらしく周囲が噂している。かなり有名な存在らしい。

俺はその先頭に立つ爺さんの顔に心当たりがあった。

ベルガを護衛していた時に立ち寄ったラータの街で狙撃してきた爺さんだ。

その一団は俺たちの前にやってくる。


「わしは冒険者チーム『ガルトハンマ』を率いるガレリアという」


「俺はユウ。『渡り鳥』のリーダーだ」

自己紹介してきたので俺も礼儀として返す。

俺たちにわざわざ話しかけてきたのは前回の依頼の恨み言でも言いに来たぐらいしか考えられない。

俺は内心身構えていたが、次のガレリアの一言でそれは杞憂だったと知る。


「ラータの街の一件はすまんかった」

ガレリアたちは俺たちにそう言い頭を下げた。


「どうやったかは知らんがお主らがアレをどうにかしてくれねば街に被害が出るところじゃった」

ガレリアは頭を下げてくる。いきなりの予想外の行動に俺は固まる。

アレと言うのは岩の様なものを投射してきたものだろう。

任務が終わった後、収納の指輪にしまって森の中で出したところ、大きめのクレーターができた。

あれが街の中で使われていれば結構な被害が出ていただろう。

いきなり頭を下げられ、俺がどう返すか迷っていると横からエリスがガレリアに声をかける。


「宿を爆破したのはあなたたちだな?犠牲が出ると思わなかったのか?」

エリスは冷ややかにガレリアに問う。


「あんたらの泊まった部屋は爆破したが他は無事じゃよ。

ラータの領主には事前に話を通しておるし、宿には多少の見舞金を送っておる」


「…そうなんだ」

俺は呆気にとられる。これがベテラン冒険者の根回しという奴だろうか。


「わしらにも暗黙のルールはある。冒険者の本業は魔物退治じゃ。

関係ない人々を巻き込むのはそれから逸脱した行為でもあるし、本来なら許されん」

俺はエリスに視線を向けるとエリスもまた複雑な表情をしていた。


「さて、今日はわしらを出し抜いたお主らの力を見せてもらうとしよう。期待しておるぞ」

ガレリアはそう言うと俺たちに賭けてある賭け券をちらり見せ、仲間を引き連れ観客席に向かう。

『ガルトハンマ』、意外といい人たちっぽくて拍子抜けした。

冒険者をしていくのなら無関係ではないだろう。多かれ少なかれ関わり合いになることもありそうだ。



俺たちはさらに闘技場の方へ進んでいくととそこにはリティさんが俺たちを待っていた。


「時間通りですね。待合室に案内します」

リティは手にした懐中時計を見て俺たちに言う。


「そうなる様に馬車まで手配したんでしょ」

俺は嘆息交じりにリティにそう言う。


「ジャックの話では逃げられないための保険だそうです」

なるほど逃げるという選択肢もあったか。間違いなく竜族と冒険者ギルドに追われることになるが。


「それでその手配した当人は?」

はじまるまえに一言何か言ってやらないと気が済まない。

昨日、廊下から聞こえてきた声からこれはジャックも絡んでいると予想がつく。


「…少し用事がありまして」

リティさんは言いづらそうにしている。

ジャックさん、終わったら絶対問い詰める。俺は心に誓った。

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